2011年2月19日土曜日

映画『エレニの旅』

2004年 監督:テオ・アンゲロプロス
BS2 録画


エレニの旅 [DVD]

1月にBS2で放映していて録画した4本の内の一つ。
本当は年代順に見ていこうとしていたのに間違えて一番新しいやつから見てしまった。
ちなみにアンゲロプロスは『永遠と一日』しか見たことが無いので初心者です。

170分あるから気合入れて見ないとなぁと思っていたけどそんなに構える必要もなかった。
長回しを多用する監督は何人もいるけど、アンゲロプロスの長回しはそこに雄大な時の流れを感じさせる。
長回しでゆったり動くカメラが切り取る時間はその時その瞬間の固有のものの筈なのに、永遠に続いていくように錯覚してしまう。
広大な川辺の荒野にある村は時代が変われば水没してしまうし、永遠に続くものなんて無いのに。
シンプル(殺風景)で時に幻想的な空間にある静謐さの中に、人々の生活や感情がひっそりと染み込んでいるからだろうか。

ストーリー自体も時間軸の飛躍に無頓着で、何年も時が経過しているのにその前後のシーンには一切それを示唆するものが無く、次の日みたいな感じでしれっと数年経過していたりする。
1919年頃という曖昧な年に始まり、その時4歳くらいのエレニ(アレクサンドラ・アイディニ)が次のシーンでは14歳くらいになっている。
さらには生んですぐ離れ離れになった双子に再会するとき、赤子だと思っていたら双子はいつの間にか8歳くらいに成長している。
エレニを演じている女優が代わっているなとは思ったけどさぁ。全然分からん。
でもまあ、この程度ならまだ付いて行ける。
詩的なセリフもほとんど無いし、ちゃんとストーリーもあるので。
最後の方の怒涛の展開で息子達がいつの間にか兵士になっているのは一番混乱したけど。

アンゲロプロスは音の使い方が上手くて、非常に好み。
意図して拾っているのだと思うが、馬車の車輪の音とか浅瀬を歩く音とかシーツがはためく音とか。
とりわけ、この映画で重要な河とか海にも関係するけど、水に関した音がいいな。
テーマ音楽は『永遠と一日』に似ているので同じ音楽監督かなと思っていたら、同じどころか『シテール島への船出』以降音楽はずっとエレニ・カラインドロウが担当しているらしい。

それにしても村全体が水没しているシーンはどうやったんだろう。
曇天でよく見えないが地平線の先までかなりの広範囲で水没しているように見える。
ああ、公式ページによると冬には水が引く湖に村を建設したらしい。なるほど。

クライマックスの幻聴、幻視は、それまでの静かな流れを一切損なわないままクライマックスらしい圧巻のシーンになっている。

印象的なシーンが多く非常に面白かったのだが、一点微妙だと思ったのは、血の付いた手で真っ白いシーツに触るのは1枚目だけで十分で、2枚目、3枚目も触るのはやりすぎだろう。
あ、もう一点、難点というか個人的なことだけど、ギリシャの近現代史を全く知らないのでストーリーの背景を知識で補完できなかった。
補完しなくてもなんとなく起きてる事は分かるのであまり問題じゃないけど、ギリシャ悲劇の国のこの救いようの無い悲劇をストーリー上より理解するためには必須の知識かもしれない。

ヒロイン役のアレクサンドラ・アイディニはなかなか綺麗な女優さんだった。
横顔見るとはっきり分かるが、顎が鼻のように見事に突き出していてキュート。

元々一本の長編で20世紀全体を描く構想が、上映時間があまりに膨大になりすぎるため3本に分けたらしい。
『エレニの旅』はその三部作の一作目に当たる。
二作目以降が現在どこまで作られているのかは知らない。

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