2011年6月5日日曜日

映画『君を想って海をゆく』

2009年 監督:フィリップ・リオレ
at ギンレイホール




17歳のクルド難民のビラル(フィラ・エヴェルディ)はイランから4000Kmの距離を歩いて、フランス最北端の街カレにやってきた。
途中トルコ兵に捕まる等、平坦ではない道程。
目的地はイギリス。
イギリスに家族で移民した彼女を追いかけて。

しかしイギリスまで後一歩のところでイギリスに渡る手段を失い、カレに足止めされてしまう。
残る方法は、、、ドーバー海峡を泳いで渡る。。。

フランスの難民問題を扱った作品だけど、ぐっとくる人間ドラマになっているので堅苦しく構える必要は無い。

市民プールで泳ぎの練習を始めたビラルは、子供老人相手の冴えないおっさん指導員にコーチを申し込む。
このおっさんシモン(ヴァンサン・ランドン)は実は元水泳のメダリストで、昔は華々しく活躍していたが今では市民プールの指導員、かつ離婚調停中という男。
離婚調停中の妻は難民のためにボランティア活動をしているが、シモンにとって難民など無関心だ。
そんなシモンがビラルの水泳のコーチになっただけでなく、ビラルを家に泊めてやったりするのは妻へのアピール以外のなにものでもない。
そんな動機だったシモンも、次第にビラルに息子に対するような愛情を持ち始める。
難民の手助け、ましてや家に泊めるなんてフランスでは重罪らしい。
危険を承知の上でシモンはビラルの手助けを続けていった。

なんかストーリーの9割を書いてしまった気がする。
いや、予告編でもこの程度のことは紹介されている。
それでも最後まで少しも飽きずに見れるのは、描写が簡潔なのに一つ一つが雄弁に人物やその背景を物語っているからだろう。
無口なビラルの内側に渦巻く思慮深さを押しのけるほどの情熱と若さが、シモンの裏に潜む無気力、絶望にやんわりと浸透していく様が、劇的でなく、むしろ淡々と描かれていくのはなかなか見応えがある。
あ、110分もあったんだ。80分くらいかと思った。

妻役のオドレイ・ダナは若くて綺麗な人だ。
目に力がある女優さんはいいよなぁ。
確かにこんな妻と離婚することになったら絶望もする。
おお、ヴァンサン・ランドンの妻役だから40くらいかと思ったら30そこそこじゃん。
30そこそこだと思うとちょっと老けてるかな。

難民を泊めていると密告する隣人のドアマットには「WELCOME」と書かれていて、「ようこそ」と訳がちゃんと出ていた。
難民を全て受け入れたりしたら国の財政は大打撃を受けるだろうし治安への不安もある。
だからといってここまで過酷な取締りや、難民への差別意識はどうだろうという感情を抱かせておいての密告隣人の「WELCOME」だから、まあ皮肉だ。
ってことなんだけど、「WELCOME」がクローズアップされるのはそもそもこの映画の原題が『WELCOME』だから。
隣人だけじゃなくもっと広い範囲でWELCOMEという皮肉。
『WELCOME』だけじゃ客を呼べないと思ったのか邦題はこんなんなっちゃっているけど、こんな三流ドラマみたいな邦題なら原題の方がWELCOMEって何?と想像力が働いて断然興味湧くと思うけど。

フィリップ・リオレ監督は『マドモアゼル』と『灯台守の恋』を見ているが、今のところはずれがないな。

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