2019年6月23日日曜日

映画『天才作家の妻 -40年目の真実-』

2017年 監督:ビョルン・ルンゲ
製作国:スウェーデン/アメリカ/イギリス
at ギンレイホール





糟糠の妻とか本当吐きそうになるくらい嫌いで、こないだまでやっていたNHK朝ドラ『まんぷく』の気持ち悪さをいつか書こうと思っていながらまだ書いていない。
で、この映画は糟糠の妻っぽいけど夫婦にはある秘密があって、という話。
すかっとするのを期待していたけど、そういう系ではなかった。
夫ジョゼフ(ジョナサン・プライス)の駄目っぷりが凄いのだが、不倫しながらも妻ジョーン(グレン・クローズ)をちゃんと愛しているところが憎めない。
妻ジョーンもなんだかんだで夫が好きなのね。何度も裏切られ、栄光や名誉も捨て去っているというのに。
昔からこういう男女関係ってあるけど(『夫婦善哉』とか)、私がいなきゃ駄目だと思わせるような男ほどもてるっていうのはいつの時代になったらなくなるんだろうか。

ノーベル賞の式の裏側とか見れるのが面白い。
若い頃のジョーン役のアニー・スタークはグレン・クローズの娘らしい。美人。
他にクリスチャン・スレイターも出演している。

映画『彼が愛したケーキ職人』

2017年 監督:オフィル・ラウル・グレイザー
製作国:イスラエル/ドイツ
at ギンレイホール




彼を失った男が彼の幻影を求めて正体を隠して彼の妻に近づく。
未亡人によりそう男が夫の弟だとか夫を殺した男だとか、似たような設定の映画はいっぱいあった気がするが、その中でもこの映画はかなり面白い。

ベルリンでケーキ職人としてカフェを経営しているトーマス(ティム・カルコフ)は、イスラエルから度々出張でやってくる客オーレン(ロイ・ミラー)と懇意になり、恋人になる。
ユダヤ教で同性愛は許されない。
オーレンにとってベルリン出張中の一時は安らぎの時間だったのだろう。
しかしある時、イスラエルに戻ったオーレンと一切連絡が取れなくなってしまう。
オーレンには妻と子供もいるし、捨てられたのかとも思うが、意を決して会社にまで突撃したトーマスが知ったのは、オーレンの事故死という事実だった。
失意のトーマスはふらりとイスラエルに現れ、オーレンの妻アナト(サラ・アドラー)を無意識に尾行していた。。

シンプルなお話でトーマスは無口だし感情が顕になる場面も少なくて静かな映画だけど、深い愛情と悲しみが美しく切ない。
バストショットを基本にここぞというときにゆっくりズームしていくのはグッとくる。

男二人はバイセクシュアルってことでいいのかな。トーマスの方は微妙かもしれないが。
男男女の各々が相手二人を、っていう、さらには一人は死亡しているという悲しみの中、事故前のオーレンが最後に何を選択したのかが後に判明したりで死後にも関係性に参入してくる等々、この三者の関係性に人間の悲しみ喜び苦しみが詰まっているから面白い。
特にオーレンの妻への愛撫の仕方をなぞるのは、複雑な愛情に昇華されていて秀逸だったな。

トーマスを演じたティム・カルコフは撮影のために毛剃ったのかなぁ。
真っ白な上に少し太り気味の体型だけどむきむき、というかむちむちで、毛がなくつるつるしている。
実際にゲイなのかと思うくらい。

色合いも面白く、トーマスが履くオーレンの水泳パンツがなぜか馬場なみの真っ赤。
しかしその赤にトーマスの真っ白な肌がよく映える。
部屋でも履いちゃうトーマスがかわい悲しい。
あと、クッキーに乗せるクリームが青!
料理に青ってあまり使わないじゃん。食欲減退しそうだし。
ここで青を持ってくるのは恋人を失った悲しみでの精神不調の表れなのか、そんなの関係なくケーキ職人としての趣味なのか・・
この青クリームのシーンはオーレンの息子とやりとりする結構重要な場面だったりする。

あと、ドイツとイスラエルの関係性や、イスラエル(ユダヤ教)の風習などもストーリーに影響を与えている。

ストーリーに関係ないけど、手に職を持っているっていいよな。どこでも役に立つし。

面白かった。

2019年6月9日日曜日

映画『アリー/ スター誕生:アンコール・バージョン』

2018年 監督:ブラッドリー・クーパー
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




ロックスターの男がライブ会場で彼女をステージに上げようとして、彼女はいやいや私なんてとお決まりに拒否するものの、その後厚かましくもステージに上がって朗々と歌い始め、歌声を聞いた観客がウォーって叫ぶ。
スター誕生。
レディー・ガガ。
っていう予告編見たときに、これくそつまんないでしょっ、て思うじゃん。
しかも136分。
で、期待もしていなかったけど、意外と飽きずに楽しめた。

ライブで歌うのがピークかと思ったら、結構な前半のシーンで、その後も話が続く。
最後はなにその展開と思ったけど、というか1937年の映画『スタア誕生』から始まって数々のリメイクが作られ続けているテンプレ話らしい。
栄光やら挫折やら恋やら悲劇やら精神衰弱やら、確かにアメリカ人が好きそうではある。

それにしてもレディー・ガガが普通の女優さんみたいに何の違和感もなく、というより普通の女優さん以上の存在感を持って演じているのが凄い。
一方相手役のブラッドリー・クーパーも自身の生歌っぽいのにうまいし雰囲気もある。
歌はいうまでもないレディー・ガガが演技もこなし、役者であるブラッドリー・クーパーが歌もこなす、っていう両者のぶつかりあいだけでも見ごたえがある。
ブラッドリー・クーパーは撮影の一年半前からボーカルレッスンに取り組んでいたらしい。

役者を背後から映すのが印象的。

ストーリー的には、今の時代SNSで荒れないのが不思議。
だって観客はスタージャクソン・メインを見るためにライブに来ているのに、どこの誰とも知らない素人がどんなに歌がうまかろうがステージに立って歌っていたら「はぁ?」ってなるよな。
「お、なかなかいいじゃない」と思うよりもまず「誰だてめー!」だよ。
っていうのはまあこの王道ドラマと役者と音楽による圧倒的パワーの前では取るに足らない些事なんだけどさ。

映画『私は、マリア・カラス』

2017年 監督:トム・ヴォルフ
製作国:フランス
at ギンレイホール




こういうのって歌が少ないともっと聞かせろ!と思うし、歌ばっかりだともっと人物像を見せろと思うから、この映画に関してはいいバランスなんだと思う。
ただ、クラシックって眠くなるんだよね。
あと相当映画館の音響設備が優秀でないとマリア・カラスの魅力の半分も伝わらない。高音が少し音割れしていたし。
秘蔵映像も満載らしいのでクラシックファンにはたまらないんだろう。

こうやってマリア・カラスを追った数々の映像を見ていると、普段なんなのこの人達って思う芸能人を追っかけるレポーター達も実は貴重で素晴らしい仕事をしていたんだなと思う。
だってこの人達が追っかけたからこそ映像が残っているんだし。
ただし芸術関係の人たちに限った話でタレントやら芸人やらはどうでもいいことに変わりはない。

マリア・カラスの随分私的な心情が朗読されるしなんだろうと思ったら、私的な手紙や未完の自叙伝からの引用らしい。
しかも朗読は『永遠のマリア・カラス』でカラスを演じたファニー・アルダン。

カルメンのハバネラってこうして聞くと懐かしい歌謡曲みたいだな。