2008年7月6日日曜日

映画『ミリキタニの猫』

2006年 監督:リンダ・ハッテンドーフ
at ギンレイホール




ニューヨークの路上でホームレスの老人が絵を描いている。
なかなかいい線で絵を描く。
彼は何者か?
興味を持った監督のリンダ・ハッテンドーフがカメラを向けると、老人は「俺を撮れ」と。
老人の名はジミー・ツトム・ミリキタニ。日系二世。
度々彼を訪れて撮影していた監督。
そして2001年9月11日、あのテロの日。
街が騒然とする中、炎上する貿易センタービルを描きとめるミリキタニを撮影する監督。
ビルが崩壊し、粉塵舞い上がる中咳き込むミリキタニを見かねた監督は自分の家に彼を招きいれる。
ホームレスだよ。年季の入った。
しかも監督は女性なのに。
この撮影をドキュメンタリー映画にしようという意図がその頃からあったのかどうかは不明だが、なかなかできない行為。
ソファーに座って微動だにせずテレビを見つめるミリキタニ。
そこから監督とミリキタニの共同生活が始まる。
面白いのはミリキタニがどんどん小奇麗になっていくのね。
まさか風呂にもいれずに家に居座らせるわけにはいかないけど。
長年の路上生活で指や爪が真っ黒だったのに段々と綺麗な指になっていったり、髪の毛切ってさっぱりしたり、おしゃれしたり、なにより路上生活中は首が前のめりに沈み込んでいたのに背筋がぴんと張るようになっていく。
えらい変身よう。

ミリキタニはカリフォルニアのサクラメント生まれ。
その後母の故郷の広島に行くが、18歳の頃再びアメリカに戻る。
しかし第二次世界大戦でツールレイクの日本人強制収容所に送られる。
過酷な体験の上、市民権まで失ったミリキタニ。
懐かしき広島は原爆によって破壊。
ミリキタニはアメリカ政府に怒り続ける。
路上で絵を描く変な老人、から過去を聞きだしていくうちに政治的な話へ。
80年代後半から路上生活をしているらしいのでパソコンとか見たことないのだろうな。
ツールレイクだか市民権を失った人だかのリストをインターネットで調べるとそこに「ジミー・ツトム・ミリキタニ」という名前が出てくる。
パソコンの向こう側にはまさにそのジミー・ツトム・ミリキタニがいる。
彼が語り、怒る内容とモニタに映し出された資料、パソコンを知らない過去の語り部とパソコン、が一致共存する感動的なシーン。

この映画の映像は実際撮影したビデオの10分の1にも満たないんじゃないだろうか。
編集の思い切りのよさが気持ちいい。
姉との再会シーンなんていう盛り上がりそうなシーンも自然にさらっと編集しちゃうし。
ミリキタニが唄う千昌男の北国の春はカットしないし。

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