2008年4月6日日曜日

映画『終電車』

1980年 監督:フランソワ・トリュフォー
BS2 録画


終電車〔フランソワ・トリュフォー監督傑作選6〕

ドイツ占領下のパリ。
女優で座長でモンマルトル劇場の支配人のマリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、新作『消えた女』の上演に向けて忙しい日々を過ごしていた。
マリオンには夫ルカがいた。ルカは高名な演出家でモンマルトル劇場の支配人だったが、ユダヤ人であったために国外に逃亡している。
と思わせておいてルカは実は劇場の地下室に潜んでいたのだった。
そのことを知っているのはマリオンだけ。
マリオンは毎日ホテルに帰るとみせかけて、地下室のルカを訪問していた。

ナチス、ユダヤ、ときて戦争物かと思いきや、メロドラマ。いや、メロドラマじゃなくてカトリーヌ・ドヌーヴ。
そう、カトリーヌ・ドヌーヴなんだよ。
ストーリーも演出も全てがカトリーヌ・ドヌーヴという一人の女優のために用意されたと思われる映画、だからカトリーヌ・ドヌーヴ。

冒頭、街頭で男がある女を熱心に口説いている。
男は怪奇劇の役者ベルナール(ジェラール・ドパルデュー)でこの話の中心人物。
でも女のほうはただの脇役。
メロドラマの中心になるのはベルナールとカトリーヌ・ドヌーヴ演じるマリオンとその夫のルカの3人だが、ベルナールとマリオンの出会いには恋愛の兆しすら見えない。
ベルナールとマリオンはモンマルトル劇場の支配人と新しい劇に出演する男役が仕事として出会う、というただそれだけの関係しか匂わせない出会い。
むしろ、冒頭の口説いていた女性が実はモンマルトル劇場で美術を担当する女性で、モンマルトル劇場と契約したベルナールと偶然にも再会するというシチュエーションの方が恋の話の予感がする。
ベルナールはこの女性を口説き落とすことに夢中になっているし。
ベルナールとマリオンの間にあった感情は後半ではっきりと明かされるまで気づかない。
新作劇の初演成功で思わずマリオンがベルナールにキスした瞬間から、あれっとは思うのだけど。
明かされればそういえばマリオンがベルナールを盗み見していたシーンや触れられることを拒否したシーンの意味がしっくりくる。
それにしてもこの強引とも言える展開がなんか感動的なのね。
マリオンは地下室の夫をユダヤ人狩りから守るために匿いつつ、夫の代わりに劇場の切り盛りもしていかなければいけないという状況でベルナールへの感情をおくびにも出さないでいる。
でもマリオンの夫ルカは劇場の地下で新作劇の稽古の音を聞いているだけなんだけど、それだけでマリオンの気持ちに気づいている。
マリオンがベルナールに想いを募らせ押し殺しているモンマルトル劇場の舞台の地下には夫がいる、というシチュエーションがもう面白いよね。
マリオンの感情が明かされる瞬間は夫ルカのピンチで盛り上がったシーンが山を越してふっと安堵した瞬間で、ふいに明かされる事実は息つく暇なく今までの展開を別領域に押し上げて別種の山場として押し寄せてくる。
こっからは怒涛の展開。
ラストの仕掛けは「やられた」と思うと同時に解き放たれたカトリーヌ・ドヌーヴの魅力にさらに「やられた」って感じになる。

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