2016年3月27日日曜日

映画『恋人たち』

2015年 監督:橋口亮輔
製作国:日本
at ギンレイホール




これは、名作すぎる。
特にある登場人物がうんこ座りでたばこふかしながら野ションして、たばこの火をおもむろに地面に持っていって消した「ジュッ」っていう音でこの映画は僕の中で殿堂入りした。

過去の傷を引きずったり、家庭に縛られて鬱屈していったり、と悩みをかかえながら毎日を生きる人たちの群像劇。
もう、なんというか日常的すぎるというか、リアルすぎるというか、そのリアルってやつがリアルっぽいどころか嫌悪感まで抱きそうなほどの真に迫ったリアルで、他の映画がすべて上辺を綺麗に取り繕った偽者にすら思えてくる。
予告編にもあるけど、常にいらいらして高圧的に当り散らす弁当屋のおかみとかさ。
このおかみは物語の最初の方にしか出てこないくせにここで一気に引き込むよね。
おかみだけじゃなくてそれをにこにこなだめる夫、そしておかみに理不尽にどなられる業者の男なんかもリアルすぎて怖い。
この業者の男藤田(光石研)は愚鈍そうな人物として登場したくせにかなりのアウトローだったりする。

主要な話の軸は主に二つで、一つは通り魔に妻を殺された男篠塚(篠原篤)を中心とした話。
橋梁点検をする職に付いているが、いまだに立ち直れずに日々を生きている。
生活は厳しく健康保険もろくに払えない。
医者の高圧的な一言「払いなさいよ」。こんな口の利き方する医者がいたらぶんなぐりそうになるよな。

もう一つは夫と姑の3人で暮らす主婦の高橋(成嶋瞳子)を中心とした話。
もう台所のごちゃっとした雰囲気(決して汚いわけじゃない)に嫌悪感を抱いてしまったが、そんなもんは序の口。
この高橋という役柄とそれを演じた成嶋瞳子がとにかく凄い。
いい具合の不細工加減からにじみ出る熟して朽ちかけはじめそうな体臭がこちらまで漂ってきそうだ。
(あれっ、ほめているつもりが恐ろしい悪口になっている気がする・・)
家庭的で夫に尽くし、小説や漫画を書くささやかな趣味を持ち、騙されやすく人のいい、乙女のような心を持った主婦。
にわとりを捕まえようと藤田と一緒にきゃっきゃきゃっきゃやっている様子とか、敬語の使いっぷりとか、凄まじいまでの攻撃力だ。

この二つの他には弁護士四ノ宮(池田良)を中心とした話もある。
この細身で情の薄そうな四ノ宮が、見た目どおりの嫌なやつなんだな。
こんな嫌な奴だけどこいつもまた偏見からくる理不尽に打ちのめされる。
生きるのはつらいね。

脇役でいえば黒田大輔演じるその名も黒田大輔が印象深い。
「あなたともっと話したいと思うよ」
隻腕という役柄。

保険課の職員を演じた山中崇も嫌な感じ。
そういえばこの職員が出てくるシーンで
「それじゃああなたの胸先三寸で決まるということですか?」
「そうです」
みたいな篠塚とのやりとりがあって、篠塚って一応学が無い設定だから胸先三寸っていう誤用を使っているのかと思いながらもそもそも学が無いのであればこの言葉すら知らないんじゃないかとも思うし、そういうさじ加減がなんか絶妙だなと思う。

篠塚の会社の後輩も強烈だった。
「っすよ」という敬語の使い方をするけどちゃらい系じゃない短髪の小男で、いかにもお調子ものといった感じ。
こういう後輩苦手だわ~。

映画『あん』

2015年 監督:河瀬直美
製作国:日本
at ギンレイホール




ハンセン病が題材になっているものの、これでもかと前面に押し出しているわけでもないので、すんなり見ることができる。
映像の陰影が美しくてなかなか見とれる。桜は綺麗だなぁ。
「ドラ焼きいかがですかぁー!」
樹木希林と永瀬正敏が安定した存在感を見せる。
脇役には市原悦子や水野美紀、浅田美代子等。
そして物語上も重要なつなぎとなるワカナ役に内田伽羅。
オールバックにしている少女って大抵自分の顔がかわいいと勘違いしている奴だと小学生の頃に悟ったんだけど、この子ならオールバックも許せる。
きりっとした潔い整った顔立ちはオールバックで十二分に映える。
樹木希林の孫らしい。
モックンに似たんだね。

河瀬直美ってなんだかんだで『萌の朱雀』以降一本も見ていなかったな。

2016年3月20日日曜日

映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』

2014年 監督:セオドア・メルフィ
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




ひねくれもののオヤジといじめられっ子の交流を描いたハートウォーミングコメディ。
と書くとくそつまらなさそうだけど、まあ普通に面白かった。
主演ビル・マーレイだしね。
あの女性がナオミ・ワッツだったんだと今知った。

映画『エール!』

2014年 監督:エリック・ラルティゴ
製作国:フランス
at ギンレイホール




田舎町で酪農を営むベリエ家は、長女のポーラ(ルアンヌ・エメラ)を除いて全員耳が聞こえない。
家族内なら手話で事足りるが、手話のできない人たちと話すときにはポーラは大活躍する。
そんなポーラは実は歌の才能があってパリの音楽学校のオーディションを勧められるが、家族を置いていけない葛藤に苦しむ。

なんか凄い面白かった。
他愛の無いストーリーなのに時にどぎつく時に笑え、そしてほっこりする。
で、なにより主演のルアンヌ・エメラが可愛すぎる。
顔の造形自体はそんなでもないんだけど役柄もあってかとにかくかわいい。
生命力にあふれた野性味の強い顔と優しい愛情の深さ。
そして赤いミニスカートから伸びた昔のアニメのような大根足!
ルアンヌ・エメラはフランスの歌のオーディション番組で歌手デビュー後、本作が映画デビューらしい。

2016年3月6日日曜日

映画『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』

2014年 監督:ヴィム・ヴェンダース,ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
製作国:フランス/ブラジル/イタリア
at ギンレイホール




こっちはこっちで凄いドキュメンタリーだな。
セバスチャン・サルガドっていう人物と彼が追ってきた世界が圧倒的に訴えてくる。
写真がとにかく訴えてくる。
しかもセバスチャン・サルガド本人の解説つきで紹介されるのはかなり贅沢な事なんじゃないだろうか。
映像表現はどちらかというと控えめにして写真をメインに据えている印象だけど、彼が見てきたもの、彼が考えてきたこと、彼の人生が濃厚に詰まった映画になっている。
ある人物を取り上げて半生を映画化、とかってよくあるけど、生きていて過去の写真や映像があるならドキュメンタリーが一番いいよな。

映画『真珠のボタン』

2014年 監督:パトリシオ・グスマン
製作国:フランス/チリ/スペイン
at ギンレイホール




前作と同様に宇宙とピノチェト独裁政権時代の話が出てくるが、話の中心は水の遊動民(ノマド)になっている。
映像も前作は光がテーマっぽかったが、今回は水(氷含む)になっている。
水、いいよね。水の音もいいし、いつまでも見ていられる。
チリの過去は先住民の大虐殺まで遡る。
もう本当にいつでも虐殺、拷問しているなぁ。

時間や空間の概念がふっとびつつあるので、タイトルの真珠のボタンはそんなつながり方するのか、と一瞬意味が分からず混乱した後にじわじわ来た。