2010年 監督:アッバス・キアロスタミ
製作国:フランス/イタリア
at ギンレイホール
何も知らないで見てこれがキアロスタミ監督作だと分かる人がいるだろうか。
舞台はイタリアだし主演の二人、特にジュリエット・ビノシュが喋る喋る。
脚本だけ見れば恋愛論を中心に議論を戦わせる男女なんてエリック・ロメールが撮っているのかと思うくらい。
キアロスタミの映画自体観るのは『桜桃の味』以来だから僕が分からないだけかもしれないけど。。
英国の作家ジェームズ(ウィリアム・シメル)は新作『贋作』の発売記念講演を行うためイタリアトスカーナに来ていた。
講演を聞きにきたフランス人でイタリア在住でギャラリーを営む女主人(ジュリエット・ビノシュ)は、彼の通訳にメモを渡して講演を途中退出する。
やがて彼女のギャラリーを訪れたジェームスは彼女の案内で近くの名所をドライブで散策することにする。
とあるカフェで夫婦と間違われた二人はそのまま成り行きで結婚15年目の倦怠期のような夫婦を演じ始める。
寄り添い、喧嘩し、思い出を懐かしく語る初対面の贋作の夫婦。
いや、実は初対面かどうかも怪しい。
英語しか喋れないと思ったジェームズが流暢にフランス語喋ったり、髭を二日置きに剃る習慣を女が知っていたり等々設定は極めて曖昧だから。
といってもカフェに入った辺りからカフェの女主人とジュリエット・ビノシュが軽妙なやりとりを始めるまでの間爆睡したので見逃しただけかもしれないけどさ。
本物のコピー、偽者、という概念を二人の会話の議論で繰り広げていたかと思うと、この映画、そして映画そのものにまでいつのまにか広がっているから面白い。
冒頭から引き込まれる。
テーブルとその上のマイクだけの誰もいない固定ショットにタイトルロールが流れるのだけど、人はいっぱいいるらしくざわざわとした話し声だけが聞こえる。
こういうときエキストラ達はどういう会話をするのだろう。
これから始まる講演についての話か全く関係ない世間話か。
何を喋っているのかさっぱり分からないけど、咳払いが聞こえたりしてざわざわした雰囲気が音だけでこれから始まる講演、そしてこの映画に対する高揚感を起こさせてくれる。
ジュリエット・ビノシュが演じるギャラリーの女主人は、なんやかんや議論を吹っかけてくるのでかなりうざったく、ジェームズも閉口してしまう。
感情の波が激しくて、怒ってたかと思うと窓越しに見える結婚パーティの様子を首を伸ばして見て表情が一気にほころんだりする。
この時のうれしそうな女主人の表情見たら愛しくてたまらなってきた。
小津ばりの切り替えしショットでの二人のやり取りは次第に滑稽味を帯びてきて、声を出してフフっと笑ってしまったのだが、その瞬間観客の誰も笑っていなかったようなので少し恥ずかしかった。
相手役のウィリアム・シメルはオペラ歌手なんだそうだ。