2009年6月9日火曜日

映画『太陽はひとりぼっち』

1962年 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
BS2 録画


太陽はひとりぼっち [DVD]

昔、人に勧められてからも結局一本も観ていなかったアントニオーニ。
これは少なからず衝撃です。特に最初20分とラスト。
ああ、なんで今まで一本も観なかったんだろう。

黒背景のオープニングクレジットで流れる明るいポップス。
と思ったら音楽はフェードアウトして現代音楽風の少し不穏な音楽に差し変わる。
オープニングの音楽を途中で変えるってなんかただ事じゃないと思って観ていると、室内シーンが始まる。
アパートの一室にいる男女二人。
フランシスコ・ラバルとモニカ・ヴィッティ。
二人とも最初何も喋らない。
モニカ・ヴィッティという女優を初めて見たのだのだけど、物凄い美人。
どんな表情をしてもどんな角度から撮っても美人。
そのモニカ・ヴィッティの顔、しなやかな腕、細く均整の取れた陶器のような脚がこれでもかと映し出されていく。
ふらふら室内を歩き回るモニカ・ヴィッティは鏡、窓ガラス、磨かれた床に自分の姿を焼き付けていく。

この室内シーンは20分くらい続く。
男女が別れ話をしているらしい。
緩やかなのにあまりに濃縮した時間。
ちょっと高級な部屋だけど、これみよがしに芸術的な家具や配置をしているわけでもなく、なんてことない一室なんだけど。
椅子に座ったフランシスコ・ラバルのネクタイが一瞬ぴらっとめくれて、超能力?と思うと別の角度からのシーンで首振り扇風機が傍にあることが分かる。
この扇風機が一個でなく何個も部屋の中にあって回っている。
無機的な扇風機自体とそれが送り出す風によって、けだるさと動きが加わる。
閉じられていたカーテンは開かれ、付けられていた電気は消され、カメラの動きや角度で刻々と部屋の様相は変化していく。
セリフは少ないのに、反射とコントラストの強い光と影と音と風と活発に位置を変えるカット割で驚くほど刺激的な20分。

この最初のシーンだけでもうノックアウトされた感じだな。
物語の方は、リカルド(フランシスコ・ラバル)と別れたヴィットリア(モニカ・ヴィッティ)が、母が足しげく通う証券取引所で働くピエロ(アラン・ドロン)と出合って付き合いだすというもの。
細かく書けばいろいろあるのだけど、主軸はそれだけで124分だ。

モニカ・ヴィッティ演じるヴィットリアは知的で感受性が豊かな女性。
何かをやっている途中でも気になる風景を見つけたら全てを忘れて引き込まれてしまう。
まるで写真家が撮影のベストポジションを探すように立ち位置を変えながら一心に見つめる。カメラも持っていないのに。
ヴィットリアにとってこの世界は喜びに満ち溢れているんじゃないかと思えばそうではない。
今の金と物資至上主義の社会は自分の理想と乖離しているし、自分自身の感情すら理想と現実で乖離している。
新しい恋人のピエロは自分の嫌いなマネーゲームの戦場で働く男だし、何よりピエロはあまりに冷たい男で本来嫌いなはずなのにどうしようもなく「愛している」。
元恋人リカルドと別れようと思った理由だって「分からない」のだ。
これだけ知的なのに自分の感情がまるっきり分からない。
こんなに孤独な事はない。
気に入った風景や絵画や静止物を見つめるときは無心な喜びに満ち溢れるけど、人と接するときは笑っていてもどこか乾いている。
時折アンニュイな視線をあのきりっとして知性に溢れた美しい顔でやられるとそれだけでまいっちゃうよなぁ。

孤独という事で考えると『太陽はひとりぼっち』というたぶん『太陽がいっぱい』から取ったであろう安易な邦題もなかなか素敵に思えてくる。
原題は『L' ECLISSE』。英題だと『THE ECLIPSE』。
Eclipseとは日食、蝕を意味する。
となるとまた小難しくなってくるので「太陽はひとりぼっち」の方がまだ分かりやすい。
ちなみにeclipseといって思い浮かべるのは昔は武満徹の琵琶と尺八の室内楽曲だったけど、最近では仕事でよく使う統合開発環境になっちゃたな。

前半はちょろっとしか出ないもう一人の主人公ピエロを演じるのはアラン・ドロン。
ピエロという役柄はこれもまたヴィットリアと違う意味でひとりぼっちなのね。
現代的ひとりぼっち。
この正反対の二人の関係が面白いんだけど、なにより二人とも美系で、ラストの方で二人が頬寄せ合って同時にカメラ目線になるところなんか反則です。
ピエロ単独の名シーンといえば、酔っ払いに車を盗まれたときに走り去ろうとする自分の車の前に飛び出した後、少しもスピードを緩めない車に慌てて飛びのくシーン。
避け方が面白いこともあるのだけど、一歩間違えれば大事故なのにスタントマンを使っておらず、しかもかなりぎりぎりのタイミングで避けてるから凄い。

そしてラスト。
最近はラストで衝撃を受けることはほとんどなくなったけど、さすがにこれは衝撃だった。
音楽とともに既に流れたシーンや二人が不在の同一ショットなどがつなぎ合わされながらの映像になり、なんだこれと思ったら、ああ朝から夜の時間の経過を現していたのかと衝撃を受けたあとに・・・

2007年5月に録画

0 件のコメント:

コメントを投稿