1999年 監督:是枝裕和
BSプレミアム 録画
中国の公民館みたいな場所にぞろぞろと爺さん婆さん達がやってくる。
すると、なにやら個人面接が始まり、職員が言うには、「もう状況はお分かりになっていると思いますが、あなたはもうお亡くなりになりました。」
一週間だけ滞在するこの三途の川の一歩手前のような世界で、死者達は自分の人生の中で一番印象に残っている大切な思い出を一つ選び、それを職員達が可能な限り再現する。
死者達はその再現された思い出一つを胸に抱えて、あの世へと旅立つのだという。
観たいなと思いつつ先延ばしにしている内、いつのまにか12年前の映画になってしまったのか。
ストーリーもよく知らないまま見始めたので、このファンタジーな設定は少し衝撃だったけど、設定よりも驚くのは、ドキュメンタリー手法と物静かな展開のおかげで、本当にドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥ること。
脚本上どこまでセリフが用意されているのかは知らないが、結構役者自身の本当の思い出が語られているんじゃないかと思える。
人物達のリアルさに対して、彼らがいる世界はありえない非現実的な世界なのだから、作品全体として対極のものが同居している不思議な世界だ。
舞台となる面接会場も、大正時代の建物、または日本じゃなくてアジアのどこかの建物、というような国籍も時代も不明なものになっている。
明らかに不思議な建物、不思議な世界というわけではなくて、やはりどこかにある(あった)だろう現実的な建物なので、その微妙に曖昧な建物がさらに現実非現実の境目の緩さを重層的なものにする。
基本的に自然光だけで撮っているのかな。
喋っている途中で太陽が雲から現れて光源が強くなって顔がくっきり映ったかと思えば、また雲に隠れて部屋全体が薄暗くなったり。
こういうありのままの変化が非常にいい。しかも死後の世界で。
さて、小田エリカです。
なんということでしょう。小田エリカ。
なんで知らなかったんだろう。小田エリカ。
凄くいい雰囲気を持った女優さんじゃないですか。小田エリカ。
どんなに有名な活躍をしているのかと思って調べてみたら、どうもパッとしていないらしい。
でも青山真治の映画にも出ているな。
そこそこ活躍しているのか。
滅茶苦茶美人というわけじゃないけど、きりっとした眉が涼やか。
香川京子さんの若い頃に比べると小田エリカを選ぶでしょう。
香川京子さんの若い頃を演じた石堂夏央となら迷うけど。
ラストシーンは泣ける。
泣く理由が自分でもよく分からないのだが、とにかくラストシーンからエンドロールに移るときにこみ上げてきて泣いてしまったのだからしょうがない。
毎週何人もの人達の人生を垣間見て、送り出していく。(なんて濃い職業だろう)
そして一人一人の人生の重みが通り抜けていくのと同時に、何も変わらないはずだった職員の中でも出会いと別れが訪れる。
不思議な世界で起こる出来事は現実世界と何も変わらない。
別れの辛さが前向きな歩みの意思へと変化するのが自然に美しいと思える。
壮大な時の流れの中、数多の人の人生が過ぎっていく世界で、この単純ともいえる変化に全てが凝縮されているようで感動したのかもしれない。
いや、今見返してみると単にエンドロールへ行く切り方が絶妙だったからっていうだけかもしれない。
死者の中でも、セスナでの飛行を想い出に選んだ男がなんか強烈だった。
自分の知識を楯に暗に相手の無知を非難する言動がリアルすぎる。
そしてちょっと表情に狂気があって怖い。
作品上どうでもいいことだけど、以下疑問点をいくつか。
・この世界で死んだらどうなる?
・この世界は太陽も月もあり、季節も存在しているようだが、地球上のどこかにあるのか?生者には見えない?
・飯は?
・職員は現実世界との行き来ができるようだが、家族とはお盆しか会っちゃいけないルールがある?偶然会ったら?
・死んでこの世界に来て、一週間でまた死ぬって何で皆普通に受け入れられるのか?この世界で生きていくことを選べるならそうしたいじゃん。ただ、終わることの無い無間地獄が続くだけとも言えるが。
・この世界には一体何人の人が住んでいるのか?職員以外にも撮影スタッフや役者っぽい人達までいるし。
・年を取らない世界で子供は生まれるのか?
たった12年の間に由利徹、原ひさ子、谷啓と逝去し、昔見たドラマで主演の深田恭子よりも断然可愛いと思っていた吉野紗香はなんか変なことになり、小田エリカはテレビドラマなんかですっぽんぽんになり、さらに小田エリカはエリカと改名してアジャ・コングとかぶる、という時の流れをひしひしと実感する。
ちょい役で木村多江や篠崎誠が出ているらしい。
木村多江は楽団の練習で一瞬映るのを見つけたけど、篠崎誠はどこに出ていたんだろう。あまり顔を知らないけどさ。
「自分の人生の中で一番印象に残っている大切な思い出」か。
うーん。ぱっと思い浮かばない。