2008年9月23日火曜日

映画『奇跡のシンフォニー』

2007年 監督:カーステン・シェリダン
at ギンレイホール




孤児院で暮らす11歳のエヴァン(フレディ・ハイモア)には不思議な才能が備わっていた。
それは自然の様々な音が全て音楽(旋律)に聞こえるというもの。
その能力は冒頭、麦畑みたいなところの中心でエヴァンが自然の音に耳を澄ませながらタクトを振る真似をするシーンで印象付けられる。
なんだけど、あまりにちゃっちい。
冒頭とはいえカメラが横や上からぐいんぐいん少年を捉える無駄な荘厳さが。
大体なんで自然の音を敏感に感じ取っている少年の画のバックグラウンドに音楽流しちゃうんだ。
タクト振る姿がどこにでもいるただの子供の遊びにしか見えなくなっちゃうじゃん。
とまあそれは置いておいてストーリーの話だけど、少年は自分の中に流れる音楽が両親と繋がる(再会できる)ためにあると信じている。
だから孤児院を抜け出して音楽が導くままに両親を探しに旅立つ。
初めに導かれた音楽は同年代の黒人少年がストリートで弾くギターの音。
黒人少年には音楽で生計を立てる仲間の子供がいっぱいいて、その元締めにはウィザード(ロビン・ウィリアムズ)といううさんくさいおっさんがいる。
※うさんくさいというのはロビン・ウィリアムズがいつものうさんくさい微笑み演技をしているからというだけではなくて、役柄がうさんくさいってことね。
ウィザードと知り合いになるエヴァン。
そして、明け方おもむろにギターをぺしぺし叩いて音楽をかなでるエヴァンを目撃したウィザードは、この子は天才だ=金になる、と目を付けてエヴァンを天才ギター少年として売り出すべく奔走を始める。
でもまあいろいろあってウィザードとも離れ離れになり、見知らぬ駅にひとり降り立ったエヴァンはゴスペルに導かれて教会に。
今度は教会のゴスペル少女に音階をちょろっと教えてもらっただけで自分の内に溢れる音楽を五線紙に猛烈な勢いで記していくという天才ぶりを発揮するエヴァン。
四分音符や八分音符などは教えてもらっていないのにそこは天才なので問題ない。
さらにはいきなりパイプオルガンまで弾いてしまうという天才ぶり。
メロディメーカーであることと楽器の演奏技術は別物だろ、とは言ってはいけない。天才なんだから何でもできる。
・・・簡単なストーリーの概略だけ書こうとしたけど書いたその手でそのまま不満点を書き連ねたくなる衝動を抑えられないのでここで区切る。

話の筋としては、音楽の才能に秀でた孤児の少年が音楽を通して両親(両親もそれぞれチェロ奏者とロック歌手)と再会するというもの。
予告編見た時は、音楽映画でロードムービー、っていうのが面白そうだなと思っていたんだけど。
同じプロットをロシアあたりの監督で撮ったら面白い映画になりそう。(これはアメリカ映画)

少年にここまで常軌を逸した才能を持たせると、自然と神秘的な存在になるんだけど、少年に聖性のようなものは無い。
聖性を強調したら大衆ストーリーにならないから。
エヴァンはおよそありえない天才だけど「現実感のある」子供として他の登場人物からも観客からも認識されなければストーリー上の感動を得られないので。
それなのに、この監督はところどころ意図的に少年に聖性を持たせたりするんだよね。
例えば夜中に誰も知り合いのいない街にぽつんと放り出された少年が不安と恐怖に怯えるでもなく教会から聞こえる音楽に導かれてふらっと協会に立ち入るシーンとか。
ゴスペルソングが響き渡る教会に、誘われるかのように夜中突如現れた色白の謎の美少年なんて神秘的なシチュエーションだし。
でもそういうものは全てその後の音符書き散らしシーンの凄いだろう的なBGMや、ゴスペル少女のモーツァルト並の神童が現れたという騒ぎっぷりで聖性が切り捨てられて正常なストーリーの流れに戻っていくんだけど。
個人的にはこういう特異な能力を持った少年は神秘的な存在のまま世の中をふらふら歩き回ってほしい。
モフセン・マフマルバフの『サイレンス』のように。

音感に秀でた少年が自然の音や街の音から音楽を感じ取る、というその音楽はあくまでメロディーなんだよね。
自然の音を聞いてそれが常にメロディーに変換されるってそれは音楽の才能があるっていうのか?
自然の音にインスピレーションを受けてメロディーを作るならまだしも、常にメロディーに変換されるってことは自然の素の音を聞けないってことになる。メロディーになっちゃうんだし。
だからエヴァンは天才というか悲しい子なんだよ。

ストーリー重視なんだけど突っ込みどころは多々あるのでどうせならもっと無茶苦茶にしてくれれば面白かったのに。
ちなみにエヴァンの両親の恋愛シーンはちょっときつかった。
父親役はジョナサン・リース=マイヤーズ。
ウィザードはエヴァンの両親が初めて会ったあの日に夜の街を流していた奴なのかなぁ。

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