2007年3月13日火曜日

映画『火星のわが家』

2000年 監督:大嶋拓
BS2 録画




ピアノ曲が流れ出し青空が映されたところで、あ、タイトルが出る、と思って、流れるピアノ曲の感じからカラフルでおもちゃ箱的な楽しいタイトル文字を想像する。
しかしカメラは青空からパンダウンして大きな樹の向こう側にのぞく一軒家を映し出す。
物語の中心となるであろう一軒家なのだが暗すぎてよく見えない。
と思ったところでタイトル文字が出る。
手書き風のタイトル文字で☆マークがぴかぴかしたりして楽しい感じなのだが、文字色が白一色でシンプル。というか寂しい。
バックの映像の光が乏しいから白いタイトル文字が浮き立ってはいるのだが。
この、楽しいんだか暗いんだか、装飾的なのかシンプルなのかよくわからない微妙なバランスさは、この映画を最後まで見れば分かるけどまさにこの映画そのものを表しているのね。
つまりそんなユニークなバランスが楽しい映画。

ジャズシンガーとしてNYで活躍する未知子(鈴木重子)が日本の実家に帰ってくる。
実家には父親の神山康平(日下武史)がいて、それを世話する未知子の姉の久仁子(ちわきまゆみ)がいる。
折りしも火星探査の打ち上げシーンがテレビで放送されている。
康平が言う。
「昔火星には地球と同じように水があった。海や川が豊富にあったらしい。・・・見渡す限り赤っ茶けた荒野だ。なぜこうなったのか。」
むむ、これはこの幾分普通に見える家族が「赤っ茶けた荒野」のような関係になることを示唆している?
→示唆していない
姉を中心に少し関係がこじれるけどそんなにひどくはならないし。
日本宇宙旅行協会の会長だった神山康平(実在した原田三夫がモデル)というキャラクタも物語に大きく関わっていそうでいてあまり関係ないような・・・
この程よい微妙さ加減。

一応主役っぽい鈴木重子。
ぼそぼそか細い声でゆっくり話す。超マイペース。
一人で超越的な存在になっている。
どろどろしそうな関係も柳のように受け流して和らげるのだがその正体不明の不安定さが最も恐ろしくもある。
最後には変わらないゆったりした口調で「あの時本当は犯して欲しかった」みたいなことまでさらっと言うしな。
無理にされると抵抗するような本能があるが女は本質的に好きな男に暴行されたいのだ、というようなことを言い放ったのは坂口安吾だったっけ。
その容姿は、可愛くない少女のような顔立ちなんだけど細くてすらっとしてスタイル抜群で、そして30半ばといった無茶苦茶さ。
ぼそぼそ喋るのに鈴木重子は本物のジャズシンガー。
鈴木重子の存在がこの映画の陥没点みたくなっていて、一つ間違えば全てを飲み込んで駄目にしそう。
なんだけど、彼女とあまりに対極的な存在としてちわきまゆみがいる。
はきはき喋るしストレートに感情が表出する。いやーな感じの熟女ぶりがあまりにリアルすぎて強烈。
「血がつながってるんだけどな」
うそこけ。
そして鈴木重子とちわきまゆみの中間に日下武史がいる。
マイペースなのか長年培ったキャリアでうまいのか、独自の存在感。
この並び立てば決して交わらない雰囲気の三者が微妙なバランスで釣り合って、傾きそうで傾かない。お互いが飲まれそうで飲まれない。
さらにこの三人の家族の間を部外者として唯一自由に動き回る、というかこの三者にそれぞれ関わってぼこぼこにされている感のある居候役に堺雅人がいる。
役どころも存在も嵐を起すほど大きくないが、しっかりと三者に食い込んで、三人の立ち位置を近付けたり離したりと動かしていく。
この人も大人なんだか少年なんだかよくわからない容姿。

常にどこか危うさを抱えているから動きの一つ一つが刺激的で楽しい。

そういえばメガネの医師って顔映ったっけ?
斜め後姿ばかりで顔よりもその厚底眼鏡の不思議を撮りたかった?

ちわきまゆみはミュージシャン。

0 件のコメント:

コメントを投稿