2011年2月16日水曜日

映画『メトロポリス』

1926年 監督:フリッツ・ラング
BS2 録画


メトロポリス [DVD]

SF映画の金字塔だけど、惹かれあう男女がくっついたと思ったら離れ離れになって、その後に劇的に再会するというメロドラマの王道の展開もする。
決闘のアクションもあるしてんこ盛りだ。

フィルムの4分の1が消失しているとのことだが、それでも2時間ある。
大量の人人人、顔顔顔、目目目、そして時にちゃっちいが作りこまれた壮大なミニチュア等々、正に大作だ。
統率された動きも投入されるもの(例えば人とか子供とか金とか)の量も全てが形式の中で不自然なまでに圧倒的な奔流を形作っている。
やること全てが針が振り切れちゃっているんじゃないかと思うほどに。
合成とかも出し惜しみせずいろいろやっていて、小手先な煩雑さでぐちゃぐちゃになりそうにも思うが、驚くべきことに圧倒的な様式美に貫かれて揺らぎもしない。

大量の労働者と一握りの上流階級という対比を描くのも徹底的で、労働者なんか住まいは地下に押し込められているし労働環境、内容も劣悪だ。
最初の方なんか労働者は全くの無人格で、人間というか彼らが操作/管理する巨大な機械の一部に過ぎないようにしか見えない。
せっせと繰り返す無機的な同じ所作で一体彼らがどんな意味のある作業をしているのか全く分からないし。
時計の長針のような3つの針を円盤の縁に散りばめられたランプの光る箇所に次々に合わせていく作業とか何の意味があるというのか。
ゲームとして30分くらいやるなら楽しそうだが、毎日毎日10時間もそんなことやったら人格崩壊する。
労働者達のそんなやりがいもやる効果も分からない最悪なルーチンワークだが、彼らの働きによってなぜだか機械が正常動作していることは確かで、それによって地上に暮らす上流階級の人々が人生を謳歌している、という超絶分かりやすい対比。

この映画で一番印象に残ったのはマリアを演じたブリギッテ・ヘルムだった。
サイレント映画の役者は必然として大仰な演技になるのだけど、フリッツ・ラングによるのかどうかは知らないがブリギッテ・ヘルムはその大仰さが圧倒的に凄い。
いや、凄いというか怖い。。。
序盤のブリギッテ・ヘルムは全く表情が無くて、顔のクローズアップになっても表情が読めず、まばたきをしない静止した顔は底の知れない恐怖を感じさせる。
だから地下の墓地で跪くフレーダー(グスタフ・フレーリッヒ)に近づいたマリア(ブリギッテが)が、首を突き出してフレーダーを見下ろしながら、「あなたが仲介者?」と、驚きと歓喜で詰まりながら言葉を搾り出す瞬間、そこに初めて現れる感情的な表情は今までの絶対的な無表情が崩壊する不吉な瞬間であって、彼女がそのまま怪物に変身してフレーダーを一呑みにするんじゃないかという錯覚に陥って、えも言われぬ恐怖を感じてしまった。(屈んだときに思いっきり首を突き出すから怖いのかな)
それよりも一番怖かったのはこのシーンのすぐ後にくる、発明家のくせにがたいのいいロートヴァングに追われて逃げるシーン(序章のクライマックス)でのブリギッテ・ヘルムの表情だ。
恐怖におののくブリギッテ・ヘルムの怖さが伝わってくるとかではなくて、ブリギッテ・ヘルムその人の恐怖の演技が恐怖になっている。
大げさな演技の究極の姿がここにあって、ブリギッテ・ヘルムはサイレント映画役者の極致にいる。
そしてこの逃げるシーンが本当に美しいんだわ。

ブリギッテ・ヘルムは美人では無いよなと思っていたら、一応美人女優という世間一般の認識らしい。
美人で通っているけど僕には美人に思えなくて、でも最高の女優だと思う、ってソフィア・ローレンと同じパターンだな。

フィルムが失われているというのが非常に残念だ。

フリッツ・ラングは二本ばかし見ていた気がするが、フィルモグラフィーでタイトル見ても『ドクトル・マブゼ 』しか記憶に無いな。
『月世界の女』と『M』は確実に見ていないはずなのでBSでやってくれないかな。

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