2018年9月30日日曜日

映画『君の名前で僕を呼んで』

2017年 監督:ルカ・グァダニーノ
製作国:イタリア/フランス/ブラジル/アメリカ
at ギンレイホール





ハエの映画。と思うくらい最後ハエが全部持っていった。
避暑地だから虫が多いのは分かるが、カットしなかったのは演技がよかったか、それとも死のイメージを付けるためか。

北イタリアの避暑地で夏季休暇を過ごす17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)。
大学教授の父の助手としてアメリカから24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)がやってくる。
自信家で社交的なオリヴァーに反発しながらもエリオはオリヴァーから目を離せなくなる。

昔のフランス映画みたいな話を今やるか。
父親のあの進歩的な理解は、、なるほどそういうことか。

つまらなくはなかったけど132分は長い。1回時計を見てしまった。

映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

2017年 監督:ショーン・ベイカー
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




あたしジャンシー。そういえば子供の頃一緒に遊んでいたムーニーって子がいたわ。
ムーニーのお母さんも優しい人だった記憶があるけど、今思うと私の家以上に困窮していて、そしてお母さんはとんでもないビッチだったと思うの。
でも本当のビッチに成り下がったのは生きるのに必死だったからだと思うの。

予告編を見た印象だと、あまり裕福そうではないけど生活はできるレベルの家庭の子どもたちがクソガキぶりを発揮してそれを面白おかしく描いているだけの映画かと思った。
冒頭のムーニーとスクーティが地べたに座って、ムーニーが投げ出した足先の靴をパタンパタンと打ち付ける音が心地よく、思っていたのと違うかもと思う。
その後の唾飛ばしゲームのクソガキとかいうレベルを通り越した行動と態度に唖然とするともうこの映画にはまっているかもしれない。

フロリダのディズニーワールドのすぐ側にある安モーテル群の一角が舞台になっている。
アパートに住む余裕のない人達は安モーテルに住むらしい。
この安モーテルで生活するシングルマザーのヘイリー(ブリア・ヴィネイト)と娘ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)を中心に物語が進む。
ヘイリーは理不尽な要求を突っぱねてから、詐欺まがい(窃盗含む)の押し売りで少しの金を得る生活。
モーテル代を滞納しても支配人のボビー(ウィレム・デフォー)に汚い悪態を付くような母親を見ているのでムーニーの言葉遣いも最悪。でもかわいい。
基本毎日だらだらしているヘイリーを見ながらムーニーは自由に遊びまくる。

支配人のボビーは、悩みの種でもあるヘイリーに対して支配人としてお責務を行使しながらもどこかこの親子を心配して気にかけている。
モーテルの住人の安全を守るのはもちろん、彼らの生活や将来も心配しているといういいおっさん。
演じるウィレム・デフォーのこわもての渋さがまたいいんだな。

かつて藤原新也がディズニーワールドを「幼児回帰症候群患者」の「一種の野天の巨大な精神病院」と称したのを思い出す。(藤原新也『アメリカ』より)
この映画に出てくるディズニーワールドに行く人達はどこか虚しく滑稽だ。
ぶくぶく太ったとりあえず平均水準以上の生活を送っているであろう人たちが家族サービスやら休暇でディズニーワールドに向かう姿(しかもカモにされる)を、生活に困窮している人たちと対比して見てしまうからだろうか。
まあ、結局最後はヘイリー達もってことなんだけど、ヘイリー達のそれは切実で重い。

たぶんヘイリーの自分勝手さや品の無さぶりに共感する観客はいないだろうが、ヘイリー見ているとアメリカ人って大なり小なりみんなこんな感じじゃね?って思ってくる。
プライド高くて自己主張が激しくてわがままで切れやすい。

なかなか面白かった。

2018年9月16日日曜日

映画『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』

2017年 監督:チャン・フン
製作国:韓国
at ギンレイホール




1980年韓国の光州事件を扱った話。
男やもめで一人娘を育てるキム・マンソプ(ソン・ガンホ)はソウル市内で個人タクシーの運転手をしている。
生活は厳しく、家賃も滞納している。
そんな中、ある外国人客を光州につれていくだけで大金がもらえるという話に飛びつく。というか掠め取る。
外国人客ユルゲン・ヒンツペーター(トーマス・クレッチマン)を乗せてうきうきで光州に赴くが、光州は軍により閉鎖されていた。
光州に入れないことには大金が受け取れない。。。

ユルゲン・ヒンツペーターは実在の人物で、彼は東京在住のドイツ人記者だった。
韓国では報道が規制されて、実際に光州で起こっている出来事とはかけ離れた報道がされていたが、ヒンツペーターによって光州での実情が世界に報道されるようになる。
彼を光州まで送ったタクシー運転手も実在の人物だけど、ヒンツペーターは事件後のキム氏との再開を熱望していたがキム氏の行方が知れず、結局その夢は叶わないまま2016年に他界する。
本作ではそのキム氏が主人公となっている。
キム氏の所在不明ということから分かるように、この映画の主人公は大分創作されたキャラクターになっている。
逆にそれが幸いしてか、光州事件を扱ったシリアスでありながらも前半のコメディや、人情、悲劇、信念、はてはカーチェイスまで、娯楽要素もふんだんに盛り込まれている。
特にキム氏の人物造形が面白く、金にいじきたなくお調子者で政治には全くの無関心という表層の裏には、娘を何より大事に思い生活することで精一杯な頑張る父親の姿があり、かつ光州の実情を目の当たりにしてからの心情の変化等々、創作ならではの面白さがある。
金にいじきたない結果が後のエンジントラブルにつながったりとかもするしね。

この映画をきっかけにキム氏の息子が名乗り出たらしい。
実際のキム氏は1984年には亡くなられていたという。
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/30571.html
映画の中のキム・サボクは創作の人物キム・マンソプでありキム・サボクではないんだなという当たり前のことを思うくらい実際のキム・サボクは映画とはいろいろ違った模様。
こちらはこちらでドラマがあるなぁと思う。

あと、光州事件ってよくは知らないし今もよくわかってないけど、悲劇、じゃなくて人為的な虐殺だよね。
1980年とはいえ韓国こえーと思った。

映画『メイド・イン・ホンコン』

1997年 監督:フルーツ・チャン
製作国:香港
at ギンレイホール





中国返還前の香港で今を生きる3人+1人の少年少女の物語。
死のイメージと隣り合わせの生の力が今この瞬間瞬間で激しく燃えさかる様が愛しくて美しい。
サンのシーンの別の映画かのような青みがかって透き通った映像や、煩雑で無機質な香港の街並み、墓場のシーンの気恥ずかしいくらいの青春感と死とエロスと幻想的で物悲しい風景、サム・リーの圧倒的な存在感。
音楽もいいよね。
フルーツ・チャンのデビュー作で低予算のインディーズ映画だけど、時代も相まって奇跡的な熱量を持った作品になっている。面白かった。