2004年12月31日金曜日

映画『血は渇いてる』

1960年 監督:吉田喜重
BS2 録画


血は渇いてる

会社の集団解雇通知の場で、社員の木口(佐田啓二)は拳銃自殺を図る。
「僕はどうなってもかまいません。みんなを首にしないでください」
同僚の金井(織田政雄)が割って入ったために一命を取り留めた木口。
マスコミは社会問題として大きく取り上げる。
この騒動に目をつけたのは生命保険会社のキャリアウーマンのユキ(芳村真理)で、木口を保険会社のコマーシャルタレントとして利用した。
一躍時の人となる木口であったが・・・

いつも俯いてぼそぼそ喋る木口は自分に全く自信がない。
暗く常に思いつめ、人のためと言いつつ彼は自分しか見ていない。
木口が自分で言うように、自殺しようとしたのは皆のためとかではなくて、ただクビが恐ろしかっただけなのね。
有名人になった木口は講演とか行っても言う事は「働いている人がみんな幸せに、なんの心配もなく働けるようになりたい、したいと思っております」とか観念的な事しか言えない。
でも受ける受ける。
たぶん今まで誰からも相手にされなかったのに、多くの人、大衆に必要とされる人間となったことを次第に木口は自覚していき、これまでの人生になかった充実感を感じるようになっていく。
木口の愛が欲しい妻(岩崎加根子)、木口を利用して社会を動かしてやろうという野望を抱くキャリアウーマン、木口の偽善が反吐が出るほど嫌いな冷めた週刊誌記者の原田(三上真一郎)、木口にのっかりそれなりに有名になった金井、等々、木口を中心に様々な人物の感情が歯車をきりきり回していく。

有名になったから変わった、とかいうんじゃなくて、大衆含め各々の人物達のむしろ何も変わらない根本的性質が起こす摩擦の物語。
また冷徹に撮るなぁ。でも結構スタイリッシュ。
監督2作目。

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