2003年 監督:古厩智之
BS2 録画
がんばれロボコンじゃないです。ロボットコンテストのロボコンです。
主演長澤まさみ。
落ちこぼれ生徒の里美(長澤まさみ)は担任の図師先生(鈴木一真)から居残り授業を命じられる。
可愛らしく、そして破壊的に拒否した里美に図師先生は代替として「ロボット部に入部してロボコンに出場する」という条件を提示する。
第2ロボット部に行く里美。
作戦と製作を担当する四谷部長(伊藤淳史)は頼りなさげ。
設計を担当する航一(小栗旬)は自他共に認める天才だが他人に興味が全くない。
操縦、製作を担当する天邪鬼竹内和義(塚本高史)はちゃらちゃらした不良でユーレイ部員。
そしてユーレイ部員竹内の代わりに操縦を担当することになった里美。
戸惑いながらもコントローラを手にした里美は次第にロボットを、そして周りの駄目男どもを操縦していく。
ロボコンを通して一人一人成長していく爽やかな青春映画。
・・・ただの青春映画じゃないけどな。
長澤まさみが可愛すぎる。
この可愛い長澤まさみが演じる里美はさぞやもてもてだろうと思いきや、なにこの不思議な世界は。
里美と初対面した部長、そして航一、共に里美を見てもふつーな反応。
男だけの部に女の子(しかも可愛い)が入ることに何の感動もない反応。
愛情の対象はロボットにしか向かず、女の子に興味が無いということだろうか。
しかしやっぱりおかしい。
時折里美にちょっかいを出してきていつのまにか部に復帰しているユーレイ部員竹内にしても、里美が女の子だからちょっかいを出してきたという感じではなくて、ユーレイ部員ながらも部がなんとなく気になってちょっかい出している感じだし。
第1ロボット部の男どもも里美を見ても無反応。
ロボコンの出場選手に女の子は里美だけだったのだが、試合解説者がそのことに一言も触れない。
里美は航一と親密になるが恋愛なのかなんなのか分からない。
この快活な少女は姿かたちもしゃべり方も間違いなく女の子でありながら、周囲からはまるで男子学生の一人かのように接しられている。
この映画の中では女の子であって女の子でない。異性であって異性でない。
魅力的な女の子でありながら周りが彼女を女と認識していない。
しかし里美=長澤まさみの魅力は抑制されるどころか、リミッターを軽々振り切っている。
女の子とはっきり認識されない微妙な立ち位置によるズレが映画の中で常に陥没点となり、細くて長い手足ですらっと佇む長澤まさみが結果的に全ての男を優しく包み込んで導いていくというその姿が神々しくさえある。
里美を女としてほったらかしっぱなしの部員だが、航一君とは何気にいい関係になる。
いい関係といってもまるで男友達かのように親密になっていったと見えなくも無いのだが。
合宿地の浜辺で里美と航一が二人並んで座って悩みを打ち明けあったりするシーンがあるけど、先に宿に戻った里美に竹内が声をかける。
「ああ、またあいつにバシッと言ってくれた?あいつ最近へこんでいるからチャンスだべ」
ひやかしたりおちょくったりが得意の竹内だが、里美と航一が浜辺で二人仲良く座って談笑していたことなどは冷やかしの対象にはならないらしい。
竹内の視点が里美と航一、男と女という関係性を微妙にさせる。
竹内の言葉を聞いた里美は竹内を蹴っ飛ばした後「言いたいことがあるんなら自分で言いなよ!」と怒鳴りつける。
浜辺での青春恋愛っぽいシーンは恋の展開にはつながらず、教祖長澤まさみに導かれた竹内と航一の成長譚につながっていく。
そしてこのエピソード中部長はうつ伏せて死んだように眠ったまんま。
少なくとも竹内と部長は女としての里美に恐ろしいほど無関心なのだ。
この無関心の徹底ぶりはある程度里美と仲良くなっている航一も里美を女の子として見ていないのではないかと思わせるのに十分な説得力を発揮する。
よくわからない航一と里美の関係だが、二人の関係ががっしりかみ合う瞬間が訪れる。
それは物語の山場で勝利を決めた瞬間で、その瞬間航一は操縦者里美に全力で走って駆け寄り、勝利を喜びながらがっしり抱き合う。
おお、観客がたくさんいる中で遂に関係がはっきりしたかと思いきや、部長と竹内もお互い抱き合って喜んでいる。
これってただ勝利の喜びで抱き合っただけ?男友達の感覚で。
そして相変わらず部長と竹内は航一と里美が抱き合っていることに異常なまでに無関心なのであった。
女としての里美に無関心というのはストーリーで言えば合宿→ロボコンとつながる流れの中で着々とチームワークを深めていく展開に特定部員通しの恋愛をからめたりどろどろの三角関係を描いたりしたら確かにテンポが悪くなる。
ただでさえ駄目男どもの成長とチームの結束力が強固になっていく様を短い時間で描かなきゃいけないのだから。
女としての里美が粗末に扱われているとかではなくて、むしろ異性の視線から開放されている里美=長澤まさみは奔放で魅力に溢れていた。
登場人物は里美を女として見ないが、その分反動で観客は里美を女として見る。
撮り方のせいか少女なのに妙にエロティックな長澤まさみを見る。
異常な世界の住人達に紛れ込んだ長澤まさみが世界を切り開いていくその豊かな表情を見る。
ストーリーもよくまとまって面白い。
ポイントポイントで人物の表情をアップで捉えるんだけどその表情が皆雄弁に心情を語っていて上手い。
何かを始めるのが怖くて何もやる気が起きない長澤まさみのアホ面から始まり、強制的に入れられるロボット部。
いきなりリモコンを持たされて戸惑いの表情を浮かべるが初めてロボットを動かした時は嬉しいような自信ないような複雑な苦笑い。
練習試合で負けた悔しさ、そして予選試合を一人楽しく笑いながら観戦して里美のモチベーションは急上昇する。
いきなり入れられたロボット部で一番やる気のなかった里美が今では誰よりも勝ちたいと願う。
里美のやる気が上がった時に露呈する他の部員との急激な温度差。
対戦相手の能力をはっきり認識しながら言わないで黙っているときの部長(伊藤淳史)の表情とか航一君の冷たい無表情とか里美の怒りとか、表情が的確に人物や状況を浮き上がらせていく。
他の部員のやる気のなさに怒った里美はテントの救護所で選手の手当て中だった仲のいい保健の先生(須藤理彩)に不満をぶつける。
先生に「あれぇ~里美はやる気になってたのか~」と見抜かれた里美は黙ってふてくされながらテントの端まで移動して、端でストレッチをしていた参加選手を一瞥してから彼らのそばにしゃがみこむ。
うつむき加減で誰にとも無くつぶやく
「うちの部員達あんなんで楽しいのかな・・・」
独り言のようであり、すぐ傍にいる参加選手に話しかけているようにも取れるつぶやきだが、間髪いれずフレームの外から先生が「ん~?どうだろうね」と答えることで無理やり会話が成立する。
確かにこの場では里美の知り合いは保健の先生しかいないから里美が喋ればそれは先生との会話ということになるのだが、里美と先生との距離が離れていること、先生は里美を背にしていたし里美は先生の方を向いて喋っていなかったこと、そして二人の間にいた4,5人の男の存在が無視されていることに不思議な印象を受ける。
二人の女性の間で存在自体を無視された男達だが、このいささか異常な空間で気づく事実もある。
実はストレッチをしている選手はただの背景ではなく前のシーンでも出てきていた。
この選手達は大会前日に遅くまで作業をしていたチームで、夜食を食べてわいわいやっている姿を見て里美が思わずため息混じりに「いいなぁ」と呟いたチームの選手達。
なんに対してもやる気のなかった里美だが文化祭の前夜のように友達同士で共同作業をしたり一緒に夜食を食べたりといったことが夢だった(後半で里美の口からはっきり語られる)。
この憧れのチーム(自分の夢を体現しているという意味で)の選手の傍で呟くのが「うちの部員達あんなんで楽しいのかな・・・」という台詞。
里美の呟きは憧れのチームに無意識に求めた救いのようにも思える。
しかし言葉は発せられた瞬間に保健の先生の無気力な返答と自チームと憧れのチームとの対比でむなしく虚空に吸い込まれていく。
そして少なくとも里美には存在を認識されていた選手達は、フレーム内に映ってすらいない先生の返答で再び存在が無効化され闇に葬られる。
むなしさの間を置いた後、里美は「負け犬だよ!」と叫んで歩き去るが、この時初めて選手達が里美のほうを見る。まるでそこに誰もいないかのように里美に無関心だった選手達が初めて里美の存在を認識した瞬間。
この映画は「えっ?」と一瞬戸惑うような無視無関心が錯綜するけど、特にこの救護所でのシーンは人物対人物の認識非認識が複雑な入れ子になっていて、崩れ落ちるまでには崩壊していない不安定な揺らぎが感覚を刺激する。
ところで里美と航一以外にもう一組微妙なカップルがいる。
図師先生と保健の先生。鈴木一真と須藤理彩。NHK朝の連続ドラマ「天うらら」のコンビ。
二人の先生は昔から恋人だったのかは知らないが、ラストの方で図師の部屋で朝方二人が下着姿で添い寝しているシーンが登場する。(ロボット型の目覚まし時計は布団から追い出されて)
この映画にしては結構露骨な表現。ラストに近付き何かが変わっている。
この図師の家に里美がやってくる。
玄関に出てきた図師に里美はきらきらと希望に溢れた顔でロボット部への正式入部を申し出る。
図師と里美が会話中、ジャージに着替えた保健の先生が何を思ったか玄関先まで出てきて図師と並ぶ。
うわっ、何考えてんだと思ったけど里美はこの先生同士のスキャンダラスな関係を知っても微塵も動じるどころか満面の笑顔で保健の先生と微笑みあうのであった。
二人の先生の恋仲関係におけるスキャンダルス性は物語の展開上全くどうでもよかった。
それよりも二人が恋仲になっているということがはっきりと示されたことに意味がある。
恋仲が明示されるといった表現の変化の契機はきっと勝利の瞬間の抱擁だろう。里美と航一だけでなく図師と保健の先生も勝利の瞬間抱き合っていた。
図師の家の玄関先で先生二人が並んでいた姿はそのまま里美と航一の二人のその後の関係を暗示する。
駄目男達を導き終えた里美を縛るものはもう何もない。
保健の先生は図師と並んでみせることで里美に優しくエールを送っていたのか・・・
結構面白かったな。