BS2 録画

真っ暗の画面に小さい緑色の顔のようなものが現れる。
顔は段々と近づいてくる。
手前まで近づいてきたとき、それが顔ではなくトンネルの出口だったと知る。
電車が山間のトンネルを走っているのだ。
トンネルを抜けるとまばゆいばかりの木々の緑が溢れ出す。緑というか黄緑に近い。
右へ左へ、ゆったりとした速度でカーブしながら幻想的に進む電車。トンネルに入っては抜け、その度に優しい緑が満ちる。
見とれていると車内が映る。
車内には少年と少女が椅子に座らずに立ちながら本を読んでいる。
電車がトンネルに入る。すると車内が闇に包まれる。
この包まれ方が、正に闇が襲ってくるとでも言いたいような包まれ方をする。
こんな拙い描写じゃわかんないけど、あまりに素晴らしいオープニング。
映画館の闇の中で遭遇できなかったことが少し悔やまれる。
台湾の鉱村で育った少年ワンと少女ホン。
鉱村だけあって、貧しい大家族や鉱山で働く男の事故、労働者のストライキなどおよそセオリーどおりの事象が描かれる。
しかしその描き方が面白い。
食い物がなくて、調味料や歯磨き粉、しまいには胃酸の薬までつまみ食いしてしまう子供。
当然親は怒る。そんなもん食ったら体に悪いじゃないか!っていう理由じゃなくて、胃酸の薬なんていう高価なもの食いやがって!悪い子だ。石ころでも食ってろ!と言って子供を追い回す。
金がないんだから・・・
ワンは学業優秀な子らしいが、中学卒業と同時に台北に出て働きながら夜学に通うことになる。
ほどなくホンも台北に出稼ぎに来る。
ワンとホンは幼馴染だが恋人同士なのかはよく分からない。しかし仲間や親同士では二人は恋人であり、当然近い将来結婚するものと考えているらしいと次第に分かってくる。
本人たちも将来一緒に暮らすことを当然のことのように考えていることが最後のほうでやっと分かる。
極めて淡々とした描写。
ストーリーに"過程"はほとんどない。
事実と結果がただ静かに流れていくが、その時間の展開は驚くほど早い。
突然仲間を見舞いに行くシーンになり、よく見るとそいつは指を切断するほどの大怪我を負っているのだが、なぜそうなったのかは全く描かれなかったり。
トンネルを抜けるたびに時間と世界が突然表出するように。しかもその世界はもとから当然のようにしてそこに"ある"。
時折挿入される美しい自然の光景は、シーンの余韻の中でさりげなく現れる。
どのシーンでもこれ見よがしに美しいシーンはないのだけど、シーンとシーンがピースとなって紡ぐ全体が恐ろしいほどに美しい。
特に冒頭とラスト。
ワンとホンの恋が痛々しいほどにくっきりと表出したあとに訪れるラストなんて、もう、素晴らしすぎる。
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