BS2 録画
加藤泰だと思って録画したが、監督、佐伯清。
沓掛時次郎は何回か映画化されているみたいで、僕が見たのはその佐伯版。
加藤泰じゃないんだと知って少しがっくりする。
でもね、これ思いのほかかなり面白かった。
やくざ渡世人を描いた時代劇。
一宿一飯の恩義を守り、男と男の約束を守る正義の男時次郎。
義理堅い男だが、その義理を守る事が矛盾を起こす場合もある。
正義感に溢れ強くかっこいいヒーローだが所詮は人殺しじゃないか。
ヒーローがその自分の生き方を足元からぐらぐら揺らされる、ってところは『真昼の決闘』に共通する。
映画は静と動が水車のように回転する。
静と動の対比、静と動の突然の移行、静と動の共存。
3人がかりで1人の男を倒せなかったことに怒って親分が子分に灰皿を投げつけると襖に当たって襖が倒れる。
襖が倒れた事で隣の部屋が露わになり、そこには正座して静かに飯を食べている男がいる。
これが時次郎の登場シーン。
騒がしい部屋と対照的に1人静かに食する時次郎。
飯を食い終えた時次郎はすくっと立ち上がり、倒れた襖を静かに戻し、襖越しに軽くお辞儀する。
そのまま2階に上がると、時次郎の荷物として刀と尺八が置いてある。渋い。
時次郎の真面目で物静かな性格を見事に表す。
また、宴会の席で男に本心を見破られた時次郎が男を突き飛ばす。賑やかだった席は一瞬にして静まり、皆が時次郎を見つめる。
状況に気づいた時次郎はやおら立ち上がり何をするかと思えば、ひょっとこの面をつけて踊りだした。
この静まり返った場でのひょっとこ踊り。息を止めて見守る絶妙な間の後、子供の笑い声を契機に席は再び笑いの賑やかな席になる。
その後、踊りながら一人廊下に逃げ出した時次郎は、ひょっとこの面をはらりと落とし、複雑な心境を顔に浮かべる。
この映画、会話のシーンが全て面白く、そして美しい。
ぼろい一軒家で逃げ支度をしながら会話する夫婦の自然さ。セリフの喋り方があまりにリアル。そしてなんだこの静謐さは(非常な場面なのに)。
もうすぐ子供が生まれるがあまりの金のなさに苦しむおきぬ(水戸光子)を見た時次郎はある決意と共に突然笑い出す。
決意とはおきぬをきっかけに封印していた行為を、今おきぬのために解こうと決心したのであり、おきぬに心配をかけまいと気を配ったときに自然に表出した笑顔。
しかしその笑いは唐突過ぎて不気味だ。しかも髭面の時次郎がこれまた凄い人間臭さの漂ういい笑顔で笑う。
ああ、もうなにもかも面白い。一瞬しか出てこない脇役も含めてキャラが立っているわ、月が出ている夜のシーンのセットは美しいわ。
ガキが終始舌足らずな喋り方をしているのが気に食わないがそれも許したくなる。
映画に漂う静謐さがかなり特異な時代劇。
主演、時次郎役に島田正吾。
島田正吾って人はセリフをごく自然に喋る。悪く言えばぼそぼそ気味で聞き取りにくい。
まあ、音量大きくすれば済む話だけど。
とにかく雰囲気のある役者で、『沓掛時次郎』のように静謐とした空気を持つ映画だと恐ろしいほどにマッチする。
おきぬ役には水戸光子。水戸光子は50年代あたりの映画で脇役でしか見たことなかったけど、もう少し若い頃は主役も張っていたのかもなぁ。よく知らないけど。
音楽、清瀬保二。武満徹が一時期この人に弟子入りしていた。
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