2010年4月30日金曜日

映画『シリアの花嫁』

2004年 監督:エラン・リクリス
at ギンレイホール


シリアの花嫁 [DVD]

今回のプログラムはイスラエル特集らしい。
イスラエルのゴラン高原は元々シリア領だったが1967年の第三次中東戦争以来イスラム領となっている。
この地の人々はイスラエルの市民権を得ることもできるのだが、住民の多くは「無国籍者」として暮らしていた。
軍事境界線で引き裂かれたシリアにいる肉親とは国境の「叫びの丘」と呼ばれる場所で拡声器を使用して逢うことくらいしかできなかった。
このゴラン高原のマジュダルシャムス村の女性モナはシリアの人気タレントの元に嫁ごうとしている。
一度シリア国籍が確定したらマジュダルシャムス村の家族とは二度と会えなくなるので今生の別れとなる結婚式。

いやぁ、本当に面白い。
まあいろいろ中東事情が背景にあるのだけど、これは良質の家族ドラマになっている。
家族一人一人が存在感があるので登場人物がたくさんいてもすっきり理解できるという巧みさ。

父ハメッドは親シリア派で政治活動をしており、投獄経験もあり保護観察中で警察から睨まれている。
結婚式当日は折りしもシリアの新大統領を支持するデモが行われ、イスラエル警察ではハメッドを軍事境界線へ行かせるなというお達しまで出ている。
娘と今生の別れになるかもしれないのに最後まで見送れないという問題。

長男ハテムは将来を有望視された秀才だがロシア人と結婚して家を勘当されていた。
妹の結婚式に出席するため、ハテムは妻と金髪の子供を連れて8年ぶりに帰郷した。
しかし村の長老達はハメッドにあの裏切り者のハテムを受け入れるなら私達は結婚式に出ないと言う。
妹との最後の別れだから許して欲しいというハメッドの願いも聞き入れられず交渉は決裂する。
ハメッドはハテムをもちろん大事に思っているのだが様々な事情で8年ぶりの再会にも一切言葉を交わさずぎくしゃく。

次男マルワンはイタリアでビジネス(怪しい)をしているのだが結婚式のため帰郷。
前歯に隙間がありかなり強烈なキャラクター。

長女アマルは結婚して娘二人がいる。
保守的な夫アミンとの関係は冷え切っている。
子供達も大きくなったことだし、妹モナの結婚という契機に大学進学という夢を果たそうとしている。

他、でぶのカメラマンとか赤十字のキュートな女性とか結婚相手のタレルとかイスラエルの係官とか警察、等など印象深い人たちが次々と現れる。

政治背景の暗さを吹き飛ばす底抜けの明るさがあるとか皆が個性的なキャラクターであるとかそういうわけじゃないんだな。
皆いたって普通でいたって真面目。(マルワンは普通じゃないかもしれないけど)
普通なのに印象深いのはそれぞれ問題や悩みを抱えながらも前に進もうとしているからかな。

主役は結婚するモナだと思っていたけど、長女のアマルっぽい。
この重要な役どころを演じた人はヒアム・アッバスっていう女優さん。
ものすごく上手い人だな。
娘達が父親でなく母親の後を付いていくシーンでは俺も付いていきそうになる。
ヒアム・アッバスはイスラエル出身で国際的に活躍している女優さんらしい。
『画家と庭師とカンパーニュ』などに出演。

映画『戦場でワルツを』

2008年 監督:アリ・フォルマン
at ギンレイホール


戦場でワルツを 完全版 [DVD]

銃弾が降り注ぐ中、ショパンのワルツ第7番にのせてもつれるような(踊っているような)ステップを踏んで機関銃を乱射する予告編を見たときに思わず泣いてしまって楽しみにしていた映画。
本編でそのシーンを見ると予告編ほどではなかったけどなかなか素晴らしいシーンです。

イスラエル人のアリ・フォルマン監督がレバノン侵攻時にイスラエル軍の兵士として従軍したときの記憶を辿る物語。
ドキュメンタリーだけどアニメーションになっている。
切り絵アニメのようでCGも使っていて独特なタッチと動き。
全体的な色合いはセピア色の印象。
シンプルな線なのに一瞬実写かと間違えるときが何度かある。
でもやはりアニメはアニメなので、質の高いアニメーション映画として見ていたのだけど、ラストはちょっと衝撃だった。
衝撃っていうのはストーリーとしてじゃなくて、監督の意図的な仕掛けによりその瞬間「これはドキュメンタリーだ」というのをがつんと提示されるから。
アニメーションだとドキュメンタリー、実話、だったことをつい忘れてしまうのだけど、一気に現実に引き戻されて、それまで見てきたアニメーションシーンの実際の光景が想像されると、全てが恐ろしくなってくる。

2008年のアカデミー賞外国語映画賞で『おくりびと』と争った作品らしい。

2010年4月11日日曜日

映画『ジュリー&ジュリア』

2009年 監督:ノーラ・エフロン
at ギンレイホール


ジュリー&ジュリア [DVD]

現代と50年位前の二つのパートに分かれる。
現代パートの主人公はOLのジュリー・パウエル(エイミー・アダムス)で、昔パートは料理研究家のジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)。
OLジュリーは今の生活を変えようと、ジュリアの料理本に出てくる524のレシピを1年間で全て作るというブログを始める。
そのジュリーの悪戦苦闘する様子と、ただの主婦だったジュリアが料理本を出版するまでが交互に描かれていく。

現代パートは本当どうでもよい感じのお話なんだけど、昔パートの方はなかなか面白い。
何が面白いってジュリアを演じるメリル・ストリープが最高です。
ジュリアという人自体がお茶目で可愛らしいおばちゃんなんだけど、メリル・ストリープがこれまた上手いこと演じているんだわ。

実話に基づく。
ジュリー・パウエルはそのまま作家になったようだけど、売れてるのかな。

映画『シャネル&ストラヴィンスキー』

2009年 監督:ヤン・クーネン
at ギンレイホール


シャネル&ストラヴィンスキー [DVD]

オープニングクレジットの万華鏡のように複雑に変化しながら現れては消えていく文様とクレジットに思わず見とれる。
これだけで相当な製作時間を費やしているはず。

ストラヴィンスキーとシャネルの情事物語。
淡々と進んで淡々と終わるので既に忘れかけているが、狂いそうな激情もあふれ出す情熱も、しっとりした映像に生々しく焼き付けているところが印象深い。
ストーリーの概略を書こうとしたけど特に概略ってほどのものもないなぁ。

ストラヴィンスキーといえば高校のとき友達が好きで聴いていて、人が好きなものに興味が無かった僕はドビュッシーからいろいろすっ飛ばして武満徹やメシアンを聴いていたのだけど、久しぶりに「春の祭典」を聴くとなかなか面白い。懐かしくて。
あのリズムに合わせたダンスも感動的。
「春の祭典」初演時の騒動の様子も再現されている。

監督は『ドーベルマン』以来音沙汰の無かったヤン・クーネン。

※一度書いたやつが投稿時にネットワークエラーだかなんだかで消えてしまって書き直した。ショック。