2016年6月13日月曜日

映画『サウルの息子』

2015年 監督:ネメシュ・ラースロー
製作国:ハンガリー
at ギンレイホール




冒頭からピンぼけで何も見えない、と思ったら一人の男がカメラの前にやってきて無表情な顔がくっきりと映し出される。
この男が主人公のサウル。
ホロコースト映画。
ハンガリー系のユダヤ人のサウルは、同胞たちの死体処理を行う特殊部隊ゾンダーコマンドの一人として働いている。
ゾンダーコマンドも最後にはガス室に送られて処刑される運命らしい。
ガス室の血や糞尿処理、死体の運搬、灰の処分等々の重労働をいずれ殺す予定のユダヤ人にやらせる、って物凄い合理的だけど恐ろしいほどに残酷だ。
漫画やら映画やらで「お前に人の心はないのかー!」みたいなセリフを吐く状況が生易しく思えるくらいだ。もう殺す規模が違うし人でなしの数も多すぎる。

カメラはサウルを超接近して追いかけ続ける。
スタンダードサイズの狭い画面の中央にはいつもサウルがいて、サウルの位置にしかピントがあっていないので画面の奥はピンぼけしてほとんど何も見えない。
他のゾンダーコマンドの仲間もサウルと同じ位置に来たときだけやっと顔が判明する。
サウルの位置にしかピントが合わないっていうのは、耐え難い作業に視界や心を閉ざすしかないサウルの心情を表しているのかな。
それに周りの残虐な光景をそのまま映していたらその光景に訴えてくるものがありながらも、どこか映画という虚構から作り物の胡散臭さを感じてしまっていたかもしれない。
にしてもだ、回りの光景がほとんどピンボケしているっていうのはまあ、とにかく疲れる。

エキストラは凄い数がいて、結構な熱演をしていると思う(全裸だし)。ほとんど映っていないけど。
すっぽんぽんで物のように床をずるずる引きずられるのは痛そうだった。

サウルってもうだいぶ精神がおかしくなっていたんだろうな。
ある目的のためだけに、それが自分への救いでもあるかのように、仲間への迷惑を顧みずに突き進むサウルが悲しい。
仲間から見たら大迷惑なサウルだが、仲間たちが異常にサウルに優しい。
昔から知っている同郷の友とかだったりするのだろうか。

ラスト近くの少年のシーンは怖かった。
さんざん地獄を見せられた後に違う世界から来たかのような地獄と全く無縁な少年がするーっと現れるから「なにこれ」と思って一瞬凍りついてしまった。
「違和感」って最近の映画じゃめったに見なくなったな。いいシーンだった。

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