2010年 監督:イ・チャンドン
製作国:韓国
at ギンレイホール
本編見ている時はそうでもなかったのに、後から予告編見直すと涙出そうになる。
分かりにくい暗喩や寓意をちりばめて詩的だろう?と自己満足している映画は多々あれど、本当に詩的な映画っていうのはこういうのをいうんだと教えてくれる。
66歳のミジャ(ユン・ジョンヒ)は中3の孫ジョンウクと二人で暮らしている。
ジョンウクの母親は釜山で働いているらしいが仕送りはほとんど無い様子で、ミジャの介護ヘルパーの仕事で生計を立てている。
ある日ミジャはずっと気になっていた詩のカルチャースクールに通いだす。
しかし同時に病院ではアルツハイマーの初期状態だと診断され、さらには他人事だった少女の自殺に孫が行ったひどい仕打ちが深く関わっている事実を知る。
つらい現実が襲い掛かりながらもカルチャースクールの仕上げである一編の詩の作成を目標に、詩が自分から流れ出る瞬間を不安と期待を込めて待ち続けるミジャだった。
ストーリーだけ見ると強い母(祖母だけど)、力強く生きる女性を描いているみたいだが、全然違う。
ミジャはなんか変な人で、空気が読めない、嫌なもの醜いものは直視しようとしない、っていう我侭な少女のような性格で、傍から見ると馬鹿なんじゃないかと思えてしまう。
映画の主人公なのに魅力的な人物でなく、むしろいらっとするような人なのに、何故だかこの主人公が気になって仕方ない。
見たくないものは見ないで逃避しても現実に発生している問題からは逃げられない。
逃避してもすぐに絡めとられる現実の残酷な事実を他人事のように受け流せばただの頭の変なおばさんになるけど、ミジャはちゃんと現実を理解している。
だからまるで叱られた少女のように一人蹲って嗚咽をもらす。
美しいだけの世界に逃避してもすぐに現実が引き戻す。
そのサイクルがとてもつらい。
のどかな農村地帯の自然に目を奪われ、満面の笑顔で幸せそうに農民と談笑して別れた後、この農村に来た目的をふっと思い出す瞬間、アルツハイマーの進行という事実の認識と、抱えていた問題の再認識が同時に起こり、笑顔がみるみる驚きと苦渋の表情に変化するのを見たとき、苦しいくらいぞくっとした。
ミジャのファッションもポイントになっている。
劇中でも「おしゃれなおばあちゃん」と呼ばれるように、おしゃれなミジャは安物の服をいつもかわいく着こなしている。
しかしどんな場所でも変わらず派手な格好は次第に痛々しくなってくる。
もうなんか全てがこの主人公に興味を惹くようにできていて、かつその全てが苦しさやせつなさを際立たせる要素にもなっているから凄い。
カルチャースクールの講師に教えられた通り、普段見慣れたものを再度見つめなおし、そこから詩をあふれ出るように呼び起こそうとするミジャだったが、つらい現実から目をそむけてしまうミジャには何も見えていなかった。
醜いものもつらいものも真摯に見つめるようになったミジャから生まれた詩とは?
ミジャがした決断とは?
後になってからじわじわくるなかなかいい映画だった。
ミジャを演じたユン・ジョンヒは60年だ70年代に活躍した大女優らしい。
とにかくこの女優さんがやばい。
おそらく素に近いんだろうな。
この人以外のミジャなんて想像できないくらい自然にはまっている。
結婚後フランスで暮らし、映画出演は16年ぶりとのこと。
おっとりしているけど気品があって、雰囲気は田中絹代に似ている。
ああ、あとどうでもいいけど、黙々と食事している孫をミジャがじっと見つめながら「おいしい?」と聞くシーンで、思春期の頃母親から言われるこの「おいしい?」が大嫌いだったなと思い出した。
2012年9月9日日曜日
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