2011年12月18日日曜日

映画『未来を生きる君たちへ』

2010年 監督:スサンネ・ビア
製作国:デンマーク/スウェーデン
at ギンレイホール




重厚なドラマって胡散臭かったり重いだけで面白くなかったりするけど、これはかなり面白かった。

医師のアントン(ミカエル・パーシュブラント)はアフリカの難民キャンプで医療活動に従事し、たまに?デンマークに帰ってくる。
妻とは別居中で、息子のエリアス(マルクス・リゴード)は学校で陰湿ないじめにあっている。
そして母親を失ったばかりの転校生のクリスチャン(ウィリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセン)は、いじめられているエリアスを助けたことで二人は友達になる。
物語はアントンを中心にして難民キャンプと平和なデンマークの街が交互に描かれ、二つの土地でアントンはぞれぞれある選択を迫られる。
選択というか行動かな。
人は理不尽な暴力に直面したときにその人間性を問われることになる。
人間性という言葉が曖昧なように、何が正解なのかは難しい。
暴力に対して暴力で対抗するか、それとも非暴力の信念を貫いて「あいつは人間のクズだ」と裏で罵倒して溜飲を下げるか。
問題の解決、という意味合いではいずれにしても根源的な解決に繋がる確実な方法は分からない。
暴力は復習の連鎖を生み出す可能性をはらみ、非暴力は暴力者を野放しにすることでもあり、実際暴力おやじの息子もまた暴力者だから未来にも繋がらない。
っていうお話。

面白いのは難民キャンプと平和な街をアントンという一人の医師によってスムーズに繋いでいるところ。
これが両者が独立しちゃっていたら、平和な街の問題なんてちっぽけでくだらなく見えてしまう。
二つの土地では「悪」のレベルが段違いだけど、アントンの視点が媒介になることで、いじめっ子や確実にいそうな暴力おやじという存在が陰ることなく、紛争地帯で精神の麻痺した殺人鬼集団と相乗して並び立っている。

僕は高所恐怖症じゃないけど、何度も登場する高所が金玉縮み上がるほど不安定で怖い。
一歩先に死がある高みから悠然と街を見下ろす転校生のクリスチャンが次第に神が乗り移ったような狂気に走っていく。
初め弱弱しい感じの少年だったのが、肩をいからせて世界中の怒りをその小さな身体に宿すような狂気に。
この狂気は、母の死に直面して悲しみの中死を受け入れるのではなく、死を存在しないもののように拒絶することで怖いもの知らずになるような狂気であって、心理武装した心の内側では誰よりも死を恐れている。
そんなクリスチャンの狂気に対して、がちゃ歯で愚鈍そうな顔したエリアス君の優しさが際立ってくる。
なんていい奴なんだ。
エリアス君の体は死や恐怖よりも強い思いやりで作られている。

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