2011年4月17日日曜日

映画『フェイシズ』

1968年 監督:ジョン・カサヴェテス
BS2 録画


フェイシズ HDリマスター版 [DVD]

恐ろしく異様で恐ろしく生々しい。
クレジットタイトルも無く始まる冒頭は、なんてことないシーンのはずなのに、ざらついた感触の緊張感に溢れているから戸惑う。
手持ちカメラで撮られる奔放で自由すぎる構図と、執拗な顔のアップ。
なんだこれはと思っていると、なにやら登場人物達が映画の中で映画を見始め、そのタイトルがFACES。

中年(というか初老のおっさん?)二人が友人らしき高級娼婦ジーニー(ジーナ・ローランズ)の家で馬鹿騒ぎしている。
馬鹿騒ぎが本当に馬鹿っぽい。
よっぱらい、しかもおっさんのよっぱらいの少しも笑えない馬鹿騒ぎを長々見せられて一体何が面白いのかと、映像の異様さに惹きつけられながらも少々うんざりしていると、段々馬鹿騒ぎの中に生々しい欲情や嫉妬等の感情が顔を覗かせてくる。
「ジーニー 君は幾らだ?」

ストーリーの概要としては、ある仲よさげな夫婦の関係が冷え切って、でもまだ細い糸で繋がっているような1日半の出来事。

映画は笑い声に溢れている。
楽しいから笑う。おどけて笑う。ジョークが面白くて笑う。自分で言ったジョークが面白くても笑う。
しかし少しも笑えない。
登場人物達はどんだけ笑いの沸点が低いところにあるのだろう。
登場人物の誰しもが馬鹿みたいに笑い続けている。
しかし自分の笑いのセンスを疑う必要は無い。
だって登場人物達も本当に可笑しくて笑っているわけじゃないのだから。
馬鹿みたいに笑いながらも心はひどく冷めている。
だから楽しげな雰囲気が一変して冷めた空気になったり、大きな笑い声がそのまま怒声へと澱みなく変化したりする。
笑い声は全てカモフラージュなのだ。
笑い声の衣を剥ぎ取ったら冷めた現実が生々しい顔して現れてくる。
カメラはそこを逃さない。
FACESだけあって表情のアップが多いのだけど、時折その表情がえぐるように痛い。
「ジーニー 頼みがある。 ふざけてないで自然に振舞え」

そういえば唯一チェック(シーモア・カッセル)が噛み付くように不敵に笑っている姿は笑えたな。

ジーナ・ローランズのかっこよさはもちろん、妻役のリン・カーリンも魅力的な女優さんだった。

ラストの階段のシーンは名シーンだなぁ。

この映画はジョン・カサヴェテスが自宅を抵当に入れて自主制作し、出演者もスタッフもノーギャラだったそうだ。
撮影の大半はカサヴェテスの自宅で撮影され、撮影期間6ヶ月、編集期間3年間と相当な時間を費やしている。
ニューヨーク・インディーズの雄と敬愛されるジョン・カサヴェテスだが、インディーズとかインディペンデント映画とかいまいちなんだかよく分かっていなくて、低予算とかそんな程度くらいにしか考えていなかったけど、本当に撮りたいものを撮るためにやかましい映画会社に頼らず自らの資産を投げ打って映画を製作するってことだったんだな。
『フェイシズ』によりハリウッドでインディペンデント映画というジャンルが確立されたと言われているらしい。
ジョン・カサヴェテスはその後もインディペンデント映画を撮り続け、彼の財産は全て映画制作のために費やされたというから凄い気合だ。
・・・今更こんなこと書いても恥ずかしいが『グロリア』すら観ていないジョン・カサヴェテス初心者なもので。

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