at ギンレイホール
ポー川のひかり [DVD]
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なんて不可解なんだろう。
不可解でエキサイティングな映画を久しぶりに見た気がする。
前回ギンレイに来たときに見た予告編なんかすっかり忘れたのでどんな内容だか曖昧なまま見始めたのだけど、冒頭の映像を見る限りこれはホラー映画?と思う。
このダリオアルジェントのような色合い。
イタリア映画ってみんなこんな色合いだっけと思ってちょっと思い出してみるけど、いやいやそんなことはないと思いながら見続ける。
どこかの古い美術館のようなところで老いた守衛が何か異変を感じて館内を見に行く。
美術館、と思ったけど大学らしい。
古めかしい建物に老人が一人。
「誰かいますか?」と恐る恐る部屋に入るところなんてホラー映画じゃん。
錠前のかかった檻越しに中を覗いた守衛が「なんという事だ!」ジーザスって感じで取り乱して階下に下り電話をかける。
警察がやってきて初めて檻の中を見せてもらえるのだけど、檻の中ではたくさんの古書が開かれた状態で床、そして机に太い釘で打ち付けられていた。
(そもそも図書館のドアがなんて檻なんだろう・・)
犯人探しのミステリーじゃないので犯人はすぐ判明する。
この大学の若き哲学教授だった。
髪ぼさぼさ髭ぼうぼうの教授はオープンカーを運転して田舎を疾走している。
教授は車を乗り捨て、橋の上から上着と金を抜き取った財布を投げ捨て自殺を装う。
そして川のほとりにあった半壊、いや全壊した小屋を住処として隠遁生活を始める。
やがて教授は近くの村人からキリストさんと呼ばれて村人の心の拠り所となっていく。
冒頭の大学から一変、川のほとりはホラーとは一切無縁の穏やかな風景。
穏やかだけど風光明媚ではないところも面白い。
このポー川流域というのは昔からイタリアの芸術家に愛された場所らしいのだけど。
人口なのか川原の砂浜で日光浴する村人のすぐ傍をモトクロスバイクが轟音と砂塵を巻き上げて何台も通り過ぎたり。
大学以外にホラーがあるとすれば教授の無表情さかな。
基本的に怖いくらい無表情で、笑っても目が笑っていないような。
キリストさんだからきっと常人と違う域に達しているのだろう。
こんな感じでもなぜか村人に愛されているので怖くはない。
ただ、最後の方でまた大学が映されるのだけど、そうするとまた一気にホラーの世界に引き込まれる。
ポー川のほとりにやってきた教授に興味を持って積極的にアタックしてくる若い女性ゼリンダがいる。
そんなに美人ではなく、若いといっても妙齢な気もするが、村人が年寄りばかりなので若さが目立つ。
開放的な若さで、下ネタもなんのその。
(そういえば江戸時代はお堅い武家の家庭でも家族ぐるみで下ネタを楽しんで皆で笑っていたらしい)
ゼリンダのはにかみを持った積極的な行動を見ていると純粋だなぁと思う。
ギンレイに来る前に読んでいた藤沢周の小説が不倫の男女のどろどろした都会の駆け引きの話だったから、なおさらそのギャップがまぶしい。
一番不可解なのはラストで、ハッピーエンドでもバッドエンドでもなく、ただ教授の真意がよく分からない。
キリストさんで寓話だからといえば、ありだけど。
泣かせちゃ駄目じゃないか、まったく。
この映画、ちょいちょいずらしてくるから、大きな展開が無いくせに面白い。
監督のエルマンノ・オルミはイタリア映画界の名匠で、もう80近い。
こんな人がいたんだな。
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