2014年3月9日日曜日

映画『父の秘密』

2012年 監督:ミシェル・フランコ
製作国:メキシコ
at ギンレイホール




最近感動が薄いというか動じなくなったというか、映画見た後ココイチでカレー食っている頃には何の映画見たかもすっかり忘れるくらいの体たらくだったのだけど、この映画はちょっと衝撃すぎてこれ書いている今(3週間後)でもよく覚えている。

映画見てこんなに胸糞悪くなったのは初めてだ。
って書くとうまらない映画みたいに思えるけど、その実態は胸糞悪いくせに傑作の部類に入るほど凄い。
勘違いアート映画見ても胸糞悪くなるまではいかないし、ストーリー上嫌な奴が出てきてもそれほど胸糞悪くなることは無い。
一応映画は娯楽でもあるわけだから、観客が不快になるような人物描写を積極的にはやらないっていうのもあるのかな。
で、この映画、もうね、スクリーンの中に飛び込んで登場人物達をぶん殴ってやりたい衝動にかられるほど神経逆撫でてくる。
特に愛すべきマスコットキャラのように登場したデブなんて、俺のアレハンドラちゃんになんてことしてくれるんだ!

アレハンドラがまたいい子なんだわ。
自分の傷も癒えていないのに父親を気遣って。
しかしその結果がこれか!
不器用な父親は自分のことで精一杯で、娘との接し方にも戸惑いを感じているうちに何も気づかぬまま事態は深刻になっていく。
思いやりとすれ違い、って世界の父娘の間に普通に横たわっているものだから、だからこそ悲しい。

映像の方は長回しが多用されていてかなり好みだった。
冒頭の長回しから引き込まれていたのだけど、特にボートのシーンが凄い。
どうやってあのシーンを成功させたんだろう。たぶんダイバーが所定の場所にスタンバイしていたはずだけど、ボートがくるっと回転したときには茫洋とした海が背後に広がるだけで何も目印のようなものすらなかったし。
それにしてもこのシーン、まるでゴミを捨てるみたいに微塵の逡巡も感情も感じられない所作だけど、映し出されていた登場人物達は勿論、それを見ている観客の心の中にもありとあらゆる感情が凝縮されていたと思う。
登場人物達はそれぞれ真逆の感情だし、事実を把握している観客もまた違った感情でこのシーンを見つめている。
無機的に映写されたスクリーンから放出される感情と、それぞれの観客が見つめるスクリーンに跳ね返った様々な感情が映画館の中に渦巻く不思議な瞬間。
さらには「まるでゴミを捨てるみたいに」っていうのがともすればコントにでもなりそうなダークな笑いまで含んでいる。
映画史に残る名シーンだと思う。

監督のミシェル・フランコはまだ31歳らしい。
この若さで長回し使うなんて珍しい。

アレハンドラのクラスメイトたちは、アレハンドラを演じたテッサ・イアの実際の友人達(ほとんどが演技経験無し)とのこと。
なんて複雑なことするんだ!
映画の中ではああだけど実際は仲のいい友達だと??
いや、そんなシチュエーションはよくあるだろうけど(映画の中では敵同士でも実際は親友とか)、この映画ではちょっとそんな生易しい人間関係じゃないでしょ。
精神科医を付けてちゃんとフォローしたらしいけど、それにしても恐ろしい監督だ。

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