2011年4月30日土曜日

映画『レオニー』

2010年 監督:松井久子
at ギンレイホール


レオニー [DVD]

レオニー。誰?
レオニー・ギルモア。イサム・ノグチの母親。
ドウス昌代の『イサム・ノグチ 宿命の越境者』を元に母親のレオニーを主役にして映画化。
公式ページを見ると、完成までに結構な年月と苦労があった模様。
ただ、レオニーの生涯というかイサム・ノグチはこんな風に育ったんだ、ということを知る事ができてありがとう、といった感想が先にくる。

レオニーを演じたのはエミリー・モーティマーで、このサトウタマオみたいな目をした女優さんが苦手なのでどうも乗れなかった。
うーん、よく見ると小林幸子にも似ているな。
イギリスの小林幸子ことエミリー・モーティマー。

しかしエミリー・モーティマーはまあいいとして、問題は中村獅童だ。
またもや好みの問題になるが、中村獅童が苦手。
役者の中には浅野忠信のように佇んでいるだけでも絵になる特異な役者がいる、と以前どこかで書いたけど、中村獅童に関しては映るだけで全てを胡散臭くするという意味で特異な役者だろう。
ああ、本当胡散臭いわぁ~。
映像も他の役者も全て胡散臭くする特異すぎる能力。

イサム・ノグチの役者は赤ん坊含めて5人くらいだったかな。
日本に渡ってくる前後の子役がかわいらしいアメリカの子供という感じだったのに、茅ヶ崎に引っ越す辺りからウェーブのかかった髪型はそのままに顔だけはのっぺりした可愛くない子役に変わっているので笑ってしまった。
イサム・ノグチが生まれる前までのシーンで、本当にしつけーなーと思うくらい執拗にインサートされる壮年期のイサム・ノグチ役は舞踏家の勅使河原三郎が演じている。
物言わず黙々と蚤を打つ舞踏家の姿がイサム・ノグチのイメージに最も重なる。

レオニーは結構有名どころと交流があって、津田塾大学の創始者津田梅子とアメリカで知り合いになっているし、日本では小泉八雲の子供達の英語教師をしたりしている。

あまり乗れずに見ていたけど、ラストは不覚にも涙流しそうになってしまった。
死者が穏やかな顔で現れるっていうのはどんな映画でも泣けるよなぁ。

武満徹のフルート曲で『巡り~イサム・ノグチの追憶に』というのがある。
高校生の時図書館で借りたCDで聞いたきりなのでまた聞きたいな。

映画『ルイーサ』

2008年 監督:ゴンサロ・カルサーダ
at ギンレイホール




前の席のおばちゃんが姿勢よすぎてスクリーンが隠れていらいらする。
おばちゃんが途中寝始めて首がかくっとなった後は快適だったのに、目覚めたらまた姿勢正しやがってからに。
映画自体も音楽が無駄に多すぎてつかれてしまった。
銀残しの映像の雰囲気もいいし、冒頭まだ夜も明けきらない早朝にルイーサがアパートから出たところからバスに乗るところまでの歩くシーンが凄く好みで、期待に胸が膨らんだのだけどなぁ。
カメラを斜めにした構図とかも段々うっとおしくなってくる。
前の席のおばちゃんのせいか、この映画自体のせいかわからないが、とりあえずあまり集中して見れなかった。
つまらなくはなかったけど。

ブエノスアイレスが舞台。
一人暮らしで唯一の家族は猫のティノというルイーサは、毎日同じ時間に出勤、定刻で帰宅という規則正しい生活を続けていた。
ある日猫が死に、堅実に二つ持っていた職も一気に失う災難に見舞われる。
あと一年で定年だったというのに。
貯金はわずか20ペソ程度。
これからどうやって暮らしていけばいいのか。
というより彼女にはこれから先のことよりも、愛猫の火葬費用の300ペソをいかにして稼ぐかしか頭にない。
この年で初めて乗った地下鉄で見た様々な物乞いの人達をヒントに、ルイーサは地下に潜って小銭稼ぎを始める。

バス通勤で地下鉄に乗った事が無いってどんだけ決まりきった同じ日常を過ごしてきたのだろう。
堅物であることに間違いは無いが、遥か過去に夫と子供を同時に失ってからというもの、生きる希望のようなものを失っているという原因もある。
無味乾燥な全く同じ日常を何十年も規則正しく続け、かつ周りの人を遠ざけて一切受け入れなかったルイーサが、唯一の家族であった猫や仕事を失って何も無い絶望のどん底に落ちてからどう変化していくか。
先の見えない絶望は続いていくのだろうが、一人じゃないということが小さいながらも強い希望となって差し込んでくる。

ルイーサ役のレオノール・マンソはブエノスアイレス生まれで、ベテランの女優さんらしい。
険しい顔をしているが若い頃は美人だったのだろうな。
オラシオ役のジャン・ピエール・レゲラスは2007年に亡くなられている。

2011年4月29日金曜日

5月INFO

5月1日(日)午後10:00~11:50  BSプレミアム
ウホッホ探険隊 1986年・日本 
〔監督〕根岸吉太郎
5月2日(月)午後10:30~午前0:00  BSプレミアム
地獄門 デジタル・リマスター版<初公開>1953年・日本
〔監督・脚本〕衣笠貞之助
5月3日(火)午後10:00~11:49  BSプレミアム
新・平家物語 デジタル・リマスター版 1955年・日本
〔監督〕溝口健二
5月4日(水)午後10:00~午前0:05  BSプレミアム
浮雲 デジタル・リマスター版<初公開> 1955年・日本
〔監督〕成瀬巳喜男
5月9日(月)午後1:00~2:41  BSプレミアム
十一人の侍 1967年・日本
〔監督〕工藤栄一
5月23日(月)午後1:00~2:36  BSプレミアム
ある子供 2005年・ベルギー/フランス
〔製作・監督・脚本〕ジャン・ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ

BSプレミアムになってサイトが新しくなってそして見づらくなった。

前半は昔の邦画がたくさん。
後半は2005年前後の映画がたくさん。

2011年4月24日日曜日

映画『白いリボン』

2009年 監督:ミヒャエル・ハネケ
at ギンレイホール




モノクロだし1950年代くらいの映画のデジタルリマスターなのかと思ったら2009年作。
ミヒャエル・ハネケか。
一本も見た事無いや。

長年関係を持ってきた情婦に対して「お前は口が臭い」とか「若い女を想像してお前を抱くのに疲れた」とか、さんざん衝撃の暴言を吐いた後、「黙って死んでくれ」って言う映画。
「黙って」というところに実は隠された意味があると後で分かるのだが、それにしても衝撃だ。
捨て台詞に使えそうだな。「黙って死んでくれ」。

第一次世界大戦直前のドイツ北部にある村での出来事。
村のドクターの家の門付近に針金が張られ、馬に乗ったドクターが落馬して大怪我を負う事件が発生する。
誰が何のために行なったのか不明なまま、この事件を皮切りに次々に不可解な事件が連続する。
中には偶然の事故や犯行意図も犯人も明確になる事件もあるけど、多くは犯人がはっきり明かされないままラストを迎える。

村を支配しているのは男爵一家で、それと同等くらいの権力者にプロテスタントの牧師一家がいる。
男爵一家の下には家令一家がいて、さらに小作人一家がいる。
それからドクター一家や独身の若い教師がいて、物語自体はこの教師が老齢になった後の昔語りという形式で進んでいく。
登場人物が多い。
大量にいる子供達も誰が誰の子供なのか分からなくて混乱する。
字幕も背景の白色に重なってよく読めなかったりするので、字幕に集中していたら映像が見れない。
そんな悪循環の上にはっきり犯人が分からないラストだから大量のはてなマークです。

犯人を示唆するヒントはたくさんあって、もう一回くらい見たらもうちょっと詳細に各事件の犯人を想定できるかもしれない。
でも犯人によって解釈が異なってくるとはいえ、謎解きの物語というわけでもないので、犯人探しはそれほど重要じゃない。
重要なのはこの一見平和そうに見えるのどかな村の、大人達の独りよがりなエゴイズムと、その犠牲者の子供達に育つ残忍狡猾な悪意にある。
間接的な復讐と天誅気取りの履き違えた正義と差別。
村を襲った謎の事件は、第一次世界大戦という大きな「事件」にかき消されてうやむやになる。
いや、うやむやというか、この村の出来事が第一次世界大戦、そしてナチスへとシームレスに移行していくような感じだ。

モノクロにしたら面白くなっちゃうから今の時代の監督がカラーで勝負しないで安易にモノクロにするのは卑怯だと思っていたけど、この映画に関してはまあ許せるかもしれない。
のどかな村の中に重く垂れ込める見えない悪意と緊張感がモノクロの映像によって上手く表現されている。
カラーフィルムをデジタル処理でモノクロ変換しているらしい。
そのせいかモノクロの発色がいいというか緻密というか、くっきりした映像になっている。

ちなみに登場人物による賛美歌はあるけどバックミュージックが一切無い。
クレジットタイトルやエンドロールも無音。
下手に音楽使うよりも一切無い方が確実に面白くなるもんだ。

映画『Ricky リッキー』

2009年 監督:フランソワ・オゾン
at ギンレイホール




赤ん坊に羽が生えた。
部屋の中を飛び回る赤ん坊のこの秘密をひた隠しにしていたが、ある日スーパーで赤ん坊が飛び立ってしまい大騒ぎになる。
マスゴミが大量に押し寄せてきて。

なんか題材としてファンタジーでつまらない予定調和の家族物という臭いがするけど、監督はフランソワ・オゾン。
ラストはハッピーエンドなのかよく分からない。
そして映像もストーリーも生々しい。
羽根、といっても始めは鶏の手羽先のような形で、それがピクピク動くからグロテスクといっていい。
しかし何より生々しいのは母親で、その性格といい緩み始めた肉体といい、少しもファンタジーじゃない。
7歳の娘リザと暮らすシングルマザーの母親は、娘に愛情を注いでいるようでいながら、男が出来た途端娘の事なんかこれっぽっちも考えていないビッチな母親になる。
娘がいる家で男とやるなよ~。
リザは父親がいないせいか大人びていて、そもそも母親は最初から娘を二十歳くらいの自立した子供のように扱っていた素振りもある。
でもいくら大人びていようが子供は子供なんだから、日課だったスクーターの二人乗りでの送り迎えがバス通学に変わり、男と母親が楽しそうにスクーターに二人乗りして、娘に見向きもせずにバスの脇を通り抜けていくのは痛々しい。
母親のリッキーに対して目覚める異常なまでの母性愛も意識の底でリザを孤独にしている。

平凡な家庭、といっても幸せさを恥ずかしげも無く振りまく家庭じゃなくて、家族の一人一人が孤独を抱えているそこら中にいる平凡な家庭、なのね。
だから3人ががっしり抱き合う瞬間の温もりが胸に響く。
あれっ?やっぱハッピーエンドなのかな。
リッキーという一人の人生(命)が出汁に使われたものは本当に命に見合うだけの価値があるのか?
以前『幸福な食卓』という邦画で老けた高校生の命がどうでもいい家族の再生物語のダシでしかなかった事にしらけてしまったけど、『Ricky リッキー』ならば家族の繋がりはそこまで重要なものなんだよと言われても納得できるかもしれない。
いいようにモンスターを厄介払いしたご都合主義だとも言えるかもしれないが、それは予定調和なファンタジー物語の場合に言えることであって、この生々しい映画には当てはまらない。

リザ役のメリュジーヌ・マヤンスは可愛らしいのだが、ホラー映画に出てきそうな子だなぁ。
実際最初の登場シーン、家の暗い廊下にとことこ現れるシーンは一瞬ホラー映画かと思ったし。

2011年4月21日木曜日

映画『天はすべて許し給う』

1955年 監督:ダグラス・サーク
BS2 録画


ダグラス・サーク コレクション DVD-BOX 1(初回限定生産)

なんだこの大甘なメロドラマは。
甘すぎてメロメロだ。
恋愛物はヒロインが魅力的じゃないと少しも楽しめないのだが、ヒロインはなんと大学生の子供がいる母親。おばさんじゃん。。。
なのになんだろう、面白かった。

上流階級の未亡人キャシー(ジェーン・ワイマン)が、その美しさから数々のおじさんやじいさん連中に言い寄られるのだが、若くハンサムな庭師のロン・カービー(ロック・ハドソン)と恋に落ちるという物語。
ロンは金や地位に無関心で「自分に正直」に生きる男で、彼の生き方に惹かれたという形。
恋愛物に付きものの障害としては、年の差、生活格差、世間の風評、子供達、とてんこ盛り。
ロンのキャシーへの想いがいつ冷めるのだろうという無用な冷や冷や感もあるし。

ヒロインは若くして結婚したという設定だから、子供が大学生といってもまだ40前くらいなのだろう。
品があって美しく、ドレスから露出する肌はアメリカ人とはとても思えないくらい綺麗で瑞々しい。
おお、演じたジェーン・ワイマンは1914年生まれだから40超えているなぁ。

息子達からのクリスマスプレゼントでロンがやってくるのだと思ってにやにやしていたらとんだ肩透かしをくらう。孤独を決定付けるような残酷なプレゼントだ。
そしてまさかあと一歩のところであんな事故が起きるなんてねぇ。
全く最後まで楽しませてくれます。

2011年4月17日日曜日

映画『フェイシズ』

1968年 監督:ジョン・カサヴェテス
BS2 録画


フェイシズ HDリマスター版 [DVD]

恐ろしく異様で恐ろしく生々しい。
クレジットタイトルも無く始まる冒頭は、なんてことないシーンのはずなのに、ざらついた感触の緊張感に溢れているから戸惑う。
手持ちカメラで撮られる奔放で自由すぎる構図と、執拗な顔のアップ。
なんだこれはと思っていると、なにやら登場人物達が映画の中で映画を見始め、そのタイトルがFACES。

中年(というか初老のおっさん?)二人が友人らしき高級娼婦ジーニー(ジーナ・ローランズ)の家で馬鹿騒ぎしている。
馬鹿騒ぎが本当に馬鹿っぽい。
よっぱらい、しかもおっさんのよっぱらいの少しも笑えない馬鹿騒ぎを長々見せられて一体何が面白いのかと、映像の異様さに惹きつけられながらも少々うんざりしていると、段々馬鹿騒ぎの中に生々しい欲情や嫉妬等の感情が顔を覗かせてくる。
「ジーニー 君は幾らだ?」

ストーリーの概要としては、ある仲よさげな夫婦の関係が冷え切って、でもまだ細い糸で繋がっているような1日半の出来事。

映画は笑い声に溢れている。
楽しいから笑う。おどけて笑う。ジョークが面白くて笑う。自分で言ったジョークが面白くても笑う。
しかし少しも笑えない。
登場人物達はどんだけ笑いの沸点が低いところにあるのだろう。
登場人物の誰しもが馬鹿みたいに笑い続けている。
しかし自分の笑いのセンスを疑う必要は無い。
だって登場人物達も本当に可笑しくて笑っているわけじゃないのだから。
馬鹿みたいに笑いながらも心はひどく冷めている。
だから楽しげな雰囲気が一変して冷めた空気になったり、大きな笑い声がそのまま怒声へと澱みなく変化したりする。
笑い声は全てカモフラージュなのだ。
笑い声の衣を剥ぎ取ったら冷めた現実が生々しい顔して現れてくる。
カメラはそこを逃さない。
FACESだけあって表情のアップが多いのだけど、時折その表情がえぐるように痛い。
「ジーニー 頼みがある。 ふざけてないで自然に振舞え」

そういえば唯一チェック(シーモア・カッセル)が噛み付くように不敵に笑っている姿は笑えたな。

ジーナ・ローランズのかっこよさはもちろん、妻役のリン・カーリンも魅力的な女優さんだった。

ラストの階段のシーンは名シーンだなぁ。

この映画はジョン・カサヴェテスが自宅を抵当に入れて自主制作し、出演者もスタッフもノーギャラだったそうだ。
撮影の大半はカサヴェテスの自宅で撮影され、撮影期間6ヶ月、編集期間3年間と相当な時間を費やしている。
ニューヨーク・インディーズの雄と敬愛されるジョン・カサヴェテスだが、インディーズとかインディペンデント映画とかいまいちなんだかよく分かっていなくて、低予算とかそんな程度くらいにしか考えていなかったけど、本当に撮りたいものを撮るためにやかましい映画会社に頼らず自らの資産を投げ打って映画を製作するってことだったんだな。
『フェイシズ』によりハリウッドでインディペンデント映画というジャンルが確立されたと言われているらしい。
ジョン・カサヴェテスはその後もインディペンデント映画を撮り続け、彼の財産は全て映画制作のために費やされたというから凄い気合だ。
・・・今更こんなこと書いても恥ずかしいが『グロリア』すら観ていないジョン・カサヴェテス初心者なもので。

2011年4月10日日曜日

映画『人生万歳!』

2009年 監督:ウディ・アレン
at ギンレイホール


人生万歳! [DVD]

かつてノーベル賞候補にもなった物理学者のボリス(ラリー・デヴィッド)は、今では妻とも別れてダウンタウンで一人暮らしする偏屈じじい。
ある日ボリスは南部から家出してきた若い田舎娘メロディ(エヴァン・レイチェル・ウッド)を拾う。
尺取虫なみの知能とボリスに揶揄されるメロディは、いつの間にかボリスの家に居座り、終いにはあろうことかボリスと結婚までしてしまう。
メロディもそうだけど、メロディを追いかけてきた趣味の悪い母親とか保守的で駄目駄目な父親とか、NYと厭世家ボリスの毒気に当てられてか、洗練されたり開放的になったりと劇的に変化するのが楽しい。

ボリス役はウディ・アレンが演じていればもう少し面白かったはずだけど、もうおじいさんすぎて駄目かな。
なんでもこれが40作品目になるらしい。
というころは3分の1くらいは見ているはずだが、ウディ・アレンのいろんな映画が頭の中でごっちゃになってしまって、ウディ・アレン映画の中でも異質な『インテリア』くらしか思い出せないところがつらい。
10数本程度とはいえ、あまり多く見るものじゃないのかもしれない。
脚本自体は70年代中頃に執筆されたものらしい。

エヴァン・レイチェル・ウッドはスタイル抜群で、ロングの髪でユニクロをうろついている時なんか品格さえ漂う美しさ。
あれ?『レスラー』でミッキー・ロークの娘役だった子らしい。あんなに不細工だったのに。。。
げげっ!調べてみるとマリリン・マンソンと付き合っていただの婚約しただの出てくるなぁ。

映画『エリックを探して』

2009年 監督:ケン・ローチ
at ギンレイホール


エリックを探して [DVD]

エリック・ビショップ(スティーヴ・エヴェッツ)はバツ2で二番目の妻の連れ子二人と一緒に暮らしている。
この義理の息子二人には舐められっぱなしのつまりは冴えないオヤジだ。
一番目の妻との間にも娘が一人いて、大学生らしき娘には赤ん坊がいる。
この赤ん坊の子守の都合で一番目の妻と数十年ぶりに会うことになるのだが、彼は未だに一番目の妻に想いを寄せており、数十年たっても変わらぬ素敵な元妻を遠くから認めたエリックはそのまま会わずに逃げ出し、パニック状態のまま交通事故に合う。
たいした怪我でもなかったが、精神的な落ち込みようが半端じゃなかった。
そんな時彼が最も尊敬するサッカーのスーパースター、エリック・カントナが突如現れる。
「すべては美しいパスから始まる」
カントナが、そしてエリック・ビショップの多くの仲間達が、さりげなく彼の人生を後押ししていく。

ケン・ローチって今まで二本(『ケス』『麦の穂をゆらす風』)しか見ていないのでよく知らないのだけど、『ケス』のサッカーシーンで大爆笑したのを鮮明に覚えている。
日常の風景の中に潜むユーモアが時折破壊的に面白い。
そしてそういった日常に突如割り込んでくる異物、例えば紛争とかエリック・カントナとか。
異物が日常を侵食してきても、遠い世界の話でなくそれが日常のようにリアルな体験として感じられるのは描き方が上手いのだろう。
『エリックを探して』はほのぼのとしたコメディで、深刻な題材の多いケン・ローチには珍しい作品らしい。
じゃあ重い話が無い分、日常のユーモアが終始爆発して腹がよじれちゃうんじゃね?と思いきや、爆笑できるシーンもない上、その質感のある日常の風景がたまに長ったらしく感じてしまった。
でも、まあ爆笑はしなくても全体的に楽しくて面白かった。

2011年4月9日土曜日

映画『スパルタンX』

1984年 監督:サモ・ハン・キンポー
BSプレミアム 録画


スパルタンX デジタル・リマスター版 [DVD]

映画って大体1回観たら終わりで、ごく稀に面白かったからもう一回見ようとか、何年後かに思い出して再見したりってことはあるけど、こと『スパルタンX』に関しては数十回は見ている気がする。
そんなことするのはもちろん小学生の頃の事であって、最後に見たのは少なくとも十年以上は前だろう。
それでもさすがに何十回と見ているとほとんどのシーンを覚えているもんだ。

僕が繰り返し見ていたのは、民放で21時から放映していたものをビデオテープに録画したものだった。
長年気になっていたのは、民放でやっていたやつだから結構カットされているんじゃないか、いや間違いなくカットされているだろう、ということで、ノーカット版をいつか見てみたいと思いつつ早数十年。
おお、見たこと無いシーンが結構ある。
シルビア達がいきなりナース姿で救急車に乗っている意味不明も、カットされていたシーンを見たらつじつまが合う。
それと福星シリーズでおなじみのリチャード・ウンとジョン・シャムが出ていたとは知らなかった。
録画ビデオではごっそりカットされていたから。

でも、カットされていたシーンを見ることができたという感動よりも衝撃だったのは、吹き替えの方が数倍面白いという点。(ストーリーは結構どうでもいいっちゃいいし)
映画の吹き替えって演技が大仰だし役者がうそ臭くなるしで嫌いなんだけど、ジャッキーチェン映画だけは特別だ。
それは子供の頃から石丸博也さんとか、水島裕さんの声に慣れ親しんでいるからというのもあるだろうが、なによりこの個性的な表現力が素晴らしいから。
俳優とは全くの別人なのに、個性と個性が同じ大きさでぶつかりあって一人の人間を形成しているんだから面白いもんだ。
いや、そんな声優陣の凄さは何もこの映画で初めて思ったわけじゃない。
じゃあ何で吹き替えの方が数倍面白いと衝撃を受けたかというと、今回字幕で見たセリフと、過去に吹き替えで聞いて記憶しているセリフが全然違うのね。
字幕の方がたぶん正確な訳なんだろう。
では正確でない吹き替え版のセリフって一体どんだけ適当な訳なんだよと思うが、話の筋が逸脱するほど異なるってわけじゃなので、考えられるのは訳者か声優が自由にもっと面白いセリフに作り変えているような気がする。
そして確実に吹き替え版のセリフの方が面白い。
一番記憶に残っているのは、城に潜入するときにジャッキーがサモ・ハン・キンポーに言うセリフ「耳で羽ばたけダンボ」って当時子供のくせにダンボを知らずに後年になってやっとああこれがダンボかと認識した思い出深いセリフが字幕では「何とかしろ」だ。
サモ・ハンが探偵の初依頼を受けるときの「中国人名探偵全身これ知恵の塊!」と水島裕さんがユーモラスに言っていたセリフも字幕では「中国人にお任せを!」とシンプル。
小さくプリントされた電話番号の紙を受け取って「なめたらいかんぜよ!」というセリフは字幕では「トリックか」と何の面白みも無い。
「スパルタン号開店!」は「開店だ」とローテンション。
「春巻きが お気に召してなにより ではおやすみ」は「とんでもない お気持ちだけ 頂きます」。
冒頭のトレーニングシーンでジャッキーが「おしまい、っと」って呟くのも楽しかったのに、字幕版は字幕すら表示されない。
いや、これ音量でかくするとジャッキーは特に何も喋っていないな。
石丸さんのアドリブだろうか。

もう書き出してみると吹き替え版のセリフが愛しくさえなってくる。
そしてこのセリフは声優達の表情豊かな声で表現されるわけだから、そりゃあ楽しい。
今度ビデオ引っ張り出して吹き替え版をまた見てみよう。
確かもっと名台詞がいっぱいあった気がするし。

そうそう、三沢光晴の入場曲がスパルタンXなんだけど、こんな曲あったっけ?と今までピンとこなかった理由がやっと分かった。
『スパルタンX』の日本劇場公開版では音楽が差し替えられていたらしい。
『拳精』とかもオリジナル主題歌「チャイナガール」に差し替えられていたらしいし、当時は自由だなぁ。
『スパルタンX』といえばこの差し替えられた音楽の方が馴染み深く有名らしい。
オリジナル音楽+日本語吹き替えを繰り返し見てきた僕にとっては、オリジナルの音楽以外考えられないけど。
差し替え音楽はキース・モリソン(木森敏之)作曲っていうのは興味をそそる。

2011年4月8日金曜日

映画『ヤング・マスター/師弟出馬』

1980年 監督:ジャッキー・チェン
BSプレミアム 録画


ヤング・マスター/師弟出馬 デジタル・リマスター版 [DVD]

以前2回くらい観ていて、最後に見たのはそんなに過去じゃない気がしていたけど、このブログに書いてないからもっと前だったのかな。

ジャッキー・チェンがゴールデン・ハーベスト社に移籍後の第一作目にあたるらしい。
前半のシリアスさから一転して武館を出た後のジャッキーが凄く生き生きしている。
もう別人だろうというくらいキャラクターが変わって陽気な男に変身。
香港映画によくある疲れる笑いがほとんどなく、何度見ても素直に笑える。

修行シーンはなく、ジャッキーは最初から一定以上の強さを持っている。
しかしボスはジャッキー映画史上最強の男だ。
このボスの最初のカンフーアクションは何度見ても衝撃的なかっこよさ。
力強く、早送りしているみたいに素早く、そしてなにより無駄の無い洗練された動きが美しい。
水をかぶって生気を取り戻した後、振り向いて睨みつける動作の繰り返しもかっこいいしね。
こんな最強の男にちょっと強いくらいのジャッキーが敵うわけもなく、予想どおりフルパワーでボッコボコにされる。
ユン・ピョウやシー・キエンと楽しく遊んでいる内に映画はもうクライマックスだし、この圧倒的な実力差に直面したところで修行しなおしている暇もない。
じゃあどうやって勝つのかというと、そこには勇気と感動の仕掛けが待っているのですよ。

ラスボスのウォン・インシクは韓国合気道の師範らしい。
『ドラゴンロード』でもちょっと印象薄いがラスボスだった。

2011年4月6日水曜日

4月INFO

BSプレミアム 4月4日(月) 午後10:00~午前0:21
東京物語 デジタル・リマスター版 <初公開> 1953年・日本
〔監督・脚本〕小津安二郎
BSプレミアム 4月5日(火) 午後1:00~2:33
バトルクリーク・ブロー 1980年・アメリカ
〔監督・原案・脚本〕ロバート・クローズ
BSプレミアム 4月6日(水) 午後10:00~午前0:04
トウキョウソナタ 2008年・日本/オランダ/香港
〔監督・脚本〕黒沢清
BSプレミアム 4月7日(木) 午後1:00~2:43
師弟出馬 1980年・香港
〔監督・脚本〕ジャッキー・チェン
BSプレミアム 4月8日(金) 午後1:00~2:46
スパルタンX 1984年・香港
〔監督〕サモ・ハン・キンポー
BSプレミアム 4月12日(火) 午後10:00~午前0:13
エネミー・オブ・アメリカ 1998年・アメリカ
〔監督〕トニー・スコット
BSプレミアム 4月17日(日) 午後10:00~11:41
めし 1951年・日本
〔監督〕成瀬巳喜男
BSプレミアム 4月22日(金) 午後1:00~3:26
チャーリー 1992年・アメリカ
〔製作・監督〕リチャード・アッテンボロー

4月から衛星放送の2波化で、BS2とBShiが無くなってBS1とBSプレミアムの2チャンネルになった。

バトルクリーク・ブローはジャッキー・チェン主演の映画なんだけど、こんな映画あったんだねぇ。
スパルタンXは何度も録画し忘れているので今回は絶対録画しておこう。
エネミー・オブ・アメリカは昔新橋文化で見たとき、最初から最後まで何も考えずに一気に見れて面白かった記憶がある。
成瀬巳喜男は山田洋次監督が選んだ日本の名作100本とかいう特集の中の一本。
東京物語はさっそく録画し忘れた。
ああっ!!バトルクリーク・ブロー今日じゃん。録画し忘れた!