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2025年7月19日土曜日

映画『誰も知らない』

2004年 監督:是枝裕和
製作国:日本
Amazonプライム




一番いいところで気の抜けた歌がインサートされて白けたこと以外は終始のめり込んで観た。
面白かった。
映像がざらついているのは、モチーフになった巣鴨子供置き去り事件が1988年らしいのでその年代の映画風にしているのかなぁ。

是枝監督ののんびり会話劇はたまにうさん臭く感じるときもあったのだが、子供たちが中心だからかそもそもそんなに会話が無いからか、自然な感じがした。
子役なんか普通違和感の塊なんだけど。
たまに子役にあまり演技させずに自然に遊ばせるみたいな演出の映画があって、そういう場合の子役は好き。
とはいえカメラや大勢のスタッフの前で普通に遊ぶっていうのも子役の才能が必要そう。
鈴木福に似ている茂役の子、木村飛影なんかあの明るさは天性の才能だよな。
身なりが汚くなって髪もぼさぼさになっても何も変わらないのが切なくもあり神々しくもある。
ゆきちゃん(清水萌々子)もかわいい。(アポロはさくまのドロップ扱いなのか)

映像の安定感が異常に高くて、「ほら、美しいショットでしょ、どや?」って感じではなくてどちらかといえば地味なんだけど、どの場面も凄く引き込まれるという。

深夜の道路のど真ん中をきゅるきゅる靴音鳴らしながら歩いているシーンが一番好きだな。深夜の静けさに響き渡る少し間抜けで可愛らしい靴音。

劇中何度も現れる石段も印象的。

あと、兄妹4人で初めて外に出かけた時の公園で、ゆきちゃんが乗った豚の背中に残った土を京子がさっと手で払う短いシーンに何か感動した。
基本的に皆いい子達なのね。
明なんか本来生きるためには何でも許される状況なのに、常に清廉潔白。(最後ゆきちゃんのために禁を犯すのが切ない)
この潔白さに対して何不自由ない友達の愚鈍さが際立つ。そんなんでも初めての友達に焦がれる明。

最後の方の展開は結構異常だよな。
一体何のつながりがあるのか不明だった紗希(韓英恵)が後半絡んでくるんだけど、比較的まともそうな(?)紗希がいてこれだから異常。
異常なんだけど陽光の元歩く4人の後ろ姿の美しさもまた異常。

巣鴨子供置き去り事件を調べると実際はもっとひどい事件だったみたいね。

2022年11月12日土曜日

映画『ベイビー・ブローカー』

2022年 監督:是枝裕和
製作国:韓国
at ギンレイホール




クリーニング店を営み借金まみれのサンヒョン(ソン・ガンホ)は、赤ちゃんポストがある施設で働くドンス(カン・ドンウォン)と共謀して預けられた赤ん坊をこっそり転売していた。
そんな二人はすでに警察に目をつけられていて、アン・スジン(ペ・ドゥナ)とイ刑事(イ・ジュヨン)はサンヒョン達を転売の現行犯で逮捕するべくマークしている。
いつものように赤ん坊を連れ出したサンヒョン達だけど、今回はいつもと異なり母親ソヨン(イ・ジウン)が思い直して赤ん坊を連れ戻しに戻ってくるというハプニングがある。
で、なんだかんだでロードムービーの始まり。

旅の過程で、違法なことをしているサンヒョンとドンスの人柄や過去、赤ん坊に見向きもしないソヨン、刑事のスジンの事情等々が次第に明らかになりつつ、旅先で出会う施設で売れ残った少年、赤ん坊を求める客、等々、ザ・ロードムービー。
ロードムービー大好き。
キャストだけでなくスタッフも韓国の1流どころが集まっているらしい。
撮影も韓国の人だけど青みがかったくっきりした映像は是枝監督って感じで落ち着く。
ストーリーはかなり凝っているが少し詰め込みすぎかな。って思うところがあっても映像見ているだけで十二分に満足な映画。

ペ・ドゥナは『空気人形』の人か。

2020年3月21日土曜日

映画『真実 特別編集版』

2019年 監督:是枝裕和
製作国:日本 / フランス
at ギンレイホール




木々が風にそよぐ冒頭のシーンから是枝監督って感じで安心する。
日仏合作で舞台はフランス。
主演はカトリーヌ・ドヌーヴ。
共演でジュリエット・ビノシュとイーサン・ホークが夫婦役!
あとリュディヴィーヌ・サニエも出ているたようで、必死に思いだしたら撮影シーンにいた中堅女優だな。老けた。

で、面白かったかというと少し微妙で結構うとうとしてしまった。
あるあるみたいな会話劇も字幕を目で追っているせいかあまり乗れず。
というか結構な映画知識が要求されていて知っていないと楽しめない部分も多々あるように感じる。
カトリーヌ・ドヌーヴが演じるファビエンヌが、実力のある女優は皆イニシャルの姓名が同じなのよ、ってことでグレタ・ガルボ、シモーヌ・シニョレとかあとアヌーク・エーメもそうねとか話しているときに誰かがブリジット・バルドーって言うとファビエンヌが鼻で笑う。
ブリジット・バルドーの演技的評価が一般的にどうなっているのか知らないしそれほど作品も見ていないから分からないが、なんとなくそのグラマラスな容姿だけで人気があったって位置づけなのかな、って想像する。
本当はよく分かっていないのにこの想像で知ったふうにして笑うという気持ち悪さ。
他にも気づかないだけで実はいろんな要素が散りばめられているのかもしれない。
サラに相当するような存在がカトリーヌ・ドヌーヴに実際にいたのかなぁとか。

2019年4月28日日曜日

映画『万引き家族』

2018年 監督:是枝裕和
製作国:日本
at ギンレイホール




父:治(リリー・フランキー)
母:信代(安藤サクラ)
祖母:初枝(樹木希林)
息子:祥太(城桧吏)
母の妹:亜紀(松岡茉優)
拾ってきた子:ゆり(佐々木みゆ)

「次々と明かされていく、家族の秘密」って宣伝的には謳い文句にしたいんだろうけど、是枝作品なのでそういう驚き的なものにドラマチックな展開を付与して明かすような脚本じゃない。
家族の関係は何気ない一言やシーンでしれっと判明する。
ドラマは主幹である家族の関係性にこそあればよく、秘密はこの関係性の間に揺らいでいる一要素でしかないから。
寄り添い生きる家族の、思いやりや利己性、信頼と不信、強いのかもろいのか分からない絆、そういう繊細な関係性が静かに熱い物語。
映像はしっとりして名シーンが多く、細野晴臣の音楽も主張しすぎずいい感じだし、役者達の抑制された自然な演技はぐっとくるしで、すべてが高水準で面白かった。

特に安藤サクラはすごいな。
朝ドラで「萬平さ~ん」とかいってニコニコしている安藤サクラに「これじゃない感」のフラストレーションが溜まっていたけど、一気に解消したわ。

2016年12月4日日曜日

映画『海よりもまだ深く』

2016年 監督:是枝裕和
製作国:日本
at ギンレイホール




15年前に新人賞をとったものの、鳴かず飛ばずで今は取材と称して探偵業をやっている主人公篠田良多(阿部寛)。
ギャンブル好きで妻にも愛想をつかされ逃げられるという典型的なダメ人間。
そのダメ人間にほどよい距離感で接する母親(樹木希林)。
母は夫を亡くして一人で団地住まい。
良多と母親を中心に物語は進んでいく。
といってもストーリー上の大きな展開は無いんだけどさ。

ちょっと設定の違う『歩いても 歩いても』という感じ。
配役の阿部寛と樹木希林は同じだし、阿部寛の役名も今見てみたら同じ良太だな。
なんかもう良太シリーズみたいにして設定変えながらあと10本くらいは良質なホームドラマを量産できそうだな。
会話劇の妙はいうに及ばず、へそくり隠しとか宝くじとか、あとあと効いてくる小道具もうまいしずっと見ていられる。

個人的には実家が団地なので余計に面白かったな。
帰ろうと思えばいつでも帰れる距離にあるところとか、母親がベランダで観葉植物育てていたりとか、「泊まっていきなさいよ」と言うところとかさ。

最後の方でラジオから流れるテレサテンの『別れの予感』、そこでやっとこの映画のタイトルってそこからか!と気づいてなんか意味もなく感動してしまった。

真木よう子は綺麗だな。
怒ったリリー・フランキーはめっちゃ怖かった。

2015年12月30日水曜日

映画『海街diary』

2015年 監督:是枝裕和
製作国:日本
at ギンレイホール




予告編見て泣きそうになった映画は大抵本編見ても泣かない、というmy法則が再び実証されたものの、映画自体はかなり面白かった。
綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという似ても似つかない美人4姉妹。
いや、映画見て姉妹兄弟親子、全然似てないじゃん、というのも野暮だけど、これだけ存在感のある4姉妹だと気になってしまう。全然似てないから!
っていうのも最初だけで、引き込まれていくと本当の姉妹のように見えるから不思議だ。
すずの寝顔を見て耳がだれそれに似ているとか、そりゃぁ耳くらいなら他人でも似ていたりするよなと思いつつも。

吉田秋生の原作を見ていないのだが、どこまで忠実に再現しているんだろう。
日常会話の妙はいつもより少なめな気がした。
(そういえば何年か前にやっていた「ゴーイング マイ ホーム」っていうドラマは是枝色満開だったな。日常会話だけでほとんど話しが進まない回があったりして)
カマドウマのシーンとか面白かったけど原作にもあるのかな。

全体的な印象としては、これはどちらかというと広瀬すずを愛でる映画なのではないかと思った。
それくらい広瀬すずの美少女っぷりがすさまじい。
役柄もあまりにもいい子すぎて何か裏が絶対あるんじゃないかと勘ぐってしまった。(結局とんでもなくいい子)
彼氏になりそうな男の子もイケメンじゃないし。
もう何年かしたら顔のつくりも変わってきそうだから、本当にいい時期に素晴らしい映画に出演してくれてありがたいことだ。

そういえば大竹しのぶが玄関に現れた瞬間に館内に少し失笑が起きたのだが、なんだったんだろう。
いや、なんとなくは分かる。
散々な言われようの母親が現れた、と思ったら大竹しのぶだった!
適任というか大竹しのぶならこの母親を十二分に表現してくれそうな期待感で俺も思わずにやっとしてしまったし。

綾瀬はるかは普段のぼーっとした感じから想像もつかないしっかり者の長女を演じていながら何の違和感もないという素晴らしさ。
長澤まさみは『ロボコン』を頂点として以降はぱっとしない感じがしていたけど、暫く見ないうちに演技の幅が広がっていた。
夏帆はよく知らないが昔の美少女風の顔立ちより今のほうが愛嬌がある気がする。

2014年6月29日日曜日

映画『そして父になる』

2013年 監督:是枝裕和
製作国:日本
at ギンレイホール




以前ネットで『もうひとりの息子』の感想を見ていたとき、この『そして父になる』がよく関連して名前が挙がっていた。
両方見た今、なるほど、気持ちは分かる。
子供の取り違えという共通の題材に対してどちらも見ごたえがあって面白いのだけど、こうもテイストが違くなるものか。

というか是枝監督が独特なのか。
展開が速いのか遅いのかわからない独特のリズム。
一見だらだらしているような日常会話の妙がどんな題材にもしっくりくる。

『もうひとりの息子』では国で分断されていたが、この映画では経済格差で分断されている。
こうも対照的によくできた設定だという意味で笑っちゃうくらいに家庭環境の異なる二組の家族だけど、どちらも日本の一般的な家庭。
似たような家庭で育っているならまだしも、こうも異なっていると簡単には元に戻せない。

リリー・フランキーと真木よう子の組み合わせが意外としっくりきていて驚いた。
真木よう子はエロい肝っ玉かあさんという感じで。
福山雅治と尾野真千子もしっくりきているけど、この4人の仲ではフクヤマが少し浮いている感じがする。
フクヤマが出ているドラマも映画も何も見たことが無いから違和感があるのかと思ったけど、役柄自体少し浮いていて、最後まで見るとその理由が分かる。
そして父になる、だからなぁ。

2011年8月15日月曜日

映画『ワンダフルライフ』

1999年 監督:是枝裕和
BSプレミアム 録画


ワンダフルライフ [DVD]

中国の公民館みたいな場所にぞろぞろと爺さん婆さん達がやってくる。
すると、なにやら個人面接が始まり、職員が言うには、「もう状況はお分かりになっていると思いますが、あなたはもうお亡くなりになりました。」
一週間だけ滞在するこの三途の川の一歩手前のような世界で、死者達は自分の人生の中で一番印象に残っている大切な思い出を一つ選び、それを職員達が可能な限り再現する。
死者達はその再現された思い出一つを胸に抱えて、あの世へと旅立つのだという。

観たいなと思いつつ先延ばしにしている内、いつのまにか12年前の映画になってしまったのか。
ストーリーもよく知らないまま見始めたので、このファンタジーな設定は少し衝撃だったけど、設定よりも驚くのは、ドキュメンタリー手法と物静かな展開のおかげで、本当にドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥ること。
脚本上どこまでセリフが用意されているのかは知らないが、結構役者自身の本当の思い出が語られているんじゃないかと思える。
人物達のリアルさに対して、彼らがいる世界はありえない非現実的な世界なのだから、作品全体として対極のものが同居している不思議な世界だ。
舞台となる面接会場も、大正時代の建物、または日本じゃなくてアジアのどこかの建物、というような国籍も時代も不明なものになっている。
明らかに不思議な建物、不思議な世界というわけではなくて、やはりどこかにある(あった)だろう現実的な建物なので、その微妙に曖昧な建物がさらに現実非現実の境目の緩さを重層的なものにする。

基本的に自然光だけで撮っているのかな。
喋っている途中で太陽が雲から現れて光源が強くなって顔がくっきり映ったかと思えば、また雲に隠れて部屋全体が薄暗くなったり。
こういうありのままの変化が非常にいい。しかも死後の世界で。

さて、小田エリカです。
なんということでしょう。小田エリカ。
なんで知らなかったんだろう。小田エリカ。
凄くいい雰囲気を持った女優さんじゃないですか。小田エリカ。
どんなに有名な活躍をしているのかと思って調べてみたら、どうもパッとしていないらしい。
でも青山真治の映画にも出ているな。
そこそこ活躍しているのか。
滅茶苦茶美人というわけじゃないけど、きりっとした眉が涼やか。
香川京子さんの若い頃に比べると小田エリカを選ぶでしょう。
香川京子さんの若い頃を演じた石堂夏央となら迷うけど。

ラストシーンは泣ける。
泣く理由が自分でもよく分からないのだが、とにかくラストシーンからエンドロールに移るときにこみ上げてきて泣いてしまったのだからしょうがない。
毎週何人もの人達の人生を垣間見て、送り出していく。(なんて濃い職業だろう)
そして一人一人の人生の重みが通り抜けていくのと同時に、何も変わらないはずだった職員の中でも出会いと別れが訪れる。
不思議な世界で起こる出来事は現実世界と何も変わらない。
別れの辛さが前向きな歩みの意思へと変化するのが自然に美しいと思える。
壮大な時の流れの中、数多の人の人生が過ぎっていく世界で、この単純ともいえる変化に全てが凝縮されているようで感動したのかもしれない。
いや、今見返してみると単にエンドロールへ行く切り方が絶妙だったからっていうだけかもしれない。

死者の中でも、セスナでの飛行を想い出に選んだ男がなんか強烈だった。
自分の知識を楯に暗に相手の無知を非難する言動がリアルすぎる。
そしてちょっと表情に狂気があって怖い。

作品上どうでもいいことだけど、以下疑問点をいくつか。
・この世界で死んだらどうなる?
・この世界は太陽も月もあり、季節も存在しているようだが、地球上のどこかにあるのか?生者には見えない?
・飯は?
・職員は現実世界との行き来ができるようだが、家族とはお盆しか会っちゃいけないルールがある?偶然会ったら?
・死んでこの世界に来て、一週間でまた死ぬって何で皆普通に受け入れられるのか?この世界で生きていくことを選べるならそうしたいじゃん。ただ、終わることの無い無間地獄が続くだけとも言えるが。
・この世界には一体何人の人が住んでいるのか?職員以外にも撮影スタッフや役者っぽい人達までいるし。
・年を取らない世界で子供は生まれるのか?

たった12年の間に由利徹、原ひさ子、谷啓と逝去し、昔見たドラマで主演の深田恭子よりも断然可愛いと思っていた吉野紗香はなんか変なことになり、小田エリカはテレビドラマなんかですっぽんぽんになり、さらに小田エリカはエリカと改名してアジャ・コングとかぶる、という時の流れをひしひしと実感する。

ちょい役で木村多江や篠崎誠が出ているらしい。
木村多江は楽団の練習で一瞬映るのを見つけたけど、篠崎誠はどこに出ていたんだろう。あまり顔を知らないけどさ。

「自分の人生の中で一番印象に残っている大切な思い出」か。
うーん。ぱっと思い浮かばない。

2010年2月27日土曜日

映画『空気人形』

2008年 監督:是枝裕和
at ギンレイホール


空気人形 豪華版 [DVD]

夜のレインボーブリッジの永遠に続くカーブからゆりかもめの車内の板尾創路へ。
冒頭からいろんな意味で驚きに満ちた静謐な映像にテンションがあがる。

空気人形、つまりラブドール、ダッチワイフ。
空気人形が心を持ちました。
そしてレンタルビデオ屋の店員の男に恋しました。

主演のペ・ドゥナが惜しげもなく裸体を披露する。
ちょっとおしりがでかい気もするがなんと美しい裸体だろう。
性の対象というより美術品のような感じ。
ダッチワイフなんだけど。
これで30歳だから凄い。

ストーリーの方は当然のごとく寓話なんだけど、登場人物が皆現代人のストレスを抱えて病んでいるところがあまりに類型的すぎる気もする。
寓話だからいいのか。
いい人そうな店長の行為にはちょっとびっくりした。
現代人の闇が純粋な心と体を持ったダッチワイフによって浄化、されることなんかこれっぽっちもなく、付かず離れず彼女の笑顔の周辺をただ通り過ぎていく。

空気が抜けたときの「見ないで」という恥じらいから、好きな男に息を吹き込まれたときの満たされた官能とか、ただこれを描きたいがためにダッチワイフに心を持たせたのじゃないかと思うくらいエロティック。

エンドロールで原作が業田良家だと知る。
『ゴーダ哲学堂 空気人形』
って出て、「哲学」という文字を見た途端何か全てがチープで胡散臭く思えてきてしまった。
一つ一つの話がそれぞれ2,30行の文章で誰でもいろんな解釈で簡単に評論できそうなところなど。

ストーリーはまあいいとして、映像がとにかくいい。CGを除き。
撮影:リー・ピンビン
ホウ・シャオシェンの作品の撮影をよくやっている人らしい。
おお、『恋恋風塵(れんれんふうじん)』もこの人だったんだ。

そういえば足をぱたぱたさせて空に浮かぶシーンは予告編で見たときは泣きそうになったのだけど、本編では特になんでもなかったな。

2008年11月7日金曜日

映画『歩いても 歩いても』

2007年 監督:是枝裕和
at ギンレイホール


歩いても 歩いても

もう邦画で良質のホームドラマは見れないもんだと思っていたけど是枝さんが作っていた。
これは面白いね。

三浦海岸の高台に住む母(樹木希林)と父(原田芳雄)。
そこに娘ちなみ(YOU)と信夫(高橋和也)夫婦が子供二人を連れて日帰りでやってきている。
さらには次男良多(阿部寛)とゆかり(夏川結衣)夫婦もやってくる。
二人暮しの静かな生活が一気ににぎやかになる夏のひと時。

アドリブが入っていたりするのかな。全部脚本どおりだとそれはそれで凄い。
たった一日の、しかも8割方家の中での出来事なのに、人物の現在過去未来全ての要素がセリフやシーンの一つ一つに凝縮されて、心が浮かび上がってくる。

おばあちゃんの家で初めて会う従兄弟と夏の日差しに照らされながら駆け回るきらきらした時間。

子供付きで再婚したゆかりの、義理の両親に認めてもらいたいと思う意気込み。
よく喋る義理の母や気さくな義姉によって自然に溶け込めるのだが、笑顔がぎこちない。
心労は休憩時にどっと噴出す。大変だなぁ。

一方ちなみの夫信夫は子供みたいに無邪気で、義理の両親の家でもおかまいなくくつろぎ、子供二人とはしゃいでいる。
とはいえ、「あんなくだらない奴」という言葉に自分に向けられた言葉かと思ってどきどきしたり。

次男良多は家父長制の名残を色濃く留める元医者の父と折り合いが悪い。
自分の跡をついで医者になることを強要されて反対して美術品の修復師となったが、今は失業中。
失業していることなど絶対この父にだけは知られたくない。
診療所も閉じたのに「先生様」の威厳を保つことに執心しているような父を嫌っていた良多だが、無力さをさらけ出しても元患者の命を心配する父の姿は良多の心に深く焼きつく。

子供達が帰った後、年老いた二人がえっこら階段を上りながら、次は正月だな、と寂しさと期待を込めて言う。
場面は変わって良多が今回これだけいたんだから正月はいいだろうと言う。

等々、何気なく切り取られる誰の記憶にもあるような日常的なセリフやワンシーンが思いのほかぐっとくる。
ホームドラマだねぇ。

この家族が普通と少し違うところといえば、長男が15年前に亡くなっているということ。
長男は海で子供を助けて自分は溺れて死んでしまったのだ。
この時助けられた子供は大学を卒業して就職(バイトだけど)している。
毎年命日にこの家に挨拶にやってくる。
この辺から家族の心情がストレートに吐露されるようになってくる。
特に樹木希林のセリフは愛情と残酷さが複雑に交じり合って、暗めの照明とあいまって緊迫の瞬間を作り出している。
迷い込んだ黄色い蝶のシーンなんか変わらぬ息子への愛情と痴呆症になったのではないかという不安感がごっちゃになって思わず息を詰める。

「この家は俺が働いて建てたんだ」とか「とうもろこしの話は、あれ、俺だから」とか、あれ、と思いつつ触れられないから通り過ごしたシーンが後になってから説明されたりして時間差で繋いでいくのも程よい刺激になりつつ。
腕によりをかけて振舞われる料理とか剥げ落ちてそのままになっている風呂場のタイルとか手すりとかありふれた日常会話とか生活臭とか家族の雰囲気とか、年齢を重ねれば重ねるほど楽しめるのだろうな。