2017年12月10日日曜日

映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

2016年 監督:ケネス・ロナーガン
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




いやぁ面白かった。
ボストン郊外で一人便利屋として働くリー(ケイシー・アフレック)はある日兄ジョー(カイル・チャンドラー)の訃報を受け取り、故郷であるマンチェスター・バイ・ザ・シーに向かう。
故郷では一人取り残された甥のパトリックがいる。
ジョーの遺言により、リーは自分がパトリックの後見人になっていることを知らされるが、リーにはこの街にとどまりたくない理由があった。

現在と過去がシームレスに入れ替わりながら、ゆっくりと人間関係や過去が解き明かされていく。
といっても謎解きのような感じではなく、最大の謎であるリーがこの街にいたくない理由も中盤には明かされる。
回想シーンは現在とのギャップから何があったのかという興味を引き起こす面もあるけど、どちらかというと回想挟むごとに登場人物達に物悲しい色彩を塗り重ねていくという変化を付けるのに使われている。

息子のようにかわいがっていた甥のパトリックも今や高校生となり、面白いのはいい子というよりなかなかやんちゃに育っているところ。
二股かけたりリーをわがままな理由で遠慮なくこき使ったり。
でもやっぱり父の死はショックだし、将来の不安もかかえている、っていうのがさり気なくシーンとして挿入されたりする。
失った者同士のリーとパトリック。
普通の感動ドラマだったら二人はぶつかりあいながらラストの盛り上がったところでわかりやすく過去を乗り越えてめでたしめでたしになるんだろうな。

脚本が抜群によく、そして淡々と描かれるシーンを何度もぎゅっと噛みしめたくなるような映画だった。

映画『LION/ライオン ~25年目のただいま~』

2016年 監督:ガース・デイヴィス
製作国:オーストラリア
at ギンレイホール




この予告編見た後だと青年期から入って幼少期にいくほうがよさそうだけど、予告編見なかったら先がわからない幼少期から入った方がいい気もする。
ということは予告編がばりばりネタばれしているんじゃないかと思えてくる。

実話に基づくお話。
実話系で最後に本人達が出てくるとなんか泣けてくる。
全体的に長い気もするが、なかなか面白かった。

主演は『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテル。
恋人役にルーニー・マーラ。
それにニコール・キッドマンも出ている。

2017年11月26日日曜日

映画『八重子のハミング』

2016年 監督:佐々部清
製作国:日本
at ギンレイホール




升毅が主演、だと?!って思うけど、この人結構二枚目なんだね。

若年性アルツハイマーを扱った物語。
親が発症したらどうしようと常日頃恐怖にかられるアルツハイマー。
この物語では石崎誠吾(升毅)に胃がんが見つかりばたばたしている最中、妻八重子(高橋洋子)に若年性アルツハイマーの兆候が表れる。
家族に支えられながらも基本は誠吾が八重子の介護を献身的に、本当に献身的に行う。

苦悩は当然あり、だけどなんとなく小綺麗な美談に収まっている気がする。
別に見たいわけではないが、実際にはもっともっと壮絶だろう。
崖に二人で立つシーンも初めの方に持ってきてしまったら印象が薄い。


八重子役の高橋洋子って初めて見ると思ったら、本数少ないけど出演作見るとなかなかのラインナップ。
『旅の重さ』斎藤耕一
『アフリカの光』神代辰巳
『さらば箱舟』寺山修司
etc

映画『人生フルーツ』

2016年 監督:伏原健之
製作国:日本
at ギンレイホール




愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンに居を構える津端さん夫婦。
修一さん90歳。妻英子さん87歳。
「家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない」
趣がありながらモダンな平屋は建築家の修一さん自身の手によるもの。
そしてたぶんそんなに広くないであろう庭には70種の野菜と50種の果実が植えられている。
この夫婦の日々の暮らしぶりが、夫婦の人生を振り返りながら淡々と描かれていく。
だけなのに、すごく面白かった。

この年で腰が曲がっていないって、食べ物によるのだろうか。畑仕事で腰やられそうだけど。
土に枯れ葉を撒いただけでこれでめっちゃ土が肥えるぜと思うけど、さらに巨大なコンポストで作った腐葉土まで撒くし、それも地道にたぶん何年も継続している。
それでもまだもっと土を肥やして次代につなげていかないと、って頭が下がる。

庭が大半だけど、ミニチュアハウスが一番感動したな。
しょぼいものができるのではないかと思っていたら恐ろしいほどの完成度。

生と死をありのままに捉え続けるカメラが秀逸で、そのありのままというのが真摯さと敬意がにじみ出た冷徹さだから凄いドキュメンタリーだなと思う。
東海テレビドキュメンタリー劇場第10弾らしい。
他はどういうのがあるんだろう。

2017年11月23日木曜日

映画『シャングリラ』

2006年 監督:ティン・ナイチョン
製作国:中国
BS2 録画


息子を事故で失くして2年、ジー・リン(チュウ・チーイン)はいまだに立ち直れずにいた。
息子が大好きだった宝探しゲーム、その宝探しのヒントをカーテン裏から偶然見つけたジーはシャングリラへと旅立つ。
シャングリラはチベット仏教の聖地梅里雪山がある町。
当然そこに幼い息子が宝を隠したわけではないのだけど、息子が書いたヒント絵が梅里雪山だったことでジーは取り憑かれたように梅里雪山を目指す。

息子を失くした母親のロードムービー、っていう流れは『オール・アバウト・マイ・マザー』じゃんと思ったけど、それほど泣けなかったな。
ところどころ不気味で意味不明な演出もあったり、ジーが自分勝手すぎたりドジすぎたり(笑える)、展開がご都合主義だったりと気になる点は多々あれど、まあまあ楽しめた。

2017年11月19日日曜日

映画『心のともしび』

1954年 監督:ダグラス・サーク
製作国:アメリカ
BS2 録画


ダグラス・サーク コレクション DVD-BOX 1 (僕の彼女はどこ/心のともしび/天の許し給うものすべて) [初回限定生産]

冒頭のボート事故は音といい叫び声といいまるでウルトラマンを見ているかのようだった。
っていうのは置いておいて、これもまた面白かったな。

大金持ちのバカ息子ボブ・メリック(ロック・ハドソン)は放蕩の毎日を過ごす中、ボート事故を起こす。
蘇生機により一命をとりとめたが、同時間帯にその蘇生機の所有者であるフィリップス医師が持病の心臓発作で命を落としてしまう。
蘇生機さえあれば助かったのに、その蘇生機はバカ息子のために使われていた。
フィリップス夫人ヘレン(ジェーン・ワイマン)と娘ジョイス(バーバラ・ラッシュ)はボブ・メリックの遊び人の噂を知っているだけに怒りをあわらにする。
ボブ・メリックに比べて、亡くなったフィリップス医師は偉大な人物だった。
世界中から追悼の意が寄せられ、多少宗教じみている気もするが信念に基づいた秘密の善行も明らかになる。
やがてボブ・メリックも蘇生機が自分のために使用されていたことでフィリップス医師が亡くなったことを知ることとなり、なんやかんやでメロドラマが始まる。
いろいろ笑っちゃいそうな展開ではあるけれども、ストーリー的になかなか楽しませてくれる。

まあストーリーは置いておいて、目に痛くない程度にさり気なく入るビビッドな色使い、そしてその色使いを千変万化させもする明と暗のコントラスト。
これは映画館で見たほうがいいよなぁ。
いいシーンが沢山ある中、一番好きなシーンは窓から差し込む光の線のみの薄暗いホテルの一室で失意のヘレンをジョイスが慰めるシーンで、途中でジョイスがソファー横そして入り口のランプを点けるのね。
薄暗い部屋に灯るランプの淡く小さな光が映像を変化させ、そしてこの優しい光がジョイスの心を表しているようでもあって非常に美しかった。

録画したのはもう6年前か。
ジェーン・ワイマンとロック・ハドソンの組み合わせは『天はすべて許し給う』と同じだったんだな。

2017年11月5日日曜日

映画『 ラ・ラ・ランド』

2016年 監督:デイミアン・チャゼル
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




大々的な宣伝のアカデミー賞最多6部門とかいう見る気の失せる要素を凌駕するほどの情報監督デイミアン・チャゼル。
恐る恐るという感じで見始めたけど、いやー、面白かった。

冒頭から高速道路での長大なワンカットミュージカル!
“Another Day Of Sun”っていう曲をCMで何度も聞かされて耳慣れている上で見るのもまたいいよね。
最後に初めてカメラがひいた時、奥まで車(車上にダンサー)がびっしり詰まっているのは圧巻で感動的。
もう冒頭で腹いっぱいだ。
その後エレベータの閉まる音から別シーンのドアの開く音につなげる等、冒頭の興奮とテンションを継続しながら導入部のストーリーが音楽的にテンポよく展開される。
で、ふと思う。確かこの映画2時間超えていたはずだけど、こんなテンションで最後までいくなら耐えられないかも。。
と思ったのも束の間、以降ミュージカル要素はぐっと少なくなり、普通の恋愛ドラマが展開される。
こういうバランス感覚が素晴らしい。
各時代のいいとこどりしたような夢のような時代背景の中で展開される恋愛ドラマもなかなか面白い。

全体的にはミュージカル映画でありながらミュージカル要素は意外と少ない。
ミュージカル映画ってテンション高いから疲れるんだよね。だからこのくらいが個人的には丁度いい感じだった。
拙いながらもタップダンスをちゃんと入っていたしな。

映画『カフェ・ソサエティ』

2016年 監督:ウディ・アレン
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




1930年代のハリウッドとニューヨークが舞台。
田舎から出てきた野暮ったい青年が、叔父や兄のつてで華やかな世界に身を置く、、っていうのはただの背景で、メインは恋物語。
昔の男と今の男と昔の女と今の女。

ここ最近のウディ・アレン映画の中では結構面白かった。
そういえば一時期ウディ・アレン映画に出るのが一種のステータスみたいな感じで俳優女優がこぞって出たがっていたけど最近はそういう風潮は収まったのかな。
主演のボビー役のジェシー・アイゼンバーグはどこかで見たことあると思ったらザッカーバーグ役の人だな。
フィル役にスティーヴ・カレル。

2017年10月22日日曜日

映画『ハクソー・リッジ』

2016年 監督:メル・ギブソン
製作国:オーストラリア/アメリカ
at ギンレイホール




第2次大戦末期、銃を持たない兵士がいた。っていう話。

主人公は宗教的な理念というか信念から武器を持たない(触れない)。
だけど真珠湾攻撃に衝撃を受けて自分も戦場に行きたいと考えるようになる。
武器を持てないので衛生兵として。

主演のアンドリュー・ガーフィールドがいい感じ。
なんかちょっといっちゃってるんじゃないかと勘ぐりたくなる優しき変人ぶりがよく似合う。
名作『ガッジョ・ディーロ』のロマン・デュリスを彷彿とさせる。

予備知識なかったけど沖縄戦なんだね。だから相手は日本人。
不気味で極悪な野蛮人のように見える。。
前半のドラマから戦場の基地で新しくやってきたドス達の小奇麗さと戦闘を終えて戻ってきた傷だらけ泥だらけの兵士達との対比、敵なんてどこにもいないんじゃないかと思う静寂の中からの突然の戦闘開始。
以降の戦闘シーンは壮絶の一言に尽きる。
焼かれる、飛び散る、ぶちまける。
そんな地獄の中で武器も持たずに負傷兵をひたすら助けるドス。
深夜のシーンなんか2人くらい助けたらもう十分英雄じゃないかと思うがドスは命あるかぎり何度でも助けに戦場に戻っていく。
それ見たとき、感動以前に狂っていると思った。

映画『パトリオット・デイ』

2016年 監督:ピーター・バーグ
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




2013年ボストンマラソンの爆弾テロ事件のお話だけど、アクション映画としてなかなかの迫力とスリルで面白かった。
正義の国アメリカ、愛の国アメリカ、家族を大事にするアメリカ、非道なテロには決して屈しないアメリカ、っていう自国愛にのみ溢れた面は多少うざったいものの。

マーク・ウォールバーグって失礼だけどあの顔でばんばん主役張れるんだから稀有な存在だよな。

2017年10月9日月曜日

映画『おとなの事情』

2016年 監督:パオロ・ジェノヴェーゼ
製作国:イタリア
at ギンレイホール




月食の日、幼馴染の男4人とそのパートナーが集まって食事会が開かれている。
私達の間に秘密なんてないという流れからスマホに届いたメールや電話(スピーカー)を見せ合う聞かせ合うというゲームを始める。
暫くは和やかに、そして当然のごとく次第に修羅場に。

修羅場というか崩壊だけど、一体どう収拾つけるのか。
うーん、おとなの事情は明かされるべきでないということか。
なんか怖い。
途中ほっこりする親子話もあったりするけど、あれはどうなっちゃうのよ。

エヴァ役の人が20代くらいに見えて、あんな大きい娘がいるようには見えなかったな。
演じるカシア・スムートニアックは1979年生まれか。20そこそこで産めばありうるか。

映画『午後8時の訪問者』

2016年 監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
製作国:ベルギー/フランス
at ギンレイホール




小さな診療所に勤める有能な若き女医ジェニー(アデル・エネル)。
ある日患者に入れ込みすぎるなと研修医にアドバイスしている最中に診療所の呼び鈴が鳴ったが、診療時間はとうに過ぎていたため出ようとした研修医を制する。
しかし後日その時呼び鈴を押した少女が殺害されたことを知る。
殺害された身元不明の少女は無縁墓地に埋葬されようとしている。
もしあの時出ていれば。
ジェニーは後悔し、贖罪のためにも殺害された少女の身元を調べ始める。

冒頭はまた手持ちカメラ系かと思って少しうんざりしたけど、これものすごく面白かった。
監督はダルデンヌ兄弟だったんだね。
エンドロールでようやく気づいたけど、音楽が一切なく、そのせいか程よい緊張感が継続してなかなか濃密な時間だった。
サスペンスというか、ジェニーの医師としての自覚の成長やフランスの移民社会の実情を浮き上がらせる社会派人間ドキュメンタリという感じ。
謎の解明はあまりに偶然が重なりすぎているからね(真相は意外ではあるけど)。
主演のアデル・エネルが好演していて引き込まれる。しかも美人。

待合室から診察室に行くまでのあの階段って邪魔じゃねと思ったけど、ラスト見るとああ、映画としては必要だったんだなと思う。

2017年9月18日月曜日

映画『マイ ビューティフル ガーデン』

2016年 監督:サイモン・アバウド
製作国:イギリス
at ギンレイホール




紙から鳥だったかがCGで飛び出したときはアメリ系のCGファンタジーかと思ってテンション下がってきたけど、そっち系ではなかったからひとまず安心。
主人公の生い立ちとかファンタジーといえなファンタジーだけど。

図書館に勤務しながら絵本作家を目指しているベラ(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は、その極端な几帳面さでいわば変人。
でも超絶美人。
几帳面ゆえか無秩序に成長していく植物が大嫌い。
そのため借りているアパートの庭は荒れ放題だったのだが、家主から庭の手入れも契約に含まれているんだから一ヶ月以内にもとに戻さなければ出て行けと言われる。
いやいや手入れを始めるベラだが何をどうすればいいのかもよくわからない。
そんなとき成り行きで手を差し伸べたのは犬猿の仲の隣人アルフィー(トム・ウィルキンソン)だった。

植物嫌いをどう克服したのか(本に感銘を受けた?)よくわからなかったけど、庭が少しづつ変わっていくに従って孤独だったベラの周りも賑やかになっていく。
まあ、普通に楽しめると思う。

映画『未来よ こんにちは』

2016年 監督:ミア・ハンセン=ラヴ
製作国:フランス/ドイツ
at ギンレイホール




パリの高校で哲学を教えるナタリー(イザベル・ユペール)は、年老いた母のわがままに振り回されながらも慌ただしく充実な日々を過ごしている。
そんなある日、長年連れ添った夫から「他に好きな人ができた」と告白され離婚へ。
そこから長年変わらなかったものがどんどん変わっていき、慌ただしさの中や、休暇中でもナタリーは一人孤独を噛みしめるようになる。

変わらないと思っていたものが変わっていく、それでも前を向いて生きていく、っていう定年近い女性の悲喜こもごもがありのままに切り取られていてなかなか面白かった。
脚本はイザベル・ユペールのあて書きらしいが、等身大の女性を演技中心に表現していくのは確かにイザベル・ユペールありきだな。
イザベル・ユペールってもう60をとうに超えているけど50代後半という設定でも違和感ない。

2017年9月3日日曜日

映画『タレンタイム~優しい歌』

2009年 監督:ヤスミン・アフマド
製作国:マレーシア
at ギンレイホール




冒頭の教師二人とかムルー家食卓のコメディチックなやりとりを見た時に、あ、これはついていけないかもと思ったけど、段々面白くなってくる。

マレーシアのとある高校で第7回目を迎える芸能コンクール「タレンタイム」が開かれようとしていた。
そのタレンタイムの予選を勝ち抜いた生徒達の物語。

もうね、嫌な奴が一人もいないのね。
中華系のカーホウ君は感じ悪かったけど最後はあんなきれいな音を響かせて「良い奴じゃないか!」と叫びたくなる。
なかでもカーホウ君が目の敵にしていた成績TOPのハフィズ君の良い奴かつ超人ぶりが凄まじい。こんな奴現実にいないだろうと思いつつもその気高さに泣けてくる。

多民族国家マレーシア。マレー語・中国語・タミル語・英語等が飛び交っているらしい。
出演者もインド系とか中華系とか様々だ。
そんな彼らが民族関係なく通じ合っていく様は優しい時間。

ドビュッシーの「月の光」がよく流れるんだけど、「月の光」を聞くとなんか不穏な気持ちになる。
恐らく何かの映画で使われていたからだと思うけど思い出せない。

映画『台北ストーリー』

1985年 監督:エドワード・ヤン
製作国:台湾
at ギンレイホール




エドワード・ヤンの1985の映画。4Kによるデジタル修復版。
マンションの内見に訪れる二人の男女から始まる。
女は不動産業で働くキャリアウーマンのアジン(ツァイ・チン)。
男は何か覇気がなさげでヒモかとも思ったが、ちゃんと仕事しているアリョン(ホウ・シャオシェン)。
この二人をとりまく時代の物語。
時代といってもなんか革命やら戦争があったとかそういうわけじゃないんだけど、80年台の台湾っていう高度成長期の時代が色鮮やかに、そして時に悲しくスクリーンに彩られて、まさに『台北ストーリー』といった感じ。
時代はめまぐるしく進化していくがその時そこに生きる人々の過去と未来は。。

アジンのくそでかいサングラスとか、なんかちんちくりんなパンツスーツ姿とか当時はかっこよかったんだろうな。最初思わず笑いそうになったけど。

119分もあるけどこの空気感に浸れば結構あっというまで面白かった。

ホウ・シャオシェンは主演だけでなく制作脚本にも関わっていて、公式ページによると「エドワード・ヤンのために自宅を抵当に入れてまで製作費を捻出し、完成へとこぎつけた」らしい。

2017年8月28日月曜日

風邪とか鍵とか

ここ一週間くらいの話

2017/08/19(土)

二日前くらいから喉が痛くなって、やばいかなと思ったら予想通り発熱。

2017/08/20(日)

熱が下がらず。
夜外で飯食って「ごちそうさま」って言おうとした「ご」でそのまま「ごふっごふぅ」と咳き込む。
土日に誰とも会わなかったから気づかなかったけど、自分が喋れなくなっていることに気付く。
言葉を発して喉が振動した瞬間にすぐ咳き込んでしまう。

2017/08/21(月)

土日で熱が下がらず。「あいうえお」と一人発声してみると「あ」か「い」で咳き込んでしまってこりゃ駄目だと思って仕事を休む。
37度前後をいったりきたり。

2017/08/22(火)

熱も平熱より少し上くらいまで下がったし、たまに咳き込むけどある程度喋れるようになったので出社する。
遅くまで仕事して帰宅。
0時ちょっと過ぎくらい。
風呂入ってすぐ寝ようと考えながら、マンションの1階でセキュリティのドアを開けるためにポケットに手を突っ込んで鍵を探すと、鍵が無い。
はぁっ?
と思って再度ポケットの中身を全部出してみるが見つからず。
いつもポケットに突っ込んでいるのであるはずもないがカバンの中とか探すがやっぱり無い。
やばい、どうしよう。
近くの公園に歩いていってとりあえず一服して心を落ち着かせる。

さて、入居時にもらったスペアキーを実家に置いてあるので実家に取りにさえ行けば家に帰れる、のだけど、まず今日どうするか。
JRの駅まで20分位歩いていけばぎりぎり終電で実家には帰れそう。
でも着くのは1時半すぎるだろうし寝る時間も少なくなってそれはきつい。
後は漫画喫茶で一泊という手。
睡眠時間は確保できるが、なんかやっぱりきつい。
よくいく漫画喫茶はシャワーなんかないしなぁ。

まずはJRまで行ってみるかと思って歩きだす。
終電には間に合いそうな時間でJRに着く。終電過ぎていれば諦めがつくのに。。
さてどうしよう。
ここまで来てなんだけど、というかここまで来た労力を使ったせいか、やっぱり今から1時間かけて帰る気力が出ない。
実家に電話して鍵を失くしたことと明日帰ることを伝えて、漫画喫茶に行くことにする。

漫画喫茶に行く前に往生際悪くもう一回家まで戻ってロビーとかに鍵が落ちていないか探したりする。無いよねぇ。
ついでになか卯で軽くうどん食ってから漫画喫茶へ。1時過ぎくらい。
ナイトパックは7時間だった。

疲れているけどなんとなく寝る気がしないので漫画を読む。
2時前くらいに就寝。
したいところだけど、リクライニングシートで全く眠れない!
近くにいる病気かと思うくらいのいびきをかいているおっさんもうるさい。
4時位に寝れんわと思ってタバコを一服。
少しぼーっとしてからまた横になる。
最後の方は1時間くらいは寝れた気がする。

2017/08/23(水)

7時くらいに起きて出社。

早めに切り上げて実家に帰りたいところだけど、全然終わらず、9時40分くらいにやっと会社を出る。
えー、まじどうすんの。スペアキーとったらそのまま家に帰ろうかと思ったけど、なんかスタミナつけるために焼肉作って待っててくれているみたいだし、実家で夕飯食ってちょっとくつろいでから帰っても家に着くのって1時半とかそんな時間になっちゃうし、実家に泊まったら3日連続同じ服だし。
電車が遅れていたりで結局実家に着いたのは23時。
飯食ったら帰る、と言うと泊まって行けという。
シャツと下着は洗っておくから。
なんてありがたいんだ。
泊まることにする。

飯の前に風呂に入る。いつもシャワーだから湯船が温かい。
風呂上がりでそのまま夕飯を食う。
最近夜遅くて夕飯はおにぎりとかパンで簡単に済ませていたので少食になっているのか少し残してしまう。
親と話していると、スペアキーまで失くしたら大変ということで、俺がスペアキー置いているところを探し出して昼間に鍵屋に持って行ってスペアキーのスペア作成を申し込んできてくれたらしい。
特殊なキーのためか3ヶ月かかるし、料金も5000円。(後で代金渡しておこうと思っていたのに忘れてた)
飯食ってベランダに出て一服しようと思うと灰皿がちゃんと用意されている。
このいたれりつくせりのおもてなしは偉大だなと思う。
1時ころに就寝。

2017/08/24(木)

いつもより大分早い時間に出たのにいつもより遅い時間に会社に着く。
通勤ラッシュでちょっとへとへと。

22時過ぎまで働いて久しぶりに家に帰る。
今日まで咳が止まらない状況で、そういえばと思って体温測ってみると37度あった。

2017/08/25(金)

朝体温測るとまあ平熱ちょい上くらいだったので出社。
咳はこの日が一番ひどかった。

2017/08/27(日)

いつもならギンレイホールに映画を見に行く日だけど、咳も出るし出かける気がしないので久しぶりにスキップする。

2017年8月13日日曜日

映画『愚行録』

2016年 監督:石川慶
製作国:日本
at ギンレイホール




育児放棄で逮捕勾留されている田中光子(満島ひかり)の兄で週刊誌記者の田中武志(妻夫木聡)は、現実から目を背けるように取材に没頭する。
取材対象は1年前に起こって未だ未解決の一家惨殺事件。
事件を追っていく内、被害者の人物像が浮かび上がり、そしてばらばらだったはずのピースが次第につながっていく。。

取材対象の人々が皆どこか嫌な感じの人たちなのね。
くずといえばくず、そして本当に現実にいそうなくず。
「なんであんなええ奴が殺されなあかんのですかね」
を共感を持って聞く人が一人もいないっていう。

冒頭のバスのエピソードってなんなんだろう。
あれ見ると、武志の性格はお茶目とか機転が効くとか、いろいろ想像できるけど、本編の武志はあんな冒頭のエピソードが別人かのように、終始表情が暗くておとなしい。
感情を表に出さないという点は共通しているけど、主人公武志の意外な一面としてこのエピソードを記憶して見ているとなかなか面白い。
にしても妻夫木君は暗い顔していても絵になるよな。
普通あんなに暗い顔していたら気持ち悪いやつだし周りもどんよりするはずなのに、顔立ちが整っているから暗い顔しても絵になる。
それが役者として幸なのか不幸なのかはよくわからないけど。

惨殺された家族の夫役で、この作品の中で一番嫌な奴の田向浩樹役に小出恵介。
あの事件のせいでギンレイでの上映が一旦リスケされた。
本当出演した役者のプライベートな事件なんてどうでもいいんだけど。
他、小雪にしては若い気もして誰?と思った松本若菜。
後から気づいた市川由衣。
臼田あさ美。昔雑誌のモデルやってた子だよね、確か。
濱田マリはなんか違和感あったな。演技というか、なんか存在自体がはまっていない感じ。
平田満がいいアクセントとして出演している。

映画『しゃぼん玉』

2016年 監督:東伸児
製作国:日本
at ギンレイホール




大阪なのかな、どこかの都会で女性や老人をターゲットにひったくりを繰り返していたイズミ(林遣都)は、ある日ひったくりの最中に女性を刺してしまう。
逃亡の末流れ着いたのが宮崎県の山深い椎葉村。
そこでスマ(市原悦子)という一人暮らしのばあさんと知り合って、家に上がり込む。

昔こういう映画大好きだったな。旅の果てに田舎に住み着くみたいな。『ナビィの恋』とか。
なかなか面白かった。原作乃南アサ。

林遣都は『バッテリー』しか見ていないから大人になったなと思ったけどそういえば最近NHKの『べっぴんさん』に出ているのを見ていたな。

2017年7月30日日曜日

映画『たかが世界の終わり』

2016年 監督:グザヴィエ・ドラン
製作国:カナダ/フランス
at ギンレイホール




人気作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)は近い将来に訪れる自らの死を告げるため、12年ぶりに実家に帰郷する。
迎える家族は母マルティーヌ(ナタリー・バイ)。
兄アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)。
アントワーヌの妻で初対面となるカトリーヌ(マリオン・コティヤール)。
幼いころに別れてあまり兄の記憶も持っていない妹のシュザンヌ(レア・セドゥ)。
兄以外はルイを快く受け入れる。
12年ぶりの家族との会話、対話。
なかなか言い出せないルイ。
そんな話。

ヴァンサン・カッセルが父親役で、ナタリー・バイの若々しさは異常だけどさすがにナタリー・バイとヴァンサン・カッセルが夫婦役は無いだろうからナタリー・バイは祖母かな、とかいろいろ考えたのに、ヴァンサン・カッセルが兄役でナタリー・バイが母役だと!?
役者達をぱっと見ただけで役の親子関係が分かったら自分は特殊な感性を持っている稀有な人だと自負していいだろう。

物語のキーマンというか主役みたいなもんがヴァンサン・カッセル演じる兄アントワーヌ。
次男のルイが出ていった後家族を一家の長男として奮闘してきたとかいろんな思いがあるのだろう。
・・・にしてもひねくれすぎじゃないか?
年齢から考えてもガキかお前はと言いたくもなるけど、とにかく強烈で惹きつけられる。
的を射ているかどうかは置いておいても深読みしては常にブチ切れる。俺に同情すんじゃねぇボケが!
面白い。
たかが世界の終わり、そんなことどうでもいいんじゃいボケが!!

カトリーヌ役のマリオン・コティヤールは役柄も相まってなんであんなにキュートなんだろう。
初めの頃はルイとカトリーヌが恋仲にでもなってこじれるのかと思ったけどルイにはちょっと事情があって、それが家を出た理由にもつながっているのかな。

あと音楽は基本的にうるさかったな。

映画『エリザのために』

2016年 監督:クリスティアン・ムンジウ
製作国:ルーマニア/フランス/ベルギー
at ギンレイホール




どこの国なんだろうと途中までわからなかったけど、ルーマニアだった。
この街この国に見切りをつけている医師のロメオ(アドリアン・ティティエニ)は、一人娘エリザ(マリア・ドラグシ)には自分たちと同じ道を歩んでほしくないと思っている。
そのため、エリザに英国留学の道を勧め、エリザもそれに従おうとしていた。
成績優秀なエリザは卒業試験をなんなくクリアしてケンブリッジ大学の奨学生になる、はずだったが、卒業試験の前日に登校途中で暴漢に襲われてしまう。
幸い大事には至らなかったが、心の傷は大きく翌日以降の試験など受けられそうにもない。
エリザのために、、父親が奔走する。

手持ちカメラで迫っていく登場人物は複雑で優しくて苦悩に溢れている。
人とのつながりや助け合いの精神が不正の横行につながっている社会を映し出したり、投石の謎、暴行事件に潜む謎等を差し込んだり、何の意味があるのかわからない肉感的な美しいシャワーシーンを映したりと、結構いろんな要素も詰まっている。
まあ謎の方は何かあっと驚く秘密が最後に明かされるとかそういうわけじゃないけどね。(投石の方は後半でなんとなく事情がわかる)

面白かったが少し長いかなと思った。128分。

2017年7月17日月曜日

映画『未来を花束にして』

2015年 監督:セーラ・ガヴロン
製作国:イギリス
at ギンレイホール




まだ女性参政権のなかった100年前のイギリス。
女性参政権運動は、平和的主張だけでは男たちに相手にもされず、次第に過激な行動での主張へとシフトしつつあった時代。
洗濯工場で低賃金長時間労働を当たり前のように毎日こなしていたモード・ワッツ(キャリー・マリガン)は、女性参政権運動とは全くの無縁であったが、職場仲間にサフラジェットがいたことで、次第に活動にのめり込んでいく。
のめり込むというかのめり込まざるを得ない状況まで追い込まれていた、とも言えるけど。

警棒で容赦なく女性を殴打したり、セクハラというレベルを超えた行為が行われていたりと、怒りを溜める要素が次々に出てくる。
なのになんか中途半端なところで終わったな。
命を賭して国王への直訴への道を開いたのかと思ったらそういうわけではないのね。

偉そうにしていても男は女がいないとその無能ぶりを遺憾なく発揮したりするところなんか、男って愛らしいぜと思うけど、ここは監督が暗に男を痛烈に非難、というか馬鹿にしているんだろうな。

主演キャリー・マリガン。
薬剤師役にヘレナ・ボナム・カーター。かっこいい。
あまり出番はないけどエメリン・パンクハースト役に安定のメリル・ストリープ。

映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』

2016年 監督:ケン・ローチ
製作国:イギリス/フランス/ベルギー
at ギンレイホール




59歳の大工ダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は、心臓病を患い、医者から仕事を止められてしまう。
収入を得る術がなくなってしまったので、国から援助を受けようと手続きを開始するのだが、役人の型にはまった対応に次々に阻まれてなかなか申請が下りない。
そんなとき役場で出会ったのが二人の息子を育てるシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)。
彼女もまた国の支援を求めていたが、役人のすげない対応で追い返されていた。
ダニエルはケイティを放っておけずに手を差し伸べるが、ダニエル自身も救いが必要な人。
そんな二人は現実にどんどん追い詰められていく。

一度宣言した引退を撤回してまでケン・ローチが撮りたかったもの。
確かにこんな現実に接したら怒りも湧くよな。
かつてのゆりかごから墓場までの国が。

マウスのシーンは予告編じゃなくて本編で最初に見たかったな。
怒りの中にも優しさとユーモアを散りばめ、円熟したケン・ローチの手腕が堪能できる。
面白かったけど、パルム・ドール取るほどかなという気はした。

2017年7月2日日曜日

映画『淵に立つ』

2016年 監督:深田晃司
製作国:日本/フランス
at ギンレイホール




娘一人の3人家族の食卓。
父親鈴岡利雄(古舘寛治)は新聞を読みふけって喋りもしない。
母親鈴岡章江(筒井真理子)は夫に敬語使ったりするしでなんか変な家族。
この家族のもとに変なおっさんがやってくる。
なんか変なおっさんが出てきたなと思ってぼーっと見ていたら浅野忠信だった。
変なおっさん八坂がやってきて面白おかしい家族ドラマが展開してくれればいいんだけど、変なおっさんの変な方向性がやばいからね。
スラックスは一昔前かのようにだぼだぼで、ワイシャツはネクタイしめていないのにボタンを上まできっちり留めている。
姿勢が気持ち悪いくらいに正しい。
そしてムショ帰り。

明らかに不穏な空気を纏った八坂だが、礼儀正しくはあり、娘も懐いて次第に家族に溶け込んでいく。
河原で八坂が一瞬本性を現すシーンは少しぞくっとしたな。

家族の間に横たわる秘密。
年を経て利雄と章江が本当の夫婦のようになっているのは唯一の救いのように思えたけど。。

なかなか面白かったけど、もやもや感が残る。
謎が謎のままだからさ。結局過去に、そしてあの日に何があったの?
なんか編集でいっぱいカットしてんのかな。
八坂の自白シーンも唐突だったし。

役者達が秀逸だった。
浅野忠信は言うに及ばず、いろんな作品でちょこちょこ見る古舘寛治とか、あと筒井真理子、太賀。
そして鈴岡蛍役の篠川桃音って子がなかなかの美人だと思う。子役から活躍している子みたいね。

映画『沈黙 -サイレンス-』

2016年 監督:マーティン・スコセッシ
製作国:アメリカ/イタリア/メキシコ
at ギンレイホール




162分もあるけどなかなか面白かった。
原作読んだのは20年くらい前なのであまり内容も覚えていなかったし。

なんかキャスト見ていると結構いろんな人が出ていたんだな。
高山義廣はすぐわかったけど、片桐はいりとか洞口依子、中村嘉葎雄、伊佐山ひろ子、SABU等々、全く気づかなかった。

音楽がほとんどないのはいい。
途中琵琶の音が響いた時に、あ、音楽が武満徹だったらなぁと思ったんだけど、この沈黙って1971年にも篠田正浩で映画化されていてその時の音楽は武満徹だった。
篠田版はあまり評価が高くないみたいだけどいつか見てみようかな。

貧しい農民達や弾圧する側の奉行達がそんなに英語を習得できるかいなとは思った。まあどうでもいいけど。
前半の日本は本当極東の未開の地といった雰囲気で寂寥としている。
捕まった後は日本的な美に溢れるけど、ねちっこい残酷性が今度は浮かび上がる。

2017年6月25日日曜日

映画『はじまりへの旅』

2016年 監督:マット・ロス
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




大森林の中で暮らす親子。
娘3人、息子3人と父親。母親はなんか入院しているらしい。
裸に泥を塗りたくって狩猟する姿は原始的に見えるが、文明を全否定した生活をしているわけではなく、何より子どもたちはそれぞれ何か国語も使いこなし、哲学書、古典文学等々を読み漁ってそんじょそこらの子どもたちより頭がいい。
頭がいいうえに狩猟やロッククライミングやマーシャルアーツ等、父親に叩き込まれて身体能力もずば抜けている。
母親の死をきっかけに、葬儀に出席するべくそんなスーパー子供達が街に出る!
っていうとコメディのように思えるけど(世間とのずれによる笑いはあるもののそれも含めて)、どちらかというと人間ドラマ家族ドラマの色が濃い。

大森林では父親は絶対的な存在で、子どもたちの教師であり信頼尊敬もされている。
そこに疑う余地はない。(レリアンを除いては)
しかし街に出ることで子供たちの何人かは自分たちの生活に疑いを持ち始める。
そして父親自身も子供たちの教育に絶対の自信を持っていたはずなのに、それが本当に子供たちの将来や安全を考えるとベストだったのか?と揺らぎ始める。

子供の頃はこういう生活に憧れていたなぁとなんか思い出した。
面白かった。

2017年6月18日日曜日

映画『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』

2015年 監督:レベッカ・ミラー
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




イーサン・ホークとジュリアン・ムーアが夫婦役か。
ジュリアン・ムーアってそういえばいくつくらいなんだっけと調べて見らた1960年生まれ!
白い生足出したりして若々しい。
主演グレタ・ガーウィグ。

予告編見て、不倫していたけどやっぱり妻に返すみたいな話かな、と。
大筋は間違っていないけど、不倫の結果結婚して子供まで設けた状態からっていうのは予想外。
この大人3人の身勝手さよ。子供かわいそう。
身勝手を反省して最後は円満と捉えると、一人マギーだけ微妙だよな。
子供さえいれば幸せなのかもしれないけど、あのラストはだってまた繰り返すってことでしょ。

2017年6月4日日曜日

映画『ヒトラーの忘れもの』

2015年 監督:マーチン・サントフリート
製作国:デンマーク/ドイツ
at ギンレイホール




少年たちの顔が覚えられず誰が誰だかよくわからなかった。。

ナチスによってデンマークに埋められた200万個の地雷。
終戦後にその撤去に従事したのは主にドイツの少年兵達だった。
という史実をもとにした映画。

終戦後のデンマーク人はドイツに対する並々ならぬ憎悪を持っている。
ラスムスン軍曹(ローランド・ムーラー)もその一人。
地雷撤去の任に当たるラスムスン軍曹はやってきたドイツ兵が少年兵であることに一瞬戸惑いながらも、憎きドイツ兵をこき使って地雷撤去を進めていく。
そんなラスムスン軍曹と、ただ国への帰還を夢見るドイツ少年兵達の不安定な交流を描いている。

地雷がいつ爆発するか。っていうのが常に緊張感をたたえている。
双子の片割れが一人砂浜を歩いて行く姿が印象的。

映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』

2015年 監督:ギャヴィン・フッド
製作国:イギリス
at ギンレイホール




これが少年漫画なら
「目の前の一人の命を救えずに世界が救えるかー!!」
っていって全部救うんだけどね。

テロ組織アル・シャバブを追う英米の合同チームは、ナイロビでアジトを突き止める。
で、なんやかんやでテロリストたちが今まさに自爆テロを遂行しようとしていることがわかり、偵察ドローンが搭載したヘルファイア(すごい名前)でアジトを爆撃しようとする。
ただ、イギリスとケニアは友好国だったりして法的な問題とかでわちゃわちゃ揉めたりもする。
というのは置いといて予告編でネタばれしているから書くけど、いざ爆撃って時にアジトの近くで一人の少女がパンを売り始めるのね。
アジトの周辺は爆撃によりふっとぶ試算。
爆撃したらおそらく少女は助からない。
でも爆撃しないと自爆テロで多くの人が死ぬ。
どうしよう。

自爆テロに向かう途中でうまいこと取り押さえられないものかね。

ヘレン・ミレン演じるパウエル大佐がいる部屋がなんかいかにもセットという感じだった。

生粋の軍人ほど爆撃に躊躇が無い。
今は安全な部屋の中にいるけど過去にはもっと悲惨の現場を目の当たりにしているからか、冷徹な判断で現実を見ている。
ただ、パウエル大佐は6年も追い続けたスーザンをやっと追い詰めたのだからとっとと終わらせたいっていう利己的な感情も見え隠れしたりする。

ベンソン中将役には去年逝去したアラン・リックマン。

鳥型とか虫型のドローンが凄いな。
でもあんなの民間人が気軽に手に入れられるようになったらもう窓もカーテンも開けられないよね。

2017年5月21日日曜日

映画『湯を沸かすほどの熱い愛 』

2016年 監督:中野量太
製作国:日本
at ギンレイホール




母っていうモチーフがこれでもかと出てくるのと、途中ロードムービーっぽいところとか、日本版『オール・アバウト・マイ・マザー』だ!って言いたい。
ああ、それで言いたいこと言い尽くした感が。。

最近映画見て泣いた記憶が無いし、感動物で泣いた記憶なんかさらに無いのだけど、病院のベッドでの宮沢りえの表情とそれを見た杉咲花のクシャッとした顔見たら号泣するしかない。

肝っ玉母さん幸野双葉役に宮沢りえ。
母親役?肝っ玉母さん??と思うが、凛とした肝っ玉母さんが非常にかっこいい。

娘役に杉咲花。
この子朝ドラ見ていたときは細身色白なイメージだったけど、色黒でむっちりしていたんだな。
というのは置いておいて、この子本当凄いわ。
演技の自然さ、表現力、存在感、この歳でもうトップクラスの女優さんになっている。

りりィが少し出ていた。

これが監督の商業デビュー作らしい。
『オール・アバウト・マイ・マザー』には敵わないながらもかなり面白かった。

映画『永い言い訳』

2016年 監督:西川美和
製作国:日本
at ギンレイホール




小説家衣笠幸夫(本木雅弘)の妻(深津絵里)がバスの事故で亡くなった。
亡くなった日、幸夫は不倫相手(黒木華)と一夜を過ごしていた。
妻と同時に亡くなった妻の親友の夫、大宮陽一(竹原ピストル)と連絡を取り合うようになり、その後大宮の二人の子供の面倒を見るようになる幸夫。
そんなお話。

初めから夫婦仲は壊れかけていたので、妻が亡くなった悲しみから前を向き始める物語とかじゃない。
妻が死んだ。
これっぽっちも泣けなかった。
そこから愛しはじめた。
だからね。

人物造形も演出もいやらしいんだな。
まず幸夫。
小説家としては落ち目にいるが、甘いマスクでテレビにも多数出演している人気者。
自分大好きで子供なんかいても邪魔だから意図的に作らなかった。
傲慢、不遜でいい顔しいのナルシスト。
子どもたちの面倒を見ることに生きがいと居場所を見出していき、少し変わっていくようにも見えるが、自分が子どもたちに頼られている(好かれている)という自負からか、傲慢な面をまだまだ覗かせたりもする。
いくら入りこんだところで所詮他人、そんな悦に浸る幸夫に対して辛辣なシーンも用意されている。
そしてなにより幸夫の職業が小説家という設定のいやらしさ。
なにもかも小説のネタ作りという冷めた面があるのではないかと勘ぐってしまう。
幸夫の人物像で重要なポイントが実は冒頭の夫婦の何気ない会話に潜んでいるというのもいやらしい。
ナルシストだけど彼は自分がとにかく嫌いなんだね。それは名前に始まり、小説家として芽が出るまで妻に養われていたという恥、自分の心の弱さ、etc..
悩みを打ち明ける友人もいない。
仮面をかぶり続けた幸夫が全てをさらけ出すのに小説家という職業はうってつけでもある。

大宮陽一。
頭は良くないが人懐っこく感情豊かな長距離トラック運転手。
幸夫と全く正反対の性格。是枝監督の『そして父になる』みたいだ。
いかつい陽一がいつ幸夫にブチ切れるのかとそわそわする。
演出も無駄に間を置いて怖がらせるからいやらしい。

竹原ピストルもそうだけど配役がこれでもかというくらいぴったりなんだよね。

愛人役の黒木華。
もう黒木華ってだけでいやらしい。
エロいって意味じゃなくて、黒木華ってなんか怖いじゃん。
つぶらな瞳の奥に底知れぬ闇がありそうというか。
愛人がホテルじゃなくて恋人宅できゃっきゃうふふしているのは恐怖だよ。

マネージャー役の池松壮亮。
もう池松壮亮ってだけでいやらしい。
この人は悪人とか嫌な奴やらせたらピカ一だと思う。
この役はそんなに嫌な奴じゃないけど、カフェでおもむろにタバコを吸うシーンの不遜さはさすが池松壮亮だと思った。

他、
妻役に深津絵里。あまり出番はないけど存在感が凄い。
学芸員役に山田真歩。吃音症設定により幸夫と陽一の性格が浮かび上がる。
編集者役の人見たことあると思ったらキス我慢に出ていた岩井秀人だった。





2017年5月7日日曜日

映画『ブルーに生まれついて』

2015年 監督:ロバート・バドロー
製作国:アメリカ/カナダ/イギリス
at ギンレイホール




チェット・ベイカーを扱った映画で、イーサン・ホークが演じている。
歌はイーサン・ホークが実際に歌っているらしい。
伝記なのかなと思ったけど、恋人役のジェーン(カーメン・イジョゴ)なる女性は実際にはいなかったらしいので、多くのフィクション部分と伝記部分が混在している模様。
男の哀愁を漂わせて、わがままな奴だけど弱くてどこか憎めない。
なかなか面白かった。

実際のチェット・ベイカーはもっと悪魔的な男らしい。
チェット・ベイカーの唯一の自伝本『終わりなき闇』は鬱になりそうなくらい面白いらしいので読んでみたいな。

映画『ジュリエッタ』

2016年 監督:ペドロ・アルモドバル
製作国:スペイン
at ギンレイホール




アルモドバルの母物ということで期待しすぎていた面もあるけど、なかなか面白かった。
手紙を受け取った時の想いで息の詰まりそうな演技には泣きそうになったし。

結構小道具を散りばめていて、後になってからああそれってそうなんだと気付くところがある。
引っ越し準備中に包んだ変なオブジェにはそういう複雑な思い出があったのかとか、若者が3on3やっているすぐ側のベンチに座ったときはそこに普通座るかよ!って思ったけどその場所は実は、みたいな。
あと入れ墨とかね。
話自体はシンプルに多くを語らず展開するから細かい部分でよくわからないところはあるけれど、小道具等の演出や映像が重層的で見応えはかなりある。

そういえば瞑想の合宿所にいたおばさんに凄い嫌悪感を持ったのは何なんだろう。
あの余裕のある泰然とした雰囲気が逃避に基づくからか、もしくはお前人様の子に何してんだよ何様だよという怒りか。

主人公の若い頃役の女優さんアドリアーナ・ウガルテが綺麗だった。

2017年4月23日日曜日

映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』

2016年 監督:スティーヴン・フリアーズ
製作国:イギリス
at ギンレイホール




フローレンス・フォスター・ジェンキンスという実在の人物のお話。
富豪の彼女はソプラノ歌手になるのが夢でたまにリサイタルなどを開いて自慢の歌声を披露していた。
しかし彼女はとてつもなく音痴だった。
しかも自分で気づいていない。
そんな彼女を夫は献身的に支える。
新聞記者を買収したり。。

フローレンス役にメリル・ストリープ。
音痴も忠実に再現しているのだろうし、音痴であることは確実だけど、そんなに大爆笑するほどかな。

夫のシンクレア役にヒュー・グラント。
年齢違いすぎるだろうと思うが若い愛人(レベッカ・ファーガソン)を囲っているから実際の夫も離れているのかなぁ。
で、この愛人という存在が謎で、シンクレアはフローレンスに献身的だけど、この愛人がいるせいで彼の妻に対する想いがなんだか薄れてしまう。
そもそも音痴を気づかせないように根回しするのが献身的なのか?という疑問もある。
となると実は遺産目当て?と思わせながらも、どうやら本気で妻を愛しているようなんだよね。
愛人も大事にしているけど愛人と妻を天秤にかけるようなシーンで妻を選んでいたりもするし。
事実にもとづいてしょうがなく愛人を登場させたのかな。
いずれにしろ、愛人を登場させながらもシンクレアがフローレンスを心から大事にしていることを十分に描き、愛人がばれそうになるところはコメディにしつつも愛人の悲哀もちゃんと描いたりして、なかなか上手い脚本だなと思う。

映画『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』

2016年 監督:リチャード・リンクレイター
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




舞台は1980年で、野球の強豪大学に野球推薦で入学するジェイク(ブレイク・ジェナー)が入寮してから大学が始まるまでの3日間のお話。
お話、というか、酒!ドラッグ!女!と少し野球、で押しまくる。
まだ大学生になる前の3日間で、多分自分も含めた多くの日本人の数十倍も人生を謳歌しているんじゃないだろうか、ってくらいハッスルしている。
彼らは野球エリートでイケイケだから、というわけじゃなくて、文化系の人たちまでハッスルしている。
この時代だからなのかアメリカだからなのか。
敬語がないからか自己主張が強いからか、すぐに昔からの友人かのように馴染むところも凄い。

それにしても寮生の面々が大学生に見えないくらい老けている。
役者は皆実際は30近いっぽいね。

過ぎ去りし青春の1ページを切り取った、これから先苦しいことやつらいことがたくさんあるかもしれないけど今だけは全力で楽しもうぜっていう懐かしくて能天気で楽しい映画。

2017年4月9日日曜日

映画『手紙は憶えている』

2015年 監督:アトム・エゴヤン
製作国:カナダ/ドイツ
at ギンレイホール




戦争を生き抜いた世代も高齢でどんどん少なくなっていくなぁ。
妻に先だ立たれたばかりの90歳の老人ゼヴ(クリストファー・プラマー)。
彼は老人ホームの友人とある計画を立てており、妻がなくなったらそれを決行する、と。
車椅子の友人はホームに残り、ゼヴは一人計画を遂行するべく旅立っていく。
二人はアウシュヴィッツの生き残りで、ともに家族を看守に殺された過去を持つ。
そしてその看守は身分を偽り逃亡し、今ものうのうと生きているという。
計画とは、その看守“ルディ・コランダー”を見つけ出し、復讐(殺害)すること。
しかしゼヴにはある問題があった。
認知症が進行しすぎて毎朝目覚めると記憶を失うということ。
友人はゼヴの過去と計画を記した手紙をゼヴに渡し、ゼヴは記憶をなくすたびに手紙からやるべきことを知る、というあぶなっかしい旅路。

まあまあ面白かったんじゃないかな。
こんなに記憶をなくすなら幸せな嘘の過去を騙して教えることもできるよなぁと思って見ていた。。。
最近なんかの予告編でラストが衝撃とかいうの見たなと思っていたけど、これだったか。

記憶をなくすたびに亡き妻の名を呼んで、生前はそんなに片時も離れずに一緒にいたのかよ、と突っ込みたくなる。

ブルーノ・ガンツを久しぶりに見たけど老化が加速しすぎじゃないだろうか。

映画『幸せなひとりぼっち』

2015年 監督:ハンネス・ホルム
製作国:スウェーデン
at ギンレイホール




結構面白かった。
愛する妻をなくして孤独に生きるオーヴェ(ロルフ・ラッスゴード)は43年間働いた鉄道会社をクビになる。
妻を亡くした悲しみからいまだに立ち直れないオーヴェはいい機会だとでもいうように自殺に向けていそいそ準備を始めるのだが、隣に引っ越してきた移民の家族やらなんやらでことごとく自殺を阻まれる。
このオーヴェというじいさんはかなりのクセがあって、とにかく規律に厳しい。
規則を守らない住民にはようしゃない罵声を浴びせ、普通には関わり合いたくないかなり気難しい男。
ただ、たくましく生きる移民の女性にはそんことはお構いなし。
そして昔からの知り合いはオーヴェに優しいところや、時折回想の入る妻との思いでからも次第にオーヴェという気難しい人物の別の一面が見えてくる。

妻役のイーダ・エングヴォルが溌剌としていい感じ。
これは惚れるわと思う。
しかしまあソーニャとの思い出が若い頃だけというのも気になりはするけど、今でもそんなに思っているということからも二人の仲はうかがい知れる。
大分いい奥さんだよな。かなり男側の願望が入っていそう。


映画と関係ないけど、この回は席が大外れで、後ろの席の頭のおかしいおっさんが前の席、つまり俺の席を頻繁に蹴り、そして押してきた。
最近はこういう奴いなかったんだけど、たまに思い出したように現れるんだよな。

2017年3月26日日曜日

映画『エル・クラン』

2015年 監督:パブロ・トラペロ
製作国:アルゼンチン
at ギンレイホール




舞台は1980年代のアルゼンチン。
独裁政治が終結し、民主政治を取り戻しつつあった時代。

家長アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)を中心に幸せで平和な生活を送っている(ように見える)プッチオ家。
子供もたくさんいて、特に長男アレハンドロ(ピーター・ランサーニ)は将来有望なラグビー選手。
しかし裕福で近所からも慕われるこの家族にはある秘密があった。
1983年にアルゼンチンで実際に起きた事件らしい。

緊迫の警察突入シーンにを冒頭に持ってきてからそんな状況と無縁な家族の光景を映したり、未来の不安から夢で未来の結末を見てしまったり、と、時間軸の入れ替えでなにこれっていう驚きを入れたりしてなかなか飽きさせない展開。
で、不思議で面白いのは、コメディ的な雰囲気とシリアスのバランスで、これはなんなんだろうっていう独特な空気が漂っている。
コメディといっても笑いがあるというよりかは主に音楽によるのかな、エンターテインメントのような感じ。
エンタメ要素が強すぎると茶化しているようになってしまうが、そこまではいかないのでその犯罪行為自体の残酷性は揺るがないし、彼らをヒーロー視しているようにもならない。
っていうバランス。

シリアス一辺倒ではなくエンターテインメントの雰囲気を加えると、ただ単純に面白いってだけじゃなくて、なんだかアルキメデスの見方も変わってくる。
アルキメデスは飽くまで冷酷な犯罪者であり憎むべき対象ではあるっていうのは確実だけど、エンタメ要素によってこの人物に少し愛着が出て来ると、憎しみに加えて少し憐れみも加わってくる。
無口で家長として偉ぶっているアルキメデス。
家族思いのアルキメデス。
息をするのと人を殺すのが同列なアルキメデス。。。
殺人に対するモラルの欠如って、アルキメデスが生きてきたアルゼンチンの時代により植え付けられたとすると、彼も被害者に思えてくる。
で、重要なのがバランス。
憎しみ7、憐れみ3くらい。この辺がちょうどいい。

ラストのアレハンドロはどうやって撮影したんだろうな。
マットにバフンして合成かな。

映画『人間の値打ち』

2013年 監督:パオロ・ヴィルズィ
製作国:イタリア/フランス
at ギンレイホール




夜の車道で自転車で帰宅中の男性が車にひき逃げされるところから始まる。
このひき逃げ事件の前後が3人の登場人物の視点で描かれる。
不動産業を営み、上流階級に憧れるディーノ・オッソラ(ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ)。
資産家の妻で昔舞台女優もやっていたカルラ・ベルナスキ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)。
ディーノの娘でカルラの息子と付き合っている風なセレーナ・オッソラ(マティルデ・ジョリ)。

ひき逃げされた男も含めて登場人物が交錯する中、視点を転換しながら情報が小出しにされていく。
なかなか面白いサスペンスドラマ。

ディーノが冒頭から人の話を聞かない自分勝手なお調子者という雰囲気を醸し出していたけど、実際その小物ぶりが笑っちゃうくらいに面白い。
よくこんなぴったりな役者見つけてきたな。ってこの人『永遠と一日』に出演しているみたいだし結構有名なのかなぁ。

カルラ役にヴァレリア・ブルーニ・テデスキ。
この人『アスファルト』でもそうだったけど、何か物憂い表情させたら世界一だよな。

2017年3月12日日曜日

映画『ハドソン川の奇跡』

2016年 監督:クリント・イーストウッド
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




いきなり街中に飛行機が墜落して大炎上してんだけどなにこれ、っていう始まりから、事故の回想と夢と現在を効果的に入れ替えながらスリリングに展開していく。

初め、墜落後に機長がなぜか生きていてテレビではハドソン川に不時着のニュースが流れているしで、これは機長は未来予知の能力があって墜落を回避したのだな、などとSF脳で納得していたけど、いたって現実的なお話だったのだと大分経ってから気づいた。
なにせ実話だからね。(というのもエンドロールで知った)

離陸後まもなくバードストライクで両エンジン停止。再点火を試みるも反応せず。
管制官からは空港に引き返せとかどこそこの空港に行けとか指示が出るが、ベテラン機長はこの高度ではどこにも行けないと判断し、ハドソン川への不時着に踏み切る。
そんな無謀な試みは成功しないと思われたが、見事に成功し乗客は全員無事生還した。
機長は一躍英雄となる。
っていうだけなら映画はすぐ終わってしまう。
問題はこの英雄に嫌疑がかけられるということ。
ハドソン川への不時着は本当に正しい判断だったのか?乗客を無用な危険に晒したのではないか?
見た目も派手な生還劇を随所に挿入しながらサスペンス風の人間ドラマが展開され、しかも最後には痛快なラストまで用意されているこの構成は本当よくできている。

最近緒川怜の『霧のソレア』っていう偏執的に描写が細かい航空機パニック小説を読み終えたばかりなので余計面白かったな。

主演トム・ハンクス。
副機長にアーロン・エッカート。不自然なくらいむきむきだった。


これ書いている前日にビックカメラふらふらして4Kテレビの前に来たとき、この映画が流れていたんだよね。
映画館ではトム・ハンクスの肌ツヤのいい若々しさに驚いたけど、4Kテレビの映像を間近で見ると結構あれだった。。4K恐ろしい。

映画『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』

2015年 監督:マイケル・グランデージ
製作国:イギリス
at ギンレイホール




読んだことないけどアメリカの作家トーマス・ウルフと、彼を見出した名編集者のマックス・パーキンズの物語。

雨降るニューヨークに傘もささずに立って印象的に足を踏み鳴らす男と小気味良い校正の赤鉛筆の音。そしてモノクロからカラーへ。
これから始まる壮大な物語への期待をふくらませる(ような)冒頭の演出に、なんか嫌な予感がしたものの、まあ普通には面白かった。

娘だらけで息子がいないパーキンズとトーマス・ウルフの親子のような絆とか、膨大な量の文章を商業ラインに乗せるために編集(削除)していく作業の苛烈さや対立とか、愛人の倒錯した愛憎とか、トーマス・ウルフの奇人ぶりとか、なんかいろいろ要素があるけど、編集作業の内幕がメインなのかな。
人間ドラマ部分は少し唐突というか駆け足気味だし。

パーキンズ役にコリン・ファース。
トーマス・ウルフはジュード・ロウ。
愛人のバーンスタインはニコール・キッドマン。ジュード・ロウよりずっと年上じゃね?と思ったけど、実際バーンスタインはトーマス・ウルフの18歳上だったらしい。
F・スコット・フィッツジェラルドにガイ・ピアース。
アーネスト・ヘミングウェイにドミニク・ウェスト。

2017年2月12日日曜日

映画『めぐりあう日』

2015年 監督:ウニー・ルコント
製作国:フランス
at ギンレイホール




養護施設で育った理学療法士のエリザ(セリーヌ・サレット)。
彼女は実の母を探していたが守秘義務の壁に阻まれて行き詰った状態だった。
そしてエリザは自ら調査すべく、息子のノエを連れて自身の出生地であるダンケルクに移り住む。
一方、息子ノエが転校した学校の給食職員であるアネット(アンヌ・ブノワ)は、背中を痛めてエリザが働く診療所にやってくる。
独り身のアネットはエリザに親近感を抱き、診療所に通うようになる。

微妙にピントを外したりするのはよくわからなかったけど、なかなか映像は落ち着いていて面白かった。
のだけど、音楽がうるさすぎる。
もうひっきりなしに音楽が入っていたんじゃないだろうか。

理学療法士って設定がよくて、パーソナルスペースなんかはるかに通り越して知らない他人の全身の肌に触れる。触れられる。
リハビリという目的のもと無心に他人にずかずか入り込んていくこの触れるっていう行為が、他人、から肉親に転換されるところなんか面白いよな。

映画『アスファルト』

2015年 監督:サミュエル・ベンシェトリ
製作国:フランス
at ギンレイホール




アスファルトっていう日本語題字のデザインを見るとくそつまらなさそうなんだけど、見るとそこそこ面白かった。
団地を舞台にした3組の男女の群像劇。

一組目
自治会の会合で新しいエレベーターの購入に唯一人、自分は金を出さん、2階だから使わんし、と拒否した男スタンコヴィッチ(ギュスタヴ・ケルヴェ)と、憂いを帯びた表情でタバコをふかすのが決まっている看護師(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)。

二組目
鍵っ子でブリーフ派の高校生(ジュール・ベンシェトリ)と、代表作『腕のない女』(82)などを持つ今は人気のなくなった女優ジャンヌ(イザベル・ユペール)。

三組目
息子が獄中でフランス語がわからないアルジェリア系移民のマダム・ハミダ(タサディット・マンディ)と、NASAの宇宙飛行士ジョン・マッケンジー(マイケル・ピット)。

男女の群像劇というとなんだか恋愛物な気がするけど、この組み合わせを見ての通りコメディ要素の強い人間ドラマになっている。
アキ・カウリスマキ風って言ったほうがわかりやすいかも。
そういうと二番煎じじゃん、と思われそうだが、、、うん、そうかも。
ほとんど固定カメラだったかな、映像は落ち着いていてなかなか見やすい。
イザベル・ユペールの相手役の高校生ジュール・ベンシェトはジャン=ルイ・トランティニャンの孫らしい。

2017年1月29日日曜日

映画『 グッバイ、サマー』

2015年 監督:ミシェル・ゴンドリー
製作国:フランス
at ギンレイホール




女の子のような容姿でクラスで馬鹿にされているダニエル(アンジュ・ダルジャン)と、転校生で機械オタクのテオ(テオフィル・バケ)が自作の車(ログハウス風)で旅に出る。

ロードムービーってだけで面白い、ことは面白かったが、それほどのめり込まなかったな。
監督はミシェル・ゴンドリー。
ああ、なんか納得。
ファンタジーなんだな。
本当は女の子なんじゃないかと思ってしまうダニエルや、廃品から車を作ってしまうテオとか、そして二人の個性的なキャラクター描写とか、なんか地に足がついていないようなふわふわ感がある。
ダニエルの思春期の悩みとかある行為の母親ばれとか、そういうリアルな小ネタもなんか逆に違和感を感じてしまう。
つまらなくはなかったけど、ファンタジーならファンタジー、違うなら違うでどっちかに振り切ってほしかったな。

韓国人か中国人経営のあのなんちゃって床屋に日本人がいたのもきっとファンタジーだからかな。

映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』

2014年 監督:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール
製作国:フランス
at ギンレイホール




貧困層が住む地域にある公立レオン・ブルム高校。
その中でも落ちこぼれクラスを担当することになった歴史教師のアンヌ・ゲゲン(アリアンヌ・アスカリッド)は「退屈な授業はしないつもり」と息巻いていたが教室は無法状態に。
で、ゲゲンは生徒達にアウシュビッツを題材に歴史コンクールへの出場を提案する。
そんなの参加するわけないじゃん。参加しても真面目に調べるわけないじゃん。っていう予想通りの展開を見せながらも生徒たちは次第にのめり込んでいく。

できすぎたお話と思いきや、マリック役としても出演するアハメッド・ドゥラメが実際に体験したお話で、ドゥラメが監督に送った一通のメールから始まって映画化されたらしい。

フランスって本当にいろんな人種がいるよね。
冒頭の宗教がらみの話はちょっと頭固すぎないかと思ったけど、美術史でムハンマドが悪魔として描かれている絵を説明しているシーンを見ると、各宗教を尊重するようなスタイルではそれこそ何も教えられなくなるっている理念からのルールなのかなと思った。

コンクールの壇上でスピーチする女生徒の格好がミニスカの白いドレスで水商売風なところが痛々しくすらあったけど、実はここに深いメッセージが込められているのではないか、と思って少し考えてみたけど何も思い浮かばなかった。

2017年1月9日月曜日

映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

2015年 監督:ジェイ・ローチ
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




子供が成長するたびに誰だよお前と思ったり、エドワード・G・ロビンソンとあとなんか資産家っぽい人が両方オールバックだったから顔は似てないけどどっちがどっちかよくわかなくなったりと 登場人物が多くて多少混乱したものの、結構楽しめた。

赤狩りのハリウッドテンの一人、脚本家ダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)のお話。

敵役(って言い方が正しいかわからないが明らかに敵役だった!)のおばちゃんが強烈だった。
元女優で現在はハリウッドのゴシップ等を扱うコラムニスト、ヘッダ・ホッパー(ヘレン・ミレン)。
彼女の極右は息子が関係しているのかもしれないが背景はよくわからない。
それにしもてゴシップを扱っているだけで嫌な感じなのに、このゴキブリを見るような排斥っぷりが本当にいやらしい。
そういう人物像にいつも派手なおしゃれ帽子をかぶらせているのは演出なのか事実なのか。
どんなに着飾ってもこの映画を見ている観客の彼女に対する印象は最悪なので痛々しさしか感じない。
演出ならおもしろいと思ったけど、ヘッダ・ホッパーの昔の写真をみると普通におしゃれな帽子かぶってんね。

あとトランボの自宅の庭で会食しているシーンで、トランボの奥さんクレオ・トランボ(ダイアン・レイン)の頭の上に子供が何か忘れたが物を乗せるのね。
で、乗せた物が不安定すぎて頭から落ちるんだけど、クレオが左手でそれを見事にキャッチする。
この何気ないシーンがいいなと思っていたけど、その後にクレオが昔かじったとかなんかでボールジャグリングを披露するのを見て、何か少しスーっと醒めてしまった。

長女役のエル・ファニング。大きくなったな。

映画『疑惑のチャンピオン』

2015年 監督:スティーヴン・フリアーズ
製作国:イギリス
at ギンレイホール




ガンから奇跡の復活を遂げたランス・アームストロング(ベン・フォスター)はツール・ド・フランスを制して英雄となる。
しかし彼には常にドーピング疑惑がつきまとっていた。

実話です。
なかなか面白かった。
僕はこの人全く知らなかったので、どんだけ活躍したのかもドーピングが最終的に明るみに出たのかどうかも知らず、それゆえにさらに楽しめた部分もあると思う。
まあ、もし明るみに出ていなかったらこんな映画作って本人怒っちゃうからわかるっちゃわかるけど。

主演はベン・フォスター。
たぶん初めて見た。
いたずら小僧のようなつぶらな瞳が、猟奇殺人犯でもやらせると怖そうと思った。

あと、フロイド役のジェシー・プレモンスって亀田兄弟のどれかかと思った。
後々怪優として活躍しそうな骨格。

2017年1月4日水曜日

映画『裸足の季節』

2015年 監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
製作国:フランス/トルコ/ドイツ
at ギンレイホール




ああ、予告編見るだけで泣きそうだ。
面白かった。
つい最近見たからかもしれないけど、美しい簡潔な表現による物語展開はビクトル・エリセに似ている。

舞台はトルコの田舎町。
親を無くした美人5姉妹は、祖母と叔父が住む家で暮らしている。
ある日男の子たちと5姉妹が海辺で制服をびしょ濡れにしながら騎馬戦などして遊んでいたところを、はしたないと思う近所の人に見咎められて以降、5姉妹は家に軟禁されるようになる。
そして上から順番に一人また一人と嫁に出されていく。

ストーリーやら演出やら少しずらしてくる部分が面白い。
祖母の描写が最初厳格なばあさんだなと思わせておいて、実は他の人に比べれば結構寛容だったり、長女ソナイは一人望んだ結婚ができていたり、やっとの思いで抜け出したのにバスが行ってしまったり、テレビを見させまいとする祖母の奮闘ぶりが急にコメディ(結構笑える)になったり、等々。
あと、意図的じゃないと思うが、次女セルマがお見合いの席でものすごいふてくされた顔していて、それが不細工だった。一応相手側からは美人な子と評価されてはいるけど。

三女エジェの話はわかりにくいけどつまりそういうことだよな。
夜の叔父の謎の行動、車の中でのエジェの謎の行動、そしてキッチンで・・・
叔父がクソすぎて、エジェが悲しすぎて、でもこの一連の流れのテンポが美しすぎる。

ラスト、一体どこに向かおうとしているのかと思ったら、冒頭のなんてことない忘れかけていた別れのシーンが突然つながって、上手いなあと思った。

5姉妹の中では主役でもある5女のラーレ(ギュネシ・シェンソイ)が一番綺麗に思った。
きりっとした眉、くっきりと輝く目元。
時折はっとするほど美しい。
13歳か・・・今後どう成長するかな。

映画『シング・ストリート 未来へのうた』

2015年 監督:ジョン・カーニー
製作国:アイルランド/イギリス/アメリカ
at ギンレイホール




1985年の大不況下のアイルランドダブリン。
逼迫した家計の事情により、私立高校から荒れた公立に転入したコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)。
自称モデルで一つ上のラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)に一目惚れしたコナーは、彼女をMVに出演させる約束を果たすためにバンドを結成しようとする。

80年代の音楽に加えて、オリジナル曲がどれもいい。
いじめられっ子気味な主人公の最初のへたくそな歌声や、拙いMV。それがいつのまにか上手くなってファッションもださかっこよくなってはっちゃけて、終いには音楽の熱量が周囲を巻き込んでいく。
不況下の時代背景の中、青春がてんこもりで、特にこの時代に青春時代を過ごした人たちにはたまらないんじゃないだろうか。

兄役のジャック・レイナーがいい表情や雰囲気をしている。
『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』の人だな。

2017年1月3日火曜日

映画『エル・スール』

1982年 監督:ヴィクトル・エリセ
製作国:スペイン/フランス
BS2 録画




冒頭、ただの黒背景だと思っていたら段々何かが浮かび上がってきて、部屋の窓から朝陽が差し込んできて明るくなっているのだと気づく。
ベッドに少女が寝ており、犬の鳴き声や女が誰かの名前を呼ぶ声等々が聞こえてくる。
なんか素晴らしい始まり方だな。
黒背景っていう思い込みが覆された多少の動揺みたいのものを引きずりながら、光はゆっくりと部屋の肌触りを浮かび上がらせていき、映像や音で物語の断片が慎ましく提示され、これから始まる物語への期待が膨らむ。

で、その物語だけど、そんなに大したお話ではないと思う。
冒頭でほぼ結末に触れているし。
ベッドに寝ていた少女エストレーリャが主人公で、15歳のエストレーリャが過去をモノローグとともに語るその過去編が大部分を占める。
過去編でのエストレーリャは8歳。
母親より父アグスティンが大好きなエストレーリャ。
父アグスティンの出身は南だが、父親と政治的に対立してからは一度も故郷に帰っていない。
内戦の敗者として投獄もされていたらしい。
そして父アグスティンにはかつて愛した女性がいた。
ただ大好きだった父親のことを何も知らないことに気づいていくエストレーリャ。
アグスティンはかつての恋人への思いを捨てきれずに苦悩し、偶然その父親の秘密を知ったエストレーリャはひっそりと胸にしまって秘密を共有する。
そしてエストレーリャは15歳に成長し。。

よくありそうなお話を、光と影と音、そして時間や空間の切り取り方でこんなに豊かに表現できるもんなんだな。

いくつか気に入ったシーンを挙げていく。

15歳から過去に飛ぶシーン。
振り子を見つめて涙を流すエストレーリャのアップショットから、ベッドに横たわるお腹の大きい母親と、そのお腹の上に振り子をかざして女の子だと当てるアグスティンのシーンに切り替わって過去になる。
エストレーリャの持つ振り子とアグスティンが持つ振り子が現在と過去でつながっているのだけど、普通の監督なら過去のアグスティンもエストレーリャと全く同じ構図のアップショットで撮って嫌味たらしく強調しそうだななんて思った。
まあそれは置いておいて、この過去に移ったときの部屋はエストレーリャがいた部屋と同じなのね。
しかもカメラ位置は冒頭の現在のシーンで何度も使われている位置と全く同じ。
一つの部屋での出来事で激しい動きがあるわけでもないのになんて濃密なんだろう。
同じカメラ位置のシーンだけでも1回目は前述の冒頭の朝陽が次第に差し込む動きがあって、2回目のシーンでは起き上がった少女が枕下の振り子を見つけて握りしめる動きのあと、さらに光が差し込んで壁紙が浮かび上がってくる。
そして3回目は時間を超えて過去のシーンになっている。
ずっと同じカメラ位置ではなくて、途中でアップショット等はさみながらであり、現在と過去のつなぎ目も同じカメラ位置でそのまま移行するほうが印象的な気もするがそこは敢えて外している。
こういうところに監督の慎ましさを感じる。というかすごい計算しているんだろうな。
この部屋から脱するのも、画面が暗くフェードアウトしきる前に汽笛が鳴って次の列車のシーンにつながるっていう流麗さ。
後、ラスト近くで過去から現在に戻るときは、過去に飛ぶ直前のシーンからの完全な続きになっていて、長く追体験してきた過去シーンが一瞬にして濃縮する。
振り子を見つめる現在のエストレーリャの時間に分断はないが、観客は過去から戻った後のエストレーリャに時間の重みを見る。
現在から始まって過去に行って現在に戻る、って映画でも漫画でもよくありそうな構成だけど、なんだろうね感動的なのは、単純にその分断点が悲しく涙が美しいシーンだからかな。

エストレーリャの初聖体拝受を祝うシーン。
ベールがかかった椅子のアップから陽気な音楽「エン・エル・ムント」とともにカメラが引いていくと長机の両側に座る人がこちらを楽しそうに見ている姿が次々に現れる。
扇子で仰いでいたりタバコの煙をくゆらせたり。
引くカメラが机が端を捉えるとダンスを踊るエストレーリャとアグスティンが優しくフレームインしてくる。
長机の人たちは二人のダンスを見ていたのね。
ひとしきり二人を映し終えるとカメラはベールがかかった椅子へと再び戻っていく。
これがワンカット。
言葉で説明してもつまらないな。
この初聖体拝受の日は父親大好きエストレーリャが幸せのピークだった日。
教会でアグスティンが暗闇から悪魔のようにヌッと現れる不気味さも意に介さずに父親が来てくれた喜びに溢れるエストレーリャの笑顔が泣きそうなくらいまぶしい。
そこからこの幸せなダンスシーンにつながる。
そしてこのシーンはラストにもつながるのね。

カフェでアグスティンが手紙を書くシーン。
店の中と外、窓ガラスを隔てたエストレーリャとアグスティン。
二人の表情はもとより、中と外の切り替わりと視線の交錯のリズムみたいなものが心地よくて物悲しい。

家出(?)したアグスティン。
ステーションホテルの一室で夜から朝、そして汽車が発車するまでの時間の流れがいい。
汽車は映さず音と窓辺の光だけで表現されている。
ヴィクトル・エリセのインタビューによると、あのホテルはセットじゃなくて監督が撮影時に実際に泊まっていた部屋らしい。

夜に庭のブランコにのるエストレーリャと、屋根裏の窓から庭をのぞくアグスティン。
じっと見つめ合ったあとに窓からそっと離れるアグスティン。
あんなに大好きだったアグスティンとのこの微妙な距離感に息が詰まる。

エストレーリャのいたずらめいた家族への抗議に対して、沈黙で答えるアグスティン。
杖の音が継続的に優しく、そしていらだたしく響き渡る。
それにしても父の沈黙から私より悩みの深いことを知らせているのだと悟るエストレーリャって相当賢いよね。8歳でしょ。
もう泣かないで、って思う。

冬の真っ直ぐな並木道を白い自転車に乗って走っていくエストレーリャ。
赤い自転車で戻ってきたときは15歳に。
子犬も大きくなり。
15歳のシーンでは道に落ち葉が敷き詰められているし、実際の撮影時期も1年位経過しているのかな。
意図的にやっているのかもしれないが。
このシーンもそうだけど、全般的に映画の中で流れる時間の感覚がすごくいいんだよな。

珍しくエストレーリャを誘ってグランドホテルのレストランでランチを取るアグスティン。
ここの二人の会話は今までの集大成になっていて目が離せない。
父親は大好きだけど子供の頃のように無邪気に表現はしないエストレーリャとアグスティンの間にあるもやもやした距離。
イレーネ・リオスという名前に心中で激しく動揺するアグスティン。
空間的には入り口入って左側はすぐカーテンの引かれた敷居戸があって、その向こう側の広間では結婚式のパーティが行われている。
入り口入って右側がレストランで、テーブルがいくつか配置されていて、アグスティン達は一番奥の端のテーブル席に付いている。
入り口付近には初老のボーイが待機している。
二人のバストショットで会話をしながらも時折やってくるボーイの靴音が空間の広がりを伝えてくる。
で、このボーイさん、出入りする人物を出迎えたり呼ばれたりする以外は基本椅子に座っている模様。
しかもタバコまでくゆらせて足まで組んでいる。
スペインだからか時代だからか。
会話中にパーティ会場から聞こえてくる「エン・エル・ムント」。
幸せのピークだった初聖体拝受の時に二人で踊った曲。
過去を懐かしむアグスティンを恐れるように「行くわ」と席を立つエストレーリャ。
レストランの空間を歩いて敷居戸に近づき、カーテンの端をめくって広間を覗く、と同時にカメラが上に上がって上部のガラス窓から俯瞰でパーティ会場を映し出す。
上からかよ、って思ったのもつかの間、次のカットでは覗き込むエストレーリャの表情をパーティ会場側から映し出す。
この表情が過去と現在に複雑に思いを秘めているようで泣ける。
あまり分析はしたくないけど、エストレーリャは覗いているしカメラも伸び上がるように上から覗いているのでパーティ会場側には入れないように思わせながらも次のカットではカメラはあっさりパーティ会場側に回り込んでいて、覗き込むエストレーリャのあの表情を正面から映し出すもんだからものすごく劇的なんだよな。
(これ書くために何度か見直していたらなんか初見の印象と違って何も感じなくなってきた。同じシーンを巻き戻して何度も見るってやっちゃいけない行為なんだな。。)

長くなりそうだからいくつかのシーンを省いて書いたけどそれでも長くなっちゃった。
なんか本当は当初この後さらに90分の後半部分を撮る予定だったらしい。
後半はエストレリャの南での旅で、父の過去を追い、自己のアイデンティティを確立する旅。
ロードムービー風であれば見てみたかったなぁ。