2009年5月5日火曜日

映画『大阪ハムレット』

2008年 監督:光石富士朗
at ギンレイホール


大阪ハムレット (1) (ACTION COMICS)
(DVDがまだ出ていないみたいなんでコミックスの方を暫定的に)

これ、個人的には『おくりびと』よりいい。
森下裕美の同名漫画が原作。

父ちゃん(間寛平)が死んだ。
そして父ちゃんの弟(岸部一徳)がいつの間にか住み着いた。
母ちゃん(松坂慶子)。
長男政司(久野雅弘)。
次男行雄(森田直幸)。
三男宏基(大塚智哉)。
の5人で暮らしていく。

長男政司は受験を控えた中3(高校生役かと思っていた)。
街で出会ったお姉さん由加(加藤夏希)に一目ぼれして付き合いだす。
ふけて見える政司は成り行き上自分が大学生だと偽って。
しかし自分の中学に由加が教育実習生としてやってきて・・・
由加は由加で強烈なファザコンなのね。

次男行雄も中学生。
かなりのヤンキー。
教師に「行雄君はハムレットやな~」と言われて近所のハムレットという名前のハムスターに例えられたと思って激怒する。
誤解は解けてハムレットを読み始めるヤンキー。
「父ちゃんとおっちゃんは兄弟なのに全然似てないな」
という疑問から自分が父ちゃんに全然似てない、兄弟も全然似てないことに気づいて自分のアイデンティティに悩み始める。

三男宏基は小学生。
授業中に将来の夢で「女の子になりたい」と宣言する。

もてもての母ちゃんは「これ太ったんやないよ。お母ちゃん妊娠しとんねん」とさらっと告白。

フリーターの気弱なおっちゃんは家族に溶け込もうとおそろいのTシャツを買ってきたりと努力を惜しまない。

そんな大阪の家族の話。

母ちゃんの年の離れた妹に亜紀(本上まなみ)ちゃんというのがいるのだけど、癌で闘病中。
三男の宏基がこの亜紀ちゃんを慕っている。
人と同じことをするのが嫌いな亜紀ちゃんはそれだけ世間の冷たい目にさらされながら苦労して生きてきた。
女の子になりたいと言う宏基を一番に応援している。
この亜紀ちゃんと宏基まわりのエピソードがかなり泣ける。
「だから僕、亜紀ちゃんに勇気を貰ったんだ」
これから待っているだろう苦難を理解しつつもその小さく弱弱しい体で静かに決心する宏基とか。

兄弟が悩んだときにたそがれるコンクリートの河川敷がいい。
冒頭父ちゃんが死んて葬儀の後にまず3人がここに集まるのだけど、長男が自転車に乗って画面右奥に消え、続いて三男がコンクリートの堤防の上をすたすた左手前に歩いて消え、次男だけが残る。
こういう固定ショットの中のばらばらな動きっていいよな。
次男と三男が河川の釣り船の上で釣りをして、三男がすたすたその場を去るのに会話は続いているのとか。
奥の川にかかる橋を三男が渡っているときなんか距離的に大声じゃないと聞こえないはずなのに普通の声で喋っていて、そういう違和感より動きを優先するところがいかす。

「今までと変わらず努力しとったらええねん」
ちゃんと思いは伝わっているから。
ずけずけ物言うし平気で人傷つけるのだけど認めるものは素直に認めるし根底は心優しい人々。
偽善的ないい人だらけの気持ち悪い街ではないところにある温かさ。

「人間わろうてばっかりおられへんっちゅうこっちゃ」
「生きるべきか死ぬべきかって 行きとったら、それでええやん」

配役もいいな。
女の子になりたい三男役の大塚智哉はそんなに美少年ってわけでもないからリアル。
次男はいい顔してる。
長男は実際は20歳くらいらしいのだけど確かに年齢不詳。
松坂慶子は横幅大きくなっているところがまた色気を放つ。
岸部一徳は役通り気弱で優しいおっさんにしか見えない。悪役もいい人役もなんでもこなすし日本が誇る名バイプレイヤー。脇役は目立たない方がよさそうなのに、あのインパクトのある顔と演技と雰囲気で映画を引き締める。笹野高史がいくら背伸びしても岸部一徳の域には届かないだろう。
亜紀役の本上まなみ。前から思っていたのだけどこの人本当にいい女優さんだな。
由加役の加藤夏希。BSアニメ夜話でしか見たことなかったのだけど、「綺麗なお姉さん」の象徴みたいな子だな。すらっとしていて。おんぶされている時なんか膝くらいまであったスカートが太もも上くらいまでずりあがってたぞ。

脚本も絵もよくてかなりかなり満足な映画。

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