BS2 録画

1954の『ゴジラ』から30年。ということで9年ぶりに作られたゴジラにして、僕のゴジラ原点。私事ながら。
原点とはいいつつ映画は見ていなくて、子供向けに作られたこの映画の宣伝本みたいなものを何度も読んでは楽しんでいただけなのだが。
コメディゴジラは封印され、でかく、強く、恐ろしく、何考えてんのかさっぱし読めないゴジラが復活。
ストーリーもいくらか真面目。純粋でいじらしい沢口靖子とケーナに出会ったころの田中健の恋愛もあり。
人類の敵としてのゴジラ、人類の罪の象徴のゴジラ、地球に生きる一つの生物としてのゴジラ、憧れの対象としてのゴジラ、国家間の勢力争いに利用されそうになるゴジラ。
ゴジラに向ける多角的な眼差しや感情をさりげなくもしっかり描いている。
ゴジラにしろ登場人物にしろ、(つっこみは置いといて)コメディ要素がほとんどないのだけど、たった一人だけコメディキャラクターがいる。
それはホームレス役を演じた武田鉄矢で、彼はゴジラ出現により人気の無くなった新宿高層ビル内のレストランでのほほん食料を物色していた。
しかし窓から覗き込んだゴジラと突然目が合って腰抜かした鉄矢が叫ぶ「でっかい顔して歩くんじゃねー!この田舎もんがぁ!」。
というような短いシーン。
彼が演じたキャラクターは明らかにこの映画の中で異色な存在で、別の映画が挿入されたかのような、いてはいけないところに突如紛れ込んでしまったような、存在自体が既にタブーのような、衝撃がある。
北斗の拳でケンシロウがジャキと戦っているときに突如( ゜人゜)ダーレガ( σ。。)σコロシタ ( ゜人゜)クック( σ。。)σロビン、パタリロが出現したらびっくりするようなもの。
存在する世界が違う。
そして出番はこれで終わりかと思いきや、暫くしてストーリー本流を真面目に突っ走る田中健と沢口靖子がピンチを必死に切り抜けようと頑張っているとき、再びこの映画に彷徨い出てくる。
ゴジラが暴れる新宿のビル内に取り残された田中健と沢口靖子は階段が破壊されて階下に下りれず、消防用ホースを階下に垂らして降りようと試みていて、そこに"たまたま"通りかかったのが鉄矢だった。
田中は大声で鉄矢を呼びとめ、ホースの先を持ってくれと頼む。
鉄矢も「おぁぅ、いいともぉ」とこの非常時にふつーの会話のように返事してホースを持つ。
誤って混入されてしまったようなこの異物がホースを媒介にメインストリームと危険に接触する。
鉄矢がここにいるストーリー上での重要性は無い。
主要登場人物の絶体絶命を救うわけでもないし。ホースの先を押さえるという行為がいったい何の役に立っているというのか。
この映画に存在してはいけない者が存在してはいけない場所に現れ、かつ異物が異物の性質を保ったまま本流と双璧をなすかの如く並置されるシチュエーションに意義がある。
能天気な鉄矢とは対照的に沢口靖子はホースを伝って降りる事を怖がり、田中健に無理やりホースに掴まらせられやむなく降りている途中で壊れた外壁から覗くビルの外にゴジラの姿を見つけて恐怖に震える。
轟音とともに歩くゴジラの振動がビルを揺らし、コンクリートがぱらぱら落ちる音が鳴る。
だが鉄矢はゴジラの存在に全く気づいていない!
沢口靖子がこんなに怖がっているというのに、この古代からやってきた素敵なクロマニョン人は何事も起こってないかのようにひたすら両手でホースをつかんだままじっと上を見つめている。
三人が無事にビルの外へと脱出したときにやっと鉄矢はカドミウム弾で眠っていたゴジラが起きていることに気づく。
えーっ!もうずっと前から起きていてゴジラはさんざんスーパーXに砲撃されてたじゃん。何も聞こえてなかったの?
異世界の住人ゆえか、時間まで越えたらしい。
なんという異物の徹底ぶりか。
別世界の住人がこの映画の世界を自由に闊歩する。そしてあくまで異物は異物であり、混ざり合ってこの世界に溶け込むことはない。
溶けこまないスタンスが貫かれるということは鉄矢一人で一つの世界を作り出していて、しかも『ゴジラ』という映画全体に武田鉄矢たった一人が同一のエネルギーで衝突しているという凄まじいことをやってのけている。
東京大空襲の後のような見事なセットの中、すぐ側にいるゴジラから三人で一緒に逃げていたのだが、田中健もこれ以上武田鉄矢と関わると崩壊が訪れると悟ったのか、沢口を連れて鉄矢から逃げるように去っていく。
置き去りにされた鉄矢はそれを気にするふうでもなく、一人でゴジラから逃げる。
バックに雄たけびを上げるゴジラで、ゴジラの方を振り向きながらカメラに向かって走ってくる武田鉄矢の合成映像。
このシーンはゴジラシリーズ屈指の名シーンじゃないだろうか。
単に必死に走って逃げる男を正面から映したシーンに僕が弱いということもあろうが。
鉄矢のバックにゴジラが映ってはいるが追っかけられているのかただゴジラの前を鉄矢が走っているだけなのかは分からない。
鉄矢も本気で逃げているのかこの映画の住人のふりして逃げているのかは分からない。
ゴジラだって雄たけびをあげながらもなんかこのシーンのゴジラは可愛い。
(ゴジラや周りを少し巻き込んで)異物が生み出した解釈の曖昧さは逆に解釈を全てはねつけたむき出しの映像で、スローモーションで映された走る鉄矢とバックに構えるゴジラがなぜか無性に感動的だった。
田中沢口に見捨てられた後にすぐ今度はゴジラと直接絡むバイタリティというか根性というか、とにかく最後まで異物であり続け、悲しいまでに孤独な鉄矢であった。
ホースを伝って田中健と沢口靖子が降りるシーンは結構面白い。
田中がホースを階下に垂らし、するする伸びたホースが命の線をつなぐと田中が階下を見下ろす視線の中に突然鉄矢が出現する。
そして鉄矢からの下から上へ見上げる視線と田中の上から下に見下ろす視線が何度か交錯して縦の線をなぞる。
ただしこの時点では距離感がつかみにくく、どれだけの高さがあるのか想像しにくい。
細いホースを伝って降りるという、落ちる危険を伴なった心もとなさからか沢口が恐怖する。
それに田中沢口にしてみればゴジラがすぐ近くにいてしかも壊れかけたビル内に自分達以外の人間がいること自体もしかしたらゴジラより恐ろしいことだよな。
とにかく階下に対する恐怖がここに現れる。
しかもせっかちな田中は沢口を無理やりロープにしがみつかせた後、少しも間を置かずに自分もホースにつかまって降り始めるではないか。
いっぺんに二人もぶら下がって切れないだろうか?すごい不安感。
降り始めてすぐ、沢口は壊れた外壁から外を見て目を見開いて恐怖する。ここで縦に交わされていた視線がビルの外に向く。
ゴジラの足元が映し出される。
下だけでなく今度は横に恐怖がぁ!
そして次にゴジラ側、つまりビルの外からビルに向けてのショットになる。
本当はただのビルの角を映したショットなのだけど、その角の部分の外壁が大きく壊れているため内部がエロティックにも覗いていて、空いた空洞の中でホースに不安定にぶら下がっている二人が見える。
ホースの下にいるはずの鉄矢が映っていないため、これが一体ホースはどこまで伸びているんだろうってますます高さを見失う恐怖が起こる。
落ちる恐怖が再びよみがえったと同時に階下でホースを両手で掴む鉄矢が映し出される。
武田鉄矢が恐怖とは無縁の表情でしっかりホースを握っている姿に心がなごむ。
だが、鉄矢は目をしばしばさせて上をずっと見つめていて、降りてくる二人を心配して見守っているようでもあり、ゆったりした白いショートパンツを履いた沢口靖子を覗いているようでもある。
覗きだったらあの表情は笑いであり、新たな恐怖でもあるよなぁ。
役者陣が豪華。
総理大臣に『にっぽん三銃士 おさらば東京の巻』でスーツのズボン脱いで三輪車に乗っていた小林桂樹。
大蔵大臣に『近頃なぜかチャールストン』でなんちゃって首相だった小沢栄太郎。
自治大臣に『幕末太陽傳』の金子信雄。
通産大臣に『果しなき欲望』の加藤武。
(・・・他の内閣構成メンバーは略)
それから田中健、沢口靖子、宅麻伸に、生物学者役で「そしてあなたのボディーガード」こと夏木陽介。髭生やした夏木陽介がかっこいい。
夏木演じる林田の友人として地質学者の南を演じたのは小泉博。
ゴジラに襲われたいと嘆願したのか襲われ役に原発の警備員らしい石坂浩二に新幹線の乗客かまやつひろし。
ゴジラに鷲掴みにされて持ち上げられた新幹線の車内にいたのがかまやつひろしなんだけど、この人シスターを従えた神父みたいな格好していた。
ってだけで笑えるのだけど、恐怖におののく他の乗客に比してかまやつは車内を覗き込むゴジラを見てにやっと笑うのね。
ゴジラに会えて嬉しいのかなんなのか知らないけど、武田鉄矢同様にストーリー本流に乗っからない男かまやつひろし。
ゴジラにゴミを捨てるかのように放られてたぶん即死したと思われる。
東都日報記者の田中健の上司に江本孟紀。背高くてかっこいいな。
さらに編集局長には佐藤慶だ。
と、いうような映画。
エンディングテーマはいただけない。
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