1937年 監督:マキノ正博
BS2 録画パッカパッカ、馬に乗った武士達が駆ける。
たどり着いたのは真っ黒な夜空にほの白く浮かび上がる城。
城に向かって火矢を放つ武士達。
いや、矢の放ち方も知らない変な武士が一人。
矢を引く右手を離した瞬間弦を持つ左手が矢をことのほか強く握っていたらしく、宙に放たれることもなくへなへなと弦に引っ付いてしなだれる矢であった。
とはいえ他の優秀な武士により、城は落とされる。
城主の息子はさらわれる。
殺さずさらったのは子供を殺すのはしのびないから、とは上辺の言で結局は土倉に放りこんで殺そうとする。
「泣け!叫べ!吼えろ! ハハハハハハハ」
放り込まれたぼんぼんを救ったのは謎の仙人(香川良介)だった。
ぼんぼんは仙人に育てられる。
10数年後、ぼんぼんは立派な青年になる。
父母を殺した武士達の主要人物佐久間正盛(河部五郎)、五十嵐典膳(尾上華丈)、矢尾郡太夫(志村喬)は一国の城主とか京都守護職だとかそれなりの人物になっている。
仙人に育てられ自来也(片岡千恵蔵)となったぼんぼんは満を持して復讐を決行するのであった。
56分の短い時間でテンポよくぽんぽん展開する。
決めの部分で所々入る歌舞伎の口上のような台詞回しも聞かせてくれるし、綱手姫(星玲子)とのコメディのようなやりとりがあったり、千恵蔵の華のある立ち回りがかっこよかったり、姿を消したり水面を歩いたり等々妖術がシンプルに面白かったり。
もちろん巨大蝦蟇も出てくる。煙吐くだけで最初は何これと思ったけどこの不気味な蝦蟇はばくばく人を食ったりするから面白い。蝦蟇の模型はちゃっちいのだけれどあまり光をあてなかったりローアングルで目の光だけ不気味に強調したりして蝦蟇かっこいい。
面白いくらいに勧善懲悪物で、ラストに自来也が野太い声で「泣け!喚け!叫べ!吼えろ! フィャハハハハハハハ」と笑うのはどっちが悪なのか分からないくらいに痛快で恐ろしい。勧善懲悪だから自来也が紛れもなく正義なんだけど。
自来也と同等の敵に大蛇丸(瀬川路三郎)がいるのだけど、このおっさんは悪というよりただの恋に不器用なかわいいおっさんじゃないか。
庭先で自来也に恋焦がれて(?)うつむく綱手姫を感慨深げに眺めていたり、棒読み風の台詞回しだってお茶目だし。
まあとりあえず悪ということで。自来也の活躍を盛り上げる存在。
この映画は正月に同じくマキノの『血煙高田馬場』と同時上映され、大ヒットを飛ばしたらしい。
この2本がセットって反則的組み合わせだよなぁ。子供達は見た後かなり興奮したんだろうな。
[自来也について]
1806と07年に鬼武が書いた読本『自来也説話』において自来也が日本で初めて登場する。
宋の笑話的な説話集『諧史』という本に我来也(我来たる也)という盗賊の話があって、この話にヒントを得て『自来也説話』が書かれたとかなんとか。詳細は知らん。
自来也はその後浄瑠璃やら合巻やら歌舞伎やらに引き継がれていく。
今の自来也物語の大まかな設定を作り、自来也から児雷也に変わったのが合巻の『児雷也豪傑譚』(1839~1868)とのこと。
30年近いくらいの年月で4人くらいの手によって書かれたが未完。
河竹黙阿弥の歌舞伎狂言『児雷也豪傑譚話』は1852年。合巻『児雷也豪傑譚』43編の内最初の10編を脚色して作られる。
まあ、後は明治大正に講談でさらに広まるわな。
現代においては伝奇小説やらゲームやら漫画なんかでも取り上げられる。
漫画の有名どころといえば少年ジャンプの『NATUTO』っていう忍者漫画かな。
自来也で検索したらいっぱい『NATUTO』関連のページが引っかかったのでびびる。
ちなみに我来也の話は盗みに入った家に必ず「我来也」と書き残す盗賊がいて、ある時役人が我来也とおぼしき人物をとっ捕まえたわけだけどこの男が我来也だという明確な証拠がない。
とっ捕まった男は真の我来也なんだけど、上手いこと看守を騙して弱みを握った上で脅し、まんまと叩きの刑だけで釈放されるという話。
蝦蟇とか妖術とか出てこないみたい。知恵のある盗賊のお話。