2008年8月31日日曜日

映画『さよなら。いつかわかること』

2007年 監督:ジェームズ・C・ストラウス
at ギンレイホール




太ってがたいでかくて暗いおっさんスタンレーは、美しい妻と幼く可愛い娘2人の4人家族。
だが軍人である妻は今はイラクに出征中のため3人で暮らしている。
厳しくて無口な父だが一応子供たちには好かれている模様。
出征中の妻に対する少しの不安を伴いながらも平和に暮らしていたが、ある日妻の訃報が突然やってくる。
ショックのあまり娘たちに事実を告げられなかったスタンレーは、娘が行きたがったフロリダの遊園地まで二人を連れて長距離ドライブに出発する。

ストーリーはシンプルなんだけど、ワンシーンワンシーンぐっとくるいいシーンが多い。
事実を告げられない痛々しさを伴った父の娘に対する柔らかい眼差し。
薄々気づきながらも聞けない長女の戸惑い。
何も知らずに遊園地を楽しみにする次女の無邪気さ。
旅を通してしっとりとした温もりで通い合う父と娘。
無口な父とか決して優等生というわけではない長女とかわがままざかりの次女とか、キャラクタ設定もいいな。

この無口で暗いおっさん、ジョン・キューザックだったらしい。
そう言われたら確かにジョン・キューザックの顔だけどこんな体型になっちゃったのか。
長女役のシェラン・オキーフがクールに可愛い。

映画『ダージリン急行』

2007年 監督:ウェス・アンダーソン
at ギンレイホール




※これ書いているの2週間後なのでほとんど覚えでいない
しかも館内がめちゃくちゃ暑くて(太ももから滲んだ汗がシートをしとっとさせるくらい)いらいらした。


オープニングタイトルも無く始まるホテルの一室での大人の恋の情景。
落ち着いた色に落ち着いた役者。
男にジェイソン・シュワルツマン。女にナタリー・ポートマン。
ベリーショート(セシルカット)のナタリー・ポートマンが可愛い。
なんか予告編で見たのと全然違うじゃんと思いながらも見入っていると、場面は変わってビル・マーレイが出てくる。
走り始めた列車に飛び乗ろうと重そうな体に重そうな荷物を抱えたスーツ姿で懸命に走る。
ビル・マーレイの物語が始まるのかと思いきや、そのビル・マーレイを横から追い抜く男が現れる。スローで無駄に劇的に。
この男ピーター(エイドリアン・ブロディ)は見事に列車に飛び乗ることに成功し、ビル・マーレイは失敗して走るのをやめる。
なので物語はこの一瞬でビル・マーレイからエイドリアン・ブロディにあっという間にバトンタッチ。
もう、ここまでで何の映画見ているのかさっぱり分からない。
冒頭のホテルの雰囲気とビル・マーレイのコメディチックなくだりは天と地の差があるし。
列車の中でピーターは弟ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)と兄フランシス(オーウェン・ウィルソン)と再会し、3人はこのインドで「心の旅」を開始する。
弟ジャックは冒頭のホテルの男ね。
少し過去にさかのぼっているらしい。
ラストまで見ると冒頭のシーンとのリンクが分かる。
というか冒頭のホテルのシーンは『ホテル・シュヴァリエ』という題名の一つの短編とのこと。同時上映していたらしい。
『ホテル・シュヴァリエ』は真面目な大人の恋愛物。
一方『ダージリン急行』はわがままで自己中だけど人間くさい兄弟3人のロードムービー。
これからダージリン急行を見ようとしている所でホテル・シュヴァリエを見せられるせいか、ホテル・シュヴァリエには真面目な物語の中に微妙に胡散臭さが付きまとう。
もともと題材も落ち着いた雰囲気のキャラクタも全てが昔の映画っぽくて胡散臭い。
ジェイソン・シュワルツマンの長い髪と髭が胡散臭い。
胡散臭いくせに短編として真面目に良く出来ている。
監督名も知らずに単品で見たら普通に良質の短編として見るはず。
この良質の短編がダージリン急行と繋げて同時上映されると胡散臭さのスパイスが加わって化学反応を起こすから面白い。

本編のダージリン急行の方は自己中でやりたい放題だけど悩める3兄弟がインドの風土に溶け込むこともなく強烈な自我を維持し続けるが、インドの人との出会い(というかストーリー的にはインドじゃなくても全然よさそうだけど)や母親との再会など、旅を通して兄弟の絆を深めたり背負っていた無駄な荷物をそぎ落として心も体もすっきりしたり。
ウェス・アンダーソンが面白いのは全然違うものを平然と並べちゃうのね。並列化っていうのか。
船や列車を断面にしてカメラ移動で各部屋を次々に映し出していくのなんかまさにそう。
ダージリン急行においては列車の断面と思いきや列車じゃないところまで普通につなげたりして時間も空間も離れたものを一つの横並びにしちゃうし。
インドの衣装着ても少しも彼らは溶け込まずに全く別物の存在としてしれっと並び立つし。
生と死という重いものからどうでもいい軽いものまでが同じような調子で並べられるし。
毛色の違うホテル・シュヴァリエとダージリン急行を並べちゃったり。

2008年8月17日日曜日

映画『地上5センチの恋心』

2006年 監督:エリック・=エマニュエル・シュミット
at ギンレイホール




夫と早いうちに死に別れてからというもの、女手一つで二人の子供を育て上げたオデット(カトリーヌ・フロ)。
子供たちは立派に成長し、息子は美容師に。なったがゲイに。
娘は何やってるんだかわからんがとりあえず彼氏を見つけて実家で同居。でもこの彼氏が駄目駄目なプー太郎で足がとてつもなく臭いらしい。
3人+1人が一つ屋根の下で一緒に暮らす。
経済的にあまり恵まれていないのだけど、暗さや不幸さが微塵も感じられない前向きなオデット。
オデットが今一番はまっているのが人気作家バルタザールのロマンス小説を読むこと。
そんなバルタザールが近くでサイン会を行うことを知ったオデットは、会うのは恥ずかしいと思いながらも意を決してバルタザールに会いに行く。
彼のことを思うと心が高揚して体まで宙に浮かび上がってしまう。
そんな状態だからバルタザールの前に行っても自分の名前を正しく言うことができず、オデットは深く落ち込んでしまう。
当のバルタザールは数多いおばさんファンの一人のオデットの事など全く覚えてもおらず、それどころかオデットのサインの番では目の前のオデットよりもセクシーな若い編集者とどう寝るかで頭がいっぱいの状態だった。
かっこいい顔じゃないが人気作家で筋肉むきむきでプレイボーイのバルタザールだが、実はかなりの小心者で、テレビで批評家が自分の新作をこき下ろすのを見て人生の終わりかのように落ち込んでしまう。
オデットの方は、仲間に励まされてバルタザールには言葉でなく手紙で思いを伝えることにして元の元気を取り戻すが、バルタザールは一向に立ち直れない。
それどころか、妻の不倫相手がテレビで自分をこき下ろした憎き奴だったと知って、彼は自殺するところまで追い込まれる。
そんな時ポケットに入っていたオデットからの手紙を偶然取り出して読んだバルタザールは、自分を唯一評価してくれるオデットにすがるように会いに行く。
そして同居。

前置きが長くなったが、つまりハッピーでユーモア満載のコメディ。
陽気で純情なオデットとその子供たち。
息子は母親の性格を受け継ぎ陽気で人のいいあんちゃんになっている。
一方娘はというと常にふてくされ気味で、長い髪が顔を隠して不気味な感じさせする。
それが後半に行くにしたがって段々と険がとれていき、バルタザールの幼い息子と遊んでやる姿なんて本当にいいお姉さんみたいになっている。
あんなにぐれていたのに。
いいお姉さんになるに従って、かわいくない顔立ちのこの娘が非常に可愛く見えてくる。
そして面白いのは家族3人のキャラクタが立っているせいか、娘の変化も「やっぱりオデットの娘なんだね」と普通に納得して安心してしまうところ。
素敵な家族だわ。
登場人物が皆インパクトが強いのね。魅力的だったり強烈だったり。
お向かいさんはスワッピングパーティ好きの筋肉馬鹿夫婦、とか。
登場人物が楽しい=ハッピーな映画。

映画『ジェイン・オースティンの読書会』

2007年 監督:ロビン・スウィコード
at ギンレイホール




ジェイン・オースティンの6冊の長編の読書会を行おう。
1人1冊をメインの担当に割り当てて。
ということは読書会には最低6人必要だな。
決まっているメンバはまだ3人なので、あと3人。

おばちゃんだらけ、読書会、っていうキーワードで面白そうじゃないんだけど、これが観てみると結構面白い。
ジェイン・オースティンを読んだことないのだけど、関係なく楽しめる。
離婚暦6回のいけいけおばちゃんバーナデット(キャシー・ベイカー)。
夫に突然別れを告げられた主婦シルヴィア(エイミー・ブレネマン)。
その主婦の娘で同性愛者のアレグラ(マギー・グレイス)
恋愛に興味が無いブリーダーのジョスリン(マリア・ベロ)
そのジョスリンに一目ぼれしたがジョスリンにはなぜかシルビアを誘えとけしかけられて困惑するSF小説ファンで唯一の男性メンバのグリッグ(ヒュー・ダンシー)
趣味の全く合わない夫より生徒のイケメン男子に惹かれ始めている高校の仏語教師プルーディー(エミリー・ブラント)
普通の議論から始まった読書会は、この6人が自分の置かれた立場や状況を小説と重ね合わせることで、回を重ねるごとにヒートアップしていく。
小説が自分に還元されていく課程が読書会をポイントにして表れるところが面白い。

ボブヘアのエミリー・ブラントは可愛いなぁ。
夫とフランス旅行に行く予定だったのにキャンセルされた時の泣きそうな顔をこらえて夫の顔をただ見つめるあの表情。
媚びるような表情だけど可愛くてしょうがない。
でも、夫はそんな妻など気にもせずテレビのNBAに夢中。ありえない。
エミリー・ブラントは20代後半くらいなのかと思っていたら1983年生まれだな。
そしてエミリー・ブラントよりもっと若いと思っていたアレグラ役のマギー・グレイスはエミリー・ブラントと同じ年に生まれている。

2008年8月3日日曜日

映画『接吻』

2006年 監督:万田邦敏
at ギンレイホール


小池栄子主演。
化粧していなかったりマニキュアとか一切塗っていない爪とか、女!という感じ。
小池栄子は器用なんだろうな。
結構上手い。
それにしても小池栄子怖いわー。
テレビカメラの前での微笑みはかなりやばい人になっている。

無差別に選んだ一家(少女を含む)を惨殺した坂口秋生(豊川悦司)。
逮捕の瞬間はテレビカメラで生中継される。
一言も言葉を発しない坂口は逮捕の瞬間、カメラに向かって微笑んだ。
その映像を偶然見たOL遠藤京子(小池栄子)はスイッチが入って坂口に関する資料を集めまくってスクラップする。
一目ぼれ?
いや、家で資料の収集中にテレビで坂口の映像が流れても見向きもしないところを見ると顔に惚れたわけではなさそう。
遠藤京子は坂口の微笑みに自分と同じ深い孤独を見たのだった。
この人は私と同じだ=私の運命の人だ、と。

「衝撃の結末」と宣伝されるラストは大体予測がつくが、接吻は意味が分からない。
ぶちゅーって何よ。
殺人衝動防衛本能性衝動が生の激しい燃焼で全て同じレベルで高まったのか。

僕の実家の近くが何度も映る。
ドラマとかでよく使われる場所だけど映画で見たのは初めてかな。
そして東京なのになぜか地名が川崎市になっているところもドラマと一緒。

映画『ラスト、コーション』

2007年 監督:アン・リー
at ギンレイホール




158分もある。
アン・リーはなんでいつも長い作品ばっかり撮るんだ。
この映画だって絶対90分程度に短縮できる。
と、観る前からここにこう書こうと決めていたのだけど、実際観てみると結構面白いし、158分が全然苦ではなかった。

第二次大戦中の中国。
女子大生のワン(タン・ウェイ)は汪兆銘政府の重要なポストにつく(つくことになる)イー(トニー・レオン)に接近を試みる。
日本と手を組もうとする裏切り者を暗殺するべく。
抗日運動にそんなに興味はなかったワン。
所属する演劇部のちょっと気になっているイケメンのクァン(ワン・リーホン)が熱心な抗日派であることからワンを含めた演劇部の面々は夏休みの間を利用してイー暗殺の拙い作戦を決行したのだった。
作戦は運悪くというか運良く失敗するのだが、一歩踏み出してしまった彼らはもう後戻りできないところまで来てしまっていた。
運命の分かれ道。
数年を経てから作戦は再び実行される。
貿易商の妻として再びイーに接近するワン。
美しく魅力的(肉感的)なワンをほっておけるわけが無く。

ちょっとしたきっかけで生と死が簡単に反転するような状況にさらされた男女は分離できない憎しみと愛を体でぶつけ合う。
体でぶつけ合うんだからそこは全てさらさなければ表現にならない。
黒くて長い乳首だってへこへこ腰を動かすところだって全てさらさなければ。
映倫によってモザイクかかっているけど。

トニー・レオンが40半ばなのに凄くかっこいいし濡れ場も惜しみなく全ての姿をさらすのね。
どんな姿をさらしてもかっこいい男。どんな年齢でもかっこいい男。
あの優しい微笑みで世界中の女性が落とされる。
そしてワン役のタン・ウェイ。
オーディションで選ばれたらしいが凄い女優を的確に抜擢したもんだ。
美肌の美人。佇まいを見ているだけでうっとりする魅力。
複雑な心情をものにする演技。
そして濡れ場。
脱ぐなんて思ってないところであんなに全てをされけ出されたら結構びびる。