2015年12月13日日曜日

映画『サイの季節』

2012年 監督:バフマン・ゴバディ
製作国:イラク/トルコ
at ギンレイホール




世界中が注目しているバフマン・ゴバディ監督です。
亡命中のためトルコで撮影。

クルド系イラン人の詩人サデッグ・キャマンガールの実体験に基づく映画らしい。
詩人のサヘル(カネル・シンドルク)は美しい妻ミナ(モニカ・ベルッチ)と幸せに暮らしていたが、イラン革命により政治犯として収容されてしまう。
政治犯でもなんでもなかったのだが、ミナに思いを寄せる運転手のアクバル(イルマズ・アルドアン)が裏で糸を引いていたのだった。
世間では死んだことになっていたサヘル(ベヘルーズ・ヴォスギー)は30年後に出所し、妻を探し出す。

いやぁ面白かった。
もともとあった映像へのこだわりが、この作品で惜しげもなく開放されている。
映像美とかいっちゃうと胡散臭くなっちゃうし、実際映像美という感じではない。
あのコントラストの強い暗めの映像(銀残しかな)に突飛過ぎない幻想映像がしれっと紛れ込んで、地に足がついているのに混沌とした映像世界が出来上がっている。
幻想世界は詩人が主人公だからということだろうが、詩の世界の単なる映像化でもないし心地いいファンタジー映像でもなく、もっとこの映画のストーリーや雰囲気に則してこちらをえぐってくるような攻撃的な使われ方をしている。
『ペルシャ猫を誰も知らない』では音楽で畳み掛けてきたけど、今回は映像で圧倒してくる。
バフマン・ゴバディはまだ3作しか見ていないけど、なんか見るたびに雰囲気が異なるよな。監督名知らないで見てバフマン・ゴバディと当てる自信が全く起きない。

映画『雪の轍』

2014年 監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
製作国:トルコ/フランス/ドイツ
at ギンレイホール




上映時間120分を超えたらそれだけで悪だと思う。
196分。
120分を少し超えるどこの話じゃない。
パルム・ドールとったかなんか知らないが今回はパスしようかと思ったけど、併映がバフマン・ゴバディなんだよなぁということでとりあえず見ることにする。
・・・まあ、意外と面白かった。

舞台はトルコのカッパドキア。
元舞台役者のアイドゥン(ハルク・ビルギナー)は親の遺産を引き継いでホテルの経営等をしている資産家。
地元紙にコラムを書く執筆業もやったりしてインテリ、ぶっている。
若い妻は慈善活動に勤しんでいる。
アイドゥンの妹は離婚してアイドゥンのいる実家のホテルに居候している。
この三者の確執、とアイドゥンが家を貸している家族とのいざこざが絡んで196分。

カッパドキアの奇妙な風景の中繰り広げられる物語は、うんざりするくらい面倒な普遍的な人間関係の物語だった。
基本会話劇。
風景と物語のギャップがすさまじい。

阿呆そうな妻が慈善事業の仲間を家に呼んだときのアイドゥンに対するいらつく言動やら、家賃を滞納する家族とか、最初アイドゥンだけがまともだと思っていたけど、アイドゥンはアイドゥンで大概嫌味な男だったりする。
別に殺人事件が起きるとかそんなんじゃないけど、会話劇の節々に人間の嫌な部分とかプライドとか悲しい部分が吹きだまっていて、面倒くせえなぁと思いつつも会話のやりとりでゆっくりと顕になる登場人物達の心情に引き込まれていく。

2015年11月29日日曜日

映画『サンドラの週末』

2014年 監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ
製作国:ベルギー/フランス/イタリア
at ギンレイホール




工場労働者のサンドラ(マリオン・コティヤール)は夫と共働きで二人の子供を育てている。
サンドラはうつ病で休職中だったが、完治したので復帰しようとした矢先、会社から解雇されてしまう。
サンドラを解雇しないと社員にボーナスが支給できないという。
解雇を撤回するには次の月曜の社員による投票で同僚16人のうち過半数がボーナスをあきらめサンドラの復職に投票する必要がある。
今解雇されてしまうと生活が成り立たなくなってしまうサンドラは週末に同僚一人一人を訪ねて説得を試みる。

いきなり解雇通知するのもひどいが、解雇かボーナスを諦めるか社員に選ばせるのもひどい。
解雇されたくないからボーナスを諦めてくれ、って同僚とどこまで親密なのか知らないが、親密の度合いに関係なくきつい説得だよね。
ましてやうつ病の病み上がりの人にやらせることじゃない。
実際サンドラは何度も心が折れかけている。
それでも夫の支えや、中にはうれしいことを言ってくれる同僚もいたりして、なんとか進んでいく。
何度も足を滑らせながら渡っていく危うい綱渡りを見ているようだ。

一人一人の説得がそれぞれワンカットになっているみたいで、かつドキュメンタリー風の映像が生々しい緊張感を湛えている。
結構好きだと思ったらこの監督さん『息子のまなざし』とか『少年と自転車』の人だな。覚えておこう。

映画『パレードへようこそ』

2014年 監督:マシュー・ウォーチャス
製作国:イギリス
at ギンレイホール




1984年サッチャー政権下で発表された20箇所の炭鉱閉鎖。
抗議のストライキは4ヶ月目に入ろうとしていた。
ロンドンの同性愛者仲間達は自分たちと同じように政府に弾圧されている炭鉱夫達を支援しようと“LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)”を立ち上げる。
まだ同性愛者に厳しい時代、集められた基金を全国炭坑労働組合に送ろうとするが何度電話してもやんわり逃げられてしまう。
ならば直接炭鉱に電話しよう、とウェールズの炭坑町に電話したところあっさり受け入れられて、そこから町の人々との交流が始まる。

実話がもとになっているらしい。
厳しさ辛さを乗り越えるバイタリティにあふれた人たちってすごいよね。
おばちゃん嫌いの僕でもこの映画のおばちゃんパワーにはほっこりしてしまう。
検索してみるとなかなか評価が高い模様。
まあ普通に面白かった。

2015年11月15日日曜日

映画『セッション』

2014年 監督:デイミアン・チャゼル
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




予告編見て思い出した。
「ラスト9分19秒 映画史が塗り替えられる」
って、ああ、またラストでしょうもないどんでん返しがあるようなインパクトのみの映画かぁ、みたいに思っていたんだった。
本編見ているときは予告編のことなんてすっかり覚えていなくて、で、問題のラスト。
いや、絶対ただでは済まないでしょう、っていう強烈な不安から来る緊張感で心臓ばくばくしながら突入したラスト9分19秒、映画史がどうこうはよく知らないが、一言で言うならとにかく圧巻だった。
とかいうチープな言葉しか出てこないけど、筆舌を尽くせばネタばれになるからさぁ。。
最近エンドロールが流れるころには見た映画を忘れているくらいのドライさだったけど、久しぶりに余韻がしばらく消えないくらい興奮した。
しかし見事だわ。ドラマ的にも演出的にも恐ろしく感動的に昇華されたラスト。ラストのワンカットが静かな余韻を残す名作ならいっぱいあるけど、こんなに長い時間かけて暴力的に飲み込んでくるラストは初めてだ。

ストーリーの概要はまあ予告編のとおり。
名門音楽大学の中にあってさらに最高峰にあるテレンス・フレッチャー教授(J・K・シモンズ)のバンドに加入することが叶ったドラマーのアンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)。
揚々と参加した練習では鬼のしごきが待っていた。
予告編にまんまあるけど、椅子は飛ぶ、ひっぱたかれる、罵詈雑言を浴びせられる。
ニーマンと雑談を交わして得たニーマンが父子家庭だという情報も駆使して父親の悪口まで言う。
アニメおたくなら「俺のことはなんと言ってもかまわない。だけど親父の悪口は許さん!」とよくあるセリフを吐いて怒り出しそうなところ。
トロンボーンパートのしごきなんか凄かった。
音程がずれている奴がいるといって一人の気弱そうな青年に思いっきり顔を近づけて大声で罵詈雑言を浴びせかける。
音程がずれていることを分かっていたのか?分からないのか?分からないなら問題外だ!出て行け、みたいな。
その後のオチがまじかよってくらいひどい。

厳しくすることに美学を持っている人ってたまにいるよね。
大体が切れやすくて情緒不安定なだけなんだけど、自分が悪者になることで相手が伸びればそれでいい、みたいな後付け論理で正当化する人。
フレッチャー教授もどちらかというとその部類。
ラストの方ではせこい小物臭まで漂わせ始める。
でもそこまで落としておいてからのあれ、だからこそのラストだよな。
ちなみに俺はほめられて伸びるタイプ。

映画『君が生きた証』

2014年 監督:ウィリアム・H・メイシー
製作国:アメリカ
at ギンレイホール




息子をなくしてエリートサラリーマンの道を捨ててほぼ浮浪者のようなヨット暮らしを続けるサム(ビリー・クラダップ)。
息子に関わるものは一つも見たくなかったが、息子が残した歌に惹かれ始める。
で、自分で歌いだす。
そしたら若者がむらがってくる。

ウィリアム・H・メイシーの初監督作。
音楽ものって大体うるさく感じることが多いけど、いい声、いい演奏でなかなか聞きごたえがある。
ビリー・クラダップとアントン・イェルチンが吹き替えなしで演奏しているらしい。
バーに出演する脇役の人たちも個性的でいったいどこから見つけてきたのだろう。

音楽ものって書いたけど、結構重めの人間ドラマでもある。
このドラマの中で「音楽」は重要な位置を占めていて、かつ音楽での感情表現が肝なシーンもちらほらある。
特にラストはいいよねぇ。

2015年11月1日日曜日

映画『イマジン』

2010年 監督:アンジェイ・ヤキモフスキ
製作国:ポーランド/ポルトガル/フランス/イギリス
at ギンレイホール




リスボンの視覚障害者のための診療所にやってきた盲目のイアン(エドワード・ホッグ)。
彼は反響定位という方法で杖なしで外を歩くことができる。
イアンはこの反響定位を教えるインストラクターだった。
10代の子供たちに指導するイアン。
そしてイアンの隣に部屋に住む引きこもりがちな女性エヴァ(アレクサンドラ・マリア・ララ)は、イアンの授業とイアンに次第に惹かれ始めていく。

自然光で撮っているらしい。
舞台はポルトガルだが、映像の雰囲気はイラン映画や中央アジア系の映画に似ている。
盲目かつエコーロケーションなので、音に非常に敏感になる。
自然光のざらざらした質感の映像と、心地よい音、盲目のそこはかとなく漂う不安感、そしてそれらを妨げない多くを語らないストーリー。
大好きだわ。かなり面白かった。
面白かったんだけど、ただ、同じ題材をイランの監督が撮ったらもっと面白かったんじゃないかと考えてしまった。
もっとシンプルに、もっとざらついて、もっと詩的になりそうで。
そういえばモフセン・マフマルバフ『サイレンス』とかマジッド・マジディ『太陽は、ぼくの瞳』等、イラン映画の盲目ものは結構あるな。

映画『おみおくりの作法』

2013年 監督:ウベルト・パゾリーニ
製作国:イギリス/イタリア
at ギンレイホール




主演エディ・マーサン。
この人初めて見たけど一気にファンになった。
たたずまいだけで絵になる役者なんて世界中に数えるほどしかいないけど、エディ・マーサンは確実にその一人に入る。
顔もスタイルもかっこよくもなんともないのに、スクリーンに映える静かな存在感があって。

ロンドンの民生委員、ジョン・メイ(エディ・マーサン)は、孤独死した身寄りのない人たちの身辺整理から葬儀までを行う仕事をしている。
故人の人生を調査し、本当に縁故はないのか確認し、葬儀では故人に合ったベストなBGMをチョイスする等、常に敬意を払って一人一人丁寧に送り出していく。
しかしその几帳面さが仇になり、仕事が遅いという理由でリストラされることになる。
最後の仕事として、アパートの向かいに住んでいながら全く知らなかった老人ビリー・ストークを手がけることになったジョン・メイは、彼の人生を紐解く旅に出る。

ラストの方で、何この展開、と意味がわからず呆気に取られたけど、ラストシーンでは涙がぼろぼろ出てきた。
このラストシーンのためにはそういう展開もしょうがない。

原題は「STILL LIFE」。原題の方がこの映画の空気感に合っている。

2015年10月25日日曜日

映画『Mommy/マミー』

2014年 監督:グザヴィエ・ドラン
製作国:カナダ
at ギンレイホール




施設に入院させていた15歳の息子スティーヴ(アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン)を母親ダイアン(アンヌ・ドルヴァル)が引き取りにくるところから始まる。
なんでも施設で手が負えないくらいの暴れっぷりで強制退院みたいな形らしい。
母親はけばめで頭も悪そうな感じでなんかきついかも、と思ったけど、見終わるころにはOhマミーって感じに愛しくなっている。
スティーヴはADHDで、一度キレると母親をも殺しかねない暴れっぷりを見せるが、普段はちょっとやんちゃな少年といった感じ。
父親がいないので、母親と息子の二人三脚の生活が始まる。

この映画、画面サイズがなぜか縦横1:1になっている。
だから狭い。
構図によるのか、本来写っているはずの部分が強引に切り取られているような違和感まで感じる。
と、いっても段々慣れるんだけどさ。
途中、夢シーン等で横が広がったりして、その時の開放感がすごい。

2015年10月18日日曜日

映画『真夜中のゆりかご』

2014年 監督:スサンネ・ビア
製作国:デンマーク
at ギンレイホール




スサンネ・ビアの監督作って映像の雰囲気が面白いんだよな。
乾いているようでいてその奥には悲哀とかやるせなさとかそういう重い空気が淀むように漂っている。
だからサスペンスとか人間ドラマがよく合う。

真面目な警官アンドレアス(ニコライ・コスター=ワルドー)は美しい妻アナ(マリア・ボネヴィー)と生まれて間もない赤ん坊とで幸せな日々を送っている。
ある日、通報があり以前逮捕したことのある男の家に向かったところ、育児放棄により浴室に放置されて糞尿まみれになっている赤ん坊を発見する。
同じ赤ん坊を育てている身として、この子をなんとか保護しようとするが、法の関係等で上手くいかない。
そんな時、自分の子供があーってなる。あーってなっちゃって妻は半狂乱で、追い詰められたアンドレアスは一石二鳥ばりの妙案、でも犯罪を思いつく。

最後に予告編でも謳っている「衝撃の事実」があるけど、サスペンスというよりかはその事実もまた人間ドラマのひとつになっている。
役者陣が皆鬼気迫る演技。サネ役のリッケ・マイ・アナスンなんか映画初主演らしい。