at ギンレイホール

もう邦画で良質のホームドラマは見れないもんだと思っていたけど是枝さんが作っていた。
これは面白いね。
三浦海岸の高台に住む母(樹木希林)と父(原田芳雄)。
そこに娘ちなみ(YOU)と信夫(高橋和也)夫婦が子供二人を連れて日帰りでやってきている。
さらには次男良多(阿部寛)とゆかり(夏川結衣)夫婦もやってくる。
二人暮しの静かな生活が一気ににぎやかになる夏のひと時。
アドリブが入っていたりするのかな。全部脚本どおりだとそれはそれで凄い。
たった一日の、しかも8割方家の中での出来事なのに、人物の現在過去未来全ての要素がセリフやシーンの一つ一つに凝縮されて、心が浮かび上がってくる。
おばあちゃんの家で初めて会う従兄弟と夏の日差しに照らされながら駆け回るきらきらした時間。
子供付きで再婚したゆかりの、義理の両親に認めてもらいたいと思う意気込み。
よく喋る義理の母や気さくな義姉によって自然に溶け込めるのだが、笑顔がぎこちない。
心労は休憩時にどっと噴出す。大変だなぁ。
一方ちなみの夫信夫は子供みたいに無邪気で、義理の両親の家でもおかまいなくくつろぎ、子供二人とはしゃいでいる。
とはいえ、「あんなくだらない奴」という言葉に自分に向けられた言葉かと思ってどきどきしたり。
次男良多は家父長制の名残を色濃く留める元医者の父と折り合いが悪い。
自分の跡をついで医者になることを強要されて反対して美術品の修復師となったが、今は失業中。
失業していることなど絶対この父にだけは知られたくない。
診療所も閉じたのに「先生様」の威厳を保つことに執心しているような父を嫌っていた良多だが、無力さをさらけ出しても元患者の命を心配する父の姿は良多の心に深く焼きつく。
子供達が帰った後、年老いた二人がえっこら階段を上りながら、次は正月だな、と寂しさと期待を込めて言う。
場面は変わって良多が今回これだけいたんだから正月はいいだろうと言う。
等々、何気なく切り取られる誰の記憶にもあるような日常的なセリフやワンシーンが思いのほかぐっとくる。
ホームドラマだねぇ。
この家族が普通と少し違うところといえば、長男が15年前に亡くなっているということ。
長男は海で子供を助けて自分は溺れて死んでしまったのだ。
この時助けられた子供は大学を卒業して就職(バイトだけど)している。
毎年命日にこの家に挨拶にやってくる。
この辺から家族の心情がストレートに吐露されるようになってくる。
特に樹木希林のセリフは愛情と残酷さが複雑に交じり合って、暗めの照明とあいまって緊迫の瞬間を作り出している。
迷い込んだ黄色い蝶のシーンなんか変わらぬ息子への愛情と痴呆症になったのではないかという不安感がごっちゃになって思わず息を詰める。
「この家は俺が働いて建てたんだ」とか「とうもろこしの話は、あれ、俺だから」とか、あれ、と思いつつ触れられないから通り過ごしたシーンが後になってから説明されたりして時間差で繋いでいくのも程よい刺激になりつつ。
腕によりをかけて振舞われる料理とか剥げ落ちてそのままになっている風呂場のタイルとか手すりとかありふれた日常会話とか生活臭とか家族の雰囲気とか、年齢を重ねれば重ねるほど楽しめるのだろうな。
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