2019年5月4日土曜日

映画『人情紙風船』

1937年 監督:山中貞雄
製作国:日本
BSプレミアム録画


人情紙風船 [DVD]

江戸の長屋が舞台。
粋な男髪結新三(中村翫右衛門)は隠れて賭場を開いたりして地元のヤクザ衆に目を付けられている。
長屋の隣人の浪人者海野又十郎(河原崎長十郎)は亡くなった父の知人である毛利三左衛門に士官の口を頼もうとするが毛利は海野を厄介者扱いする。
で、なんやかんやあってまじかって話。

めちゃくちゃ面白いというわけではないけど、傑作と呼ばれるだけあって確かに面白い。
早くも遅くもないストーリー展開のくせに一つ一つがシンプルに的確で、がっちり嵌まる心地よさがある。
それぞれ追い詰められていく新三と海野の対比も面白い。
新三が命がけの豪胆さでヤクザの親分(市川笑太郎)を追い返すところは屈指の名シーンだ。
町人の新三が武士に劣らない気概を持っている分、海野の不器用さや鈍臭さが実に悲しい。

画面構成も静と動のバランスが、えー、なんというかやっぱり的確、という言葉がいいかな。
例えば、白子屋から叩き出されてぼこぼこにされる海野→そこから新三を追いかけ始めて走り去ったやくざ衆のあとの一瞬の静けさ→新三を追いかけるやくざ衆→追い詰めた新三とやくざ衆のやりとり→静けさの中むっくり起き上がる海野
この時起き上がる運のの画面奥の店先では吊るされた無数の何か(何かわからん)が風でひらひら揺れているのね。
冒頭からして雨の夜からの晴れた朝、そして長屋に入っていく役人達が水たまりを避けてくねくね動くのもいいよな。
長屋の庭木なんかもよく風で揺れていたりするけど、この風ってたまたまなのか意図的なのかは知らない。
あと、海野が完全に突き放されて雨の中立ちすくむシーンでは、静止からとぼとぼ歩き出す海野の背後を忠七が猛スピードで白子屋に駆け込むところを重ね、次のストーリー展開につなげるところもかっこいい。
あからさまに静と動を対比させてどうだ!みたいな感じじゃなく、画面内でわちゃわちゃいろんなもの動かしてどうだ!って感じでもない。
さりげなく的確に動きがあるってところがもうセンスとしかいいようがない。

海野役の河原崎長十郎は河原崎長一郎のお父さんだな。
あとヤクザ衆の若頭的立ち位置の男がなんか加東大介に似ていると思ったら加東大介だった。市川莚司は加東大介の旧芸名らしい。


ちなみに山中貞雄は昔(調べたら2000年だな)ビッグコミックスペリオールで「沙堂やん」っていう山中貞雄を扱った漫画を読んで初めて知って、それからずっと気になっていた。
で、2011年に録画したやつを令和1本目として選んでやっと見た次第。
アナログ放送時代には現存する3本を録画していたはずだけど(結局未見)、デジタルになってからはこの遺作1本しか録画してなかったみたいだな。
他のも見たい。

0 件のコメント:

コメントを投稿