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![トウキョウソナタ [DVD]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/319S0Khqq7L.jpg)
是枝裕和の『歩いても 歩いても』は小津、成瀬などのホームドラマの系譜だったが、黒沢清の『トウキョウソナタ』は森田芳光の『家族ゲーム』に近い。
父佐々木竜平(香川照之)。
母佐々木恵(小泉今日子)。
長男佐々木貴(小柳友)。
次男佐々木健二(井之脇海)。
の4人家族。
線路近くの一軒家で暮らす一般的な家庭。
一般的だからこそ表出しない不協和音が潜む。
実は今時珍しい家父長制の家族だったり、長男がアメリカ軍に入隊すると言い出したりとちょっと一般的では無さそうな面が次第に現れてくるんだけど、それよりも後半怒涛のごとく押し寄せる一般的でない事件にびびる。
もう作品のジャンルが変わっているからね。
(そういえば『ドッペルゲンガー』も後半から一転してチープなロードムービーになったよな)
家族各々に降りかかった事件は各々の胸に刻んで家族のいるホームへと帰っていく。
帰る場所がある、待っている家族がいる、それ以上は無くて、自分が家族を支えている、守っている、とかいう前に家族一人一人の心は誰にも侵害されずに自立している。
なんか結構安心して見れたな。
コメディチックで楽しいし不安定なところが刺激的だし。
次男が友達と一緒に親から逃げているシーンとか『どこまでもいこう』みたいな良質の子供映画見ているようだし、妻の逃避行はロードムービーだし、父の取得物はサスペンスだし。
でも全体は家族映画でホームに優しく帰結するという。
「君にはピアノの才能があります」という詐欺っぽい棒読みの非現実的な事実はそのままファンタジーとなり、こいつもまた素晴らしく家族に帰結するんだな。
ピアノ始めて数ヶ月でドビュッシーの『月の光』を弾きこなせるわけないじゃんと思いつつも、演奏とシーンが素晴らしければそれでいいと思える。
それにしても健二役の井之脇海君が本当に弾いているみたいに見えた。
小学生ピアニストを俳優に起用したのだろうかと思って調べてみたら、ちょっとピアノを弾けるという程度でシーンは弾き真似だったらしい。
すごい子役だなぁ。『イエスタデイズ』の原田夏希のピアノシーンは明らかに弾いてなかったよ。編集もそれっぽくカット割して雰囲気を盛り上げているのが胡散臭くて。
小泉今日子はここ数年映画に出まくっている。
アイドル全盛だった頃のキョンキョンはよく知らないのだけど、今はトップレベルの女優さんだな。
夕飯作ったけど夫の竜平が帰ってくるのを待っているうちにソファで寝てしまった恵が、竜平が帰ってきた後の「飯は食ってきた」という無残な一言に動揺もせず、代わりにねっころがったまま両手を天井に向かって差し出し「お願い引っ張って」と言うシーンがいい。
うちの母も昔よく言っていた。
映画では恵の声が聞こえなかったのか画面の奥で竜平は無視してすーっと去っていってしまい、伸ばされた両手だけがむなしく残るのね。
「誰か私を引っ張って・・・」
ちなみに映画は大企業の総務部長である父が中国オフショアの導入によりリストラされるところから始まる。
撮影当時はまだ景気がよかったはずだが、今見るとここだけかなり現実的。