2004年5月14日金曜日

映画『朗かに歩め』

1930年 監督:小津安二郎
BS2 録画


小津安二郎 DVD-BOX 第四集

ナイフの謙と恐れられる不良モダンボーイが当時日本で一番素敵な女性だった筈の川崎弘子さんに一目ぼれする。
弘子さんは不良が大っ嫌い。だからナイフの謙は更生する。
単純と言えば単純なストーリーだが、めちゃくちゃ面白い。

モダンな洋室に住むナイフの謙と貧しい日本家屋に住む川崎弘子。かっこいいオープンカーに乗って行ったデート先は鎌倉の大仏。
大仏のすぐ側にオープンカーを止め、大仏を背に石段に腰掛ける二人。ナイフの謙はかっこいい洋装で弘子さんはしとやかな和服。
デートについてきた弘子さんの妹は洋装で、大仏の側で紙風船で一人遊ぶ。
何気なく異質のものを画面に並置している、そのしれっとした感じが面白い。

ナイフの謙は一度弘子さんの妹を車で轢きそうになる。その時泣く泣くうち捨てられた妹のキューピー人形。人形の足が割れちゃったから。
数日後、三人で大仏見に行った帰り、妹を轢きそうになった現場を車で通る。
今じゃもうあの事件も笑い話だ。道端に捨てられたキューピー人形は何度も通りを行く車に踏み潰されたため無残にもぺちゃんこになっていた。
ぺちゃんこのキューピー人形はもう笑いの種でしかない。三人でキューピー人形の変わり果てた姿を心ゆくまで笑い飛ばした後、あれほど名残惜しげに足の割れて捨てられてしまった人形を振り返りつつ見ていた妹が、ぺちゃんこ人形を車内からぽーんと後ろに笑いながら放り投げてしまった。
再び道端に転がるぺちゃんこ人形。この残酷さが妙に可笑しい。
この映画では、捨てる、拾う、という動作が何度も出現する。帽子だったり人形だったり細切れの紙だったり縄跳びだったり・・・
苛立ちの表れの捨てるだったり、父のような義兄が出来たことによる人形との別れ(ちょっと強引な解釈か?)であったり、ナイフの謙と仙公との間に細く引かれた溝を一気に飛び越す縄跳びだったり、相手を馬鹿にした意味での捨てるだったり、特に意味はなかったり・・・
意味というか、物が放物線を描いて落ちるという動きが画面に入るとなんだか面白いよね。唐突に画面にスピード感が加わった後、投げられたものは直前の躍動が遠い過去の事のように死んだように静止する。
放られた後、捨てられ置き去りにされる哀愁があったり、執拗に拾う可笑しさがあったり。

ナイフの謙を演じたのは高田稔。
この人恐ろしくかっこいい。あの視線はまさにナイフ。ただしどこかあやういナイフ。
うつむいている時の美しさは男の僕でも思わず見とれる。
うつむいた美しさと言ったら忘れていけないのが川崎弘子さん。美人ではないのだけどなんでこんなに可憐なのかなぁ。
可憐さと美しさは弘子さんがうつむいたときにピークに達する。見とれちゃうね。
不良モダンガール千恵子を演じるのは伊達里子。この四角い顔した人『淑女と髭』でも弘子さんをいじめていたのだよね。
伊達里子さんはモダン・ガールを代表する女優で小津はこの伊達里子さんや井上雪子さんを連れて颯爽と横浜を歩いていたらしい。
ちなみにゴルフ場のシーンでキャディをしていた少年達の一人にひょっこり突貫小僧がいたよなぁ。

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